3月5日、日本IBMは「IBMビジネスパートナー・エグゼクティブ フォーラム2021」をオンラインで開催。2021年の事業戦略とパートナー協業方針について説明するとともに、2020年に日本IBMのビジネスの発展に寄与し顕著な実績を収めたパートナー企業14社を「IBM Japan Excellence Award 2021」として表彰した。また、同フォーラムでは「テクノロジーによる新たな価値共創を、皆さまとともに」を協業方針に掲げ、より強力にパートナーとの協業を進めていくための具体策などが示された。(文中敬称略)
同フォーラムは、日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏の挨拶から始まった。山口氏は「ビジネスの変革そのものとしてのDX(デジタル変革)が加速しています」と現在起きている変化を指摘し、オープンなハイブリッドクラウドとAI(人工知能)でトップランナーを標榜する同社の一連の活動を説明した。
お客様を中長期でビジネス全体を見据え、ベストなテクノロジーを提案するため「今年は営業体制やシステムの提供方法を“共創型”に大きく変えていきます。この方針のもとパートナーとの連携がさらに必要です」と語り、「インフラストラクチャー」「ハイブリッドクラウド・プラットフォーム」「ソフトウェア」「サービス」の4つの領域を挙げた。
パートナー戦略は同社の最重要戦略として明確に位置づけられている。山口氏は「従来のミドルウェアのサポートもパートナーと一緒にお客様に提供していきます。パートナーとの協業でお客様のDX成功のお役に立ちたい」と語った。
今回の「IBM Japan Excellence Award 2021」で表彰された企業は14社。日本IBMとともに顧客に価値を提供し貢献したビジネスパートナー企業が表彰され、ビデオによる各社の1分間スピーチが紹介された。(以下、受賞企業敬称略)
アワードは大きく6つのカテゴリーに分けられる。まず最初は、新しい領域やビジネスの創出に貢献した「Excellence New Business Development Award」である。これにはローカル5Gの分野でIBMのソリューションを活用した実証実験を開始した富士通と、IBM FlashSystemの優位性を生かしたビルトインビジネスのスキームを構築したコスモが受賞した。
年間で優れた販売実績を残したり、意欲的に新規顧客にアプローチしたことを称える「Excellence Sell Partner Award」には、クラウドという新たな協業エリアを開拓したJBCC、製造業を中心に中堅から大手までをカバーしたアルゴグラフィックス、アカデミック市場でIBM製品の販売に貢献したシネックスジャパンの3社が選ばれた。
自社のサービスプラットフォームにIBMの製品やソリューションを組み込んで顧客に新たな価値を提供した「Excellence Service Partner Award」は、メインフレームによる保険会社向けサービスを提供するNTTデータと、IBMソフトウェアを組み込んだモダナイゼーションサービスを提供するアクセンチュアが受賞している。
また、自社のソフトウェアやハードウェアの資産にIBMのテクノロジーを取り込んで顧客に提供した企業に贈られる「Excellence Build Partner Award」では、Cloud Pak for Dataを活用したNEC(日本電気)と、ソリューション組み込み型のハードウェアビジネスを展開したライトウェルが受賞。
IBMと協業して普及啓発活動に取り組んだことを顕彰する「Excellence Ecosystem Award」は、Webセミナーやデジタルマーケティングツールの提供に取り組んだAITと、DX人財の積極的な育成や、Power AIビジネスを推進した田中電機工業、Power AIのプロモーションを展開するリコージャパンの3社が受賞した。
さらにIBMのパートナーとしてのスキルの獲得に取り組んだ「Excellence Competency Growth Award」には、Data and AI領域のPlatinumパートナーとして多数のコンピテンシー取得者を輩出した日本情報通信と、BPMやクラウド、DevOpsなどで多数のコンピテンシーを取得したコムチュアが選定された。
さらに同フォーラムでは、今年1月にグローバルで一斉に新設したテクノロジー事業本部について、日本IBMの専務執行役員 テクノロジー事業本部長の伊藤昇氏から同事業本部新設の狙いと体制、役割が解説された。
伊藤氏は「新設の狙いはオープンハイブリッドとAIのNo.1カンパニーとして、テクノロジーの視点ですべての関係する事業部が1つになり、お客様に当社のテクノロジーの価値を提供することです」とし、新しい体制によって技術面を強化するとともに、テクノロジー戦略をシンプルに伝えていくという。
その価値を顧客に届けるうえで重要になるのがビジネスパートナーとの協業だ。伊藤氏は「パートナーとはテクノロジーを活用した共創型モデルをつくり、当社のテクノロジーとパートナーのソリューションやケイパビリティーを併せて提供し、新規のお客様を一緒に開拓していきます」と話す。
パートナーとの協業では、360度の新しいテクニカル・エクスペリエンス・ジャーニーが示された。従来のプリセールス領域だけでなく、ポストセールス領域でも技術面を支援し、切れ目のない協業を実現する。「パートナーの提案の中にエキスパートラボサービスを組み込んでもらい、グローバルと一体となって技術サポート全体を強化していきます」と伊藤氏は語った。
そして、パートナーとの協業を推進するテクノロジー事業本部 パートナー・アライアンス事業本部長の三浦美穂氏からパートナー協業方針と協業事例が紹介された。中でも注目すべきなのは、3つのタイプの協業モデルが示されたことだ。これまで多かった“Sell”に、“Build”と“Service”が加えられた。
Buildモデルはパートナーの持つソフトウェアやハードウェアのアセットにIBMのテクノロジーを組み込み、高い付加価値を顧客に提供していくものだ。今回はその代表例として、IBM CloudとKubernetes Serviceによって岡谷システムにコンテナ環境を構築したセントラルソフトサービスが紹介された。
同社の代表取締役社長の清川高史氏は「SaaS型介護事業者向け業務支援システムをコンテナ化することで、無停止でアプリケーションをいつでも更改できる環境を実現しました。開発者の負荷も大幅に低減されています」とその成果を語る。
続いてServiceモデルとして三浦氏が紹介したのが“歴史的”とされる富士通との協業事例だ。富士通の5G技術とIBMのOpenShiftを組み合わせて遠隔での設備保全を支援する実証実験がすでに始まっている。
富士通の5G Vertical Service室 エグゼクティブディレクターの神田隆史氏は「両社の技術を持ち寄り補完し合うことで社会課題の解決を目指します」と語る。パートナーの強みとIBMのテクノロジーを組み合わせてパートナーのサービス・プラットフォームの価値の拡大を目指すのがServiceモデルだ。
最後のSellモデルの事例として紹介されたのが、ECサイトや通販システムを得意とするエルテックスだ。IBM Cloudのユーザーから出発し、IBM Cloudのインテグレーターとして数多くの構築・運用の実績を築いてきた。昨年はIBMのコンテナ化のワーキンググループにも参画している。
「営業スタッフを日本IBMに教育出向させてもらったり、イベントや宣伝など共同マーケティングプログラムを利用したりしたことで、新規案件獲得の機会を増やすことができました」と同社代表取締役社長の森久尚氏は語った。また同社は参加パートナーとの共創を呼びかけた。
最後に三浦氏は「こうした協業を推進するために3つの支援策を用意しました」と語り、技術支援の強化、共創の場の提供、そして資金面の支援プログラムを紹介した。
具体的には、ハイブリッド環境のマイグレーションやモダナイゼーションを支援する「ハイブリッドクラウド・ビルド・チーム」、日本のコンテナ市場を拡大するコミュニティーである「コンテナ共創センター」、パートナーの取り組みを資金面で支援する「クラウド・エンゲージメント・ファンド」の3つだ。
「新たな価値提供の実現に向けて、支援プログラムをご活用ください。今後も3つのタイプのパートナー様を様々な形で支援していきます」と三浦氏はパートナーとの協業の強化を改めて強調した。「テクノロジーによる新たな価値共創を、皆さまとともに」という新たな協業が動き始めている。