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データセンター事業者の目指すべき方向性

新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、データセンター(DC)の運営においても様々な課題が浮上している。その解消に向けた対応が急務となる一方で、コロナ禍を受けてDCに新たな役割が求められてきている。日本データセンター協会(JDCC)では、xTECH EXPO 2020で Live配信された一連のセッションを通じて、DC事業者の目指すべき方向性を解説した。

進化するDCに
最適な運用が求められる

 従来、DCには社会システムを支える「安定性」、運用コスト面での「経済性」、そして省エネ実現による「環境性」が求められてきた。「これに対し、新型コロナウイルスが社会活動に甚大な影響を及ぼす中で、DCにも新しい役割が求められるようになってきました」とJDCCの藤巻秀明氏は指摘する。それは、企業などに浸透するテレワークの基盤となり、そこでの新たな情報の共有や伝達手段を提供し、次世代ワークスタイルの実現を支援していくということだ。

 こうした要件を受けて、単独DCによる高信頼性の追求から複数DCの利用によって可用性を担保するという運用形態が増加する一方、ネットワークハブDCの重要性も高まっている。例えば、5Gの基盤を念頭にGAFA※に代表されるハイパースケーラーが、キャリアの統括局にエッジDCを展開するという動きも顕著だ。さらに、ハイブリッドクラウドの本格的普及に対応してDC間の閉域網接続による運用も拡大している。また、ハイパースケーラーが自社のクラウド基盤をラック単位で顧客のプライベートクラウドのDC内に展開するといった動きも見られるという。

 こうしたDCの形態の変化に伴い、当然、新たな運用スタイルが必要になる。「JDCCではDC運用の標準マニュアル化を進めており、プロアクティブなキャパシティ管理の考え方やインシデント発生時の標準手順の作成法、高効率運用技術、パンデミック対策など基本部分に加え、新たなDCの形態に即した運用の在り方を解説する『データセンター運用ガイドブック』を2020年12月に上梓。ぜひご活用いただければと思います」と藤巻氏は語る。

※GAFA代表的なIT企業であるグーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)のこと。

「データセンター運用ガイドブック」の概要
「データセンター運用ガイドブック」の概要

コロナ禍で見られた
トラフィックの変化

 JDCCのネットワークワーキンググループ(NWWG)では、DC事業者のネットワークエンジニアが、ネットワークに関わる様々な議論を展開している。従来は特に利用開始から10年以上を経たDCのネットワーク環境をどうしていくかといったライフサイクル管理が主要テーマだった。「コロナ禍以降には、例えばDCの入館回りの対応や、勤務シフトに関する工夫、オンラインを活用した運用アプローチなど、感染対策にまつわる事例報告や情報交換などが中心となっています」とJDCCの高澤信宏氏は紹介する。

 そうした中で、国による緊急事態宣言の発出/解除から現在までの各事業者におけるトラフィックの推移についての報告も行われている。セッションでは、高澤氏が自身の在籍するヤフーの報告内容を紹介した。ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営する同社のサーバーへのアクセスは、法人、個人を合わせた全体的な傾向として、コロナ以前には昼休みの時間帯と就寝前の22時前後にピークがあった。それが、緊急事態宣言後には昼のピークが15時ごろに移った。国や自治体による会見や、当日のPCR検査による陽性者数が発表されるタイミングの影響だと見られる。また、在宅勤務の影響か夜のピークは21時ごろに前倒しとなり、ピークトラフィック自体が10%程度増大。それ以外の時間帯でも増加が見られたという。

 「例えばモバイルアプリの号外速報のプッシュ通知が行われたタイミングでトラフィックが突出的に増大するなど、この時期には当社の歴代瞬間最大アクセス数が更新され、500Gbpsを超えるようなトラフィックの発生も見られました」と紹介する。また、IPv6によるアクセスの割合については、コロナ以前には平日で25%程度だったが、2020年8月には30%超という水準に達し、日本のネットワークインフラ整備が進んできている状況も見て取れるという。

ヤフーにおけるv4/v6のコンテンツでのv6の割合
ヤフーにおけるv4/v6のコンテンツでのv6の割合

「アフターコロナ」を見据え
DC業界内での議論を深化

 コロナ禍を受けて、各DC事業者ではそれぞれに工夫を行いながら対応に努めている。「何よりも切実な問題といえるのが、ITシステムのハードウエアの増設や構成変更などの保守対応やDC自体のファシリティの運営です」とJDCCの泓宏優氏は指摘する。

 感染対策の観点から在宅勤務が推奨されている状況だが、物理的な作業の部分はどうしても実際に人が現場に出向いてしかるべき判断の下に作業を実施する必要がある。

 JDCCの増永直大氏は「DC業界がしかるべき提言を行い、ITベンダーや設備メーカーとスクラムを組んで、ハードウエアやファシリティのリモート保守や自動化の実現に向けた取り組みを積極的に展開していく必要があります」と強調する。

 その一方では、コロナ禍の中でテレワークが浸透する中、DCに対する需要がさらに急速に高まっている。その大きな背景要因の1つとして挙げられるのが、どこからでもアクセス可能なクラウドサービスの活用が拡大していることだ。例えばWeb会議などもコロナ禍を契機に盛んに活用されるようになり、経費精算や契約業務などもSaaS活用にシフトしている企業も多い。そうしたクラウドサービスの積極的活用が、今後の企業におけるIT活用の「ニューノーマル」となっていくことは間違いない。「DC同士が単に物理的に回線でつながるだけでなく、システムの機能レイヤで連携していくといったことも重要です。『アフターコロナ』を見据え、そのあたりの議論をDC業界内でしっかりと進めていくことこそが肝要だと考えます」と増永氏は語る。

 JDCCによる一連のセッションの最後には、JDCC理事の江﨑浩氏が登場し、挨拶を行った。

 江﨑氏は、2009年のJDCC正式発足後に発生した2011年の東日本大震災においても、日本にあるすべてのDCが止まることはなく稼働を続け、日本の経済や社会活動を支え続けたことを紹介。そうした“日本品質”のDCをグローバルに展開していくことこそがミッションであることを強調した。

 「社会や技術は、そうした大災害や病疫の流行など予期せぬ事態に直面したときに変革が促進されます。今まさに我々はコロナ禍という難題に直面しているわけですが、それも我々が進化を遂げていくための試練だと捉えるべきでしょう」と江﨑氏は話す。

 JDCCではこの機を、日本品質のDCの持つ優位性を世界に改めて示すチャンスだと捉え、グローバルなデジタルエコノミーを支えるインフラづくりに貢献していくという明確な自覚と、責任感を持って精力的な取り組みを続けていく。

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