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DXを成功させた20の事例を徹底分析

DXの必要性は理解しているが、どれほどの効果が得られるのか分からない。そんな悩みを抱えるビジネスパーソンに最適な本が出版された。『DXスタートアップ革命』だ。一見、DXとは縁遠いような業界での成功事例からは、取り組みのヒントが浮かび上がってくる。監修者の守屋実氏に本書に込めたメッセージを聞いた。
槇 隆広 氏

――DXの成功事例を20集めた『DXスタートアップ革命』を、2021年7月というタイミングで上梓したのはなぜですか。

守屋氏:コロナ禍と呼ばれる時期が1年以上続き、みんな、大変だと思います。しかし大変だと思ってばかりいては一層、辛くなってしまいます。では、別の見方をすればこの時期はどう見えるかと考えたとき、既存の価値観が覆る瞬間だと感じました。世の中のすべてが、ビフォア・コロナからアフター・コロナへと変わる瞬間だからです。ということは、すべてのビジネスにとってチャンスだと言えます。

奇しくも、ビフォア・コロナの時代からDXへの認知が深まっていました。ウィズ・コロナの今は、その概念を知るタイミングから、事例を克明に知りたい、前例から創業者の考え方や勝ち筋の見つけ方などを立体的に知りたいというタイミングに移っています。そこで、DXによっていち早くアフター・コロナ仕様を確立した企業を紹介したいと考えたのです。

個人的には、5月に出版した『起業は意志が10割』(講談社)とセットだと考えています。前著は起業家とはどうあるべきかという思いの部分に、今回の本は、どうやるのか、やった先には何があるのかにフォーカスしているからです。

――紹介されている20の成功事例は『伝統産業』『岩盤市場』、そして『コロナ禍を逆手に取った企業』という軸で整理しています。なぜこの構成にしたのですか。

守屋氏:伝統産業を取り上げたいと思ったのは、僕の原体験によるものです。僕自身がまさに伝統産業の中でDXならぬ“カタログX”を実践した当事者だからです。僕が新卒で入社したのは機械加工製品の卸売大手であるミスミで今から30年も前の時代でした。当時は人が、作る側と使う側をつないでいました。そのインタフェースを紙のカタログにすることで劇的に効率が上がり、ビジネスのありかたも変わったのです。当時はデジタルのDの字もない時代でしたからDXではないのですが、X、つまりトランスフォーメーションするために新しい手法を取り入れたという点では同じです。ただ、これはほんの一例に過ぎません。

その後、自分自身でもいくつも事業を立ち上げ、また多くのスタートアップに参画させてもらい、Xが進んでいない伝統産業では、どこでも同じ手法が通用することがわかってきました。とても横展開がしやすいのです。ですから、伝統産業で働いている方には、この軸で取り上げたアパレルの新プラットフォーム『シタテル』やものづくりを構造改革した『キャディ』といったスタートアップのDXの事例をぜひ、ご自分のインダストリーでもマネしていただきたいです。やり方を完全にマネしたとしても、結果はユニークなものになるはずです。必ずその人の個性が出るからです。ただ、上っ面だけをマネする手抜きのコピーは、劣化版をつくるだけの結果になりますので、オススメできません。

続いて『岩盤市場』ですが、ここは、ウィズ・コロナだからこそ動いた領域だと言えます。医療、教育、行政など、テコでも動かないという印象のあった市場でも、環境が変わったことで遠隔医療や遠隔授業を取り入れるなど、動かざるを得なかったのです。治療用アプリを手がける『CureApp』などはそうした変化を先取りした、象徴的な事例です。

これらの市場は、デジタル業界の人から見れば新大陸です。しかし、新大陸の冒険にはケガがつきもの。その市場のことをよく知っていながら動こうとしているインサイダーな人と、どのように手と手を取り合って、どのようにDXを実現するのか、改革の戦士たちに語ってもらっています。

最後の『コロナ禍を逆手に取った企業』は、飲食や旅行、販売や対面指導など、感染症の拡大によって存亡の危機に立たされた市場で、進化への圧力を誰よりも感じながら、堪え忍ぶのではなく進化することを選んだ企業です。コロナ禍のピンチをチャンスに変えた有志から、勇気や元気をもらってほしくてこの軸を設けました。

本書で取り上げたDXの事例
分類 会社名 マーケット 実現するDX
伝統産業へのデジタル技術投入 シタテル アパレル業界
業界初、生産からEC販売・配送までをワンストップで提供するクラウドサービス
ガラパゴス デザイン業界
世界初、デザインの工業化。デザイン領域の数値化で社会構造を改革
Seibii 自動車整備業界
自動車アフターマーケットの“当たり前”をテクノロジーで変革
ヴァルトジャパン 障がい者活躍支援
社会課題解決と経済の両立モデル。働く障がい者の活用機会を創出
CAVIN フラワー業界
1次産業最後のDX。生産者と花屋の直接取引プラットフォーム
キャディ モノづくり
部品調達領域の非効率を改革。業界や製品カテゴリのカバレッジを拡げ組織も拡大
岩盤市場のデジタル変革 CureApp 医療業界
保険適用の治療アプリ。「デジタル療法」で治療の可能性を高める
ドクターメイト 介護市場
介護と医療を取り巻く連携の課題をDXで解決
日本クラウドキャピタル 投資・資金調達
国内のリスクマネーの供給量が少ないという課題を解決
ミーミル コンサルティング市場
価値ある知見の蓄積と流通を行う新時代のエキスパートプラットフォーム
Public dots & Company/スカラ 社会課題解決
企業が募集し、自治体が提案する。逆転の発送で官民共創の動きが加速
みんなのコード/品川女子学院 教育現場
教育のDXを進め、デジタルで価値を創造できる子どもたちを育てる
滋賀県日野町/東京都北区 行政
変わる行政。民とのパートナーシップで新しい形の課題解決へ
ONIGILLY 米国飲食産業
「おにぎり」を世界に広める。全米500店舗に挑戦
コロナ禍を逆手に取ったイノベーション タイミー 働き方
ワーカーの管理を一元化。企業の採用業務やコストを劇的に改善
リゾートワークス ワーケーション
日本初、ワーケーション体験を促進するプラットフォーム
助太刀 建設業界
建設現場で働く人たちをDXで支える業界一のマッチングアプリ
MOSH サービス販売
個人をエンパワーメントするサービス領域のCtoCプラットフォーム
asken 栄養指導
少数限定の対面式から圧倒的多数へ。食生活改善・栄養指導をオープンに拡大
TOUCH TO GO 無人販売
労働力不足と賃金上昇にあえぐ小規模小売業界を「無人販売」で救済

――20の組織選びはどのように進めたのですか。

守屋氏:紹介した20の組織は、いずれも変革をやり抜き、あるいはその途上にありながら成果を出してきたところばかりです。20の事例を読んでもらえれば、やりようがたくさんあることがわかります。いまのコロナ禍を悲観ばかりしていたら、悪い方向にしか行きません。だから、頑張っている人たちの姿を参考にして、少しでも前向きになってもらえるように、縮こまっている日本に元気を与えるような企業・団体を選びました。

選定には、ベンチャーキャピタリストなど様々な専門家を集めて、かなり時間をかけています。ですから、このセレクトには自信を持っています。

起業家の熱意を感じ取ってもらいたかったため、それぞれの事例では彼ら自身の言葉も多く掲載しています。同じ事例を紹介するにしても、経営者が出てきて自らの言葉で語るのと第三者が整理して紹介するのとでは、読み手の手触り感が全く異なるからです。

ほかにも、制作過程で時間をかけたところがあります。たとえば、どこまでマニアックに書くか。何でも詳しく細かく書けばいいかというとそうではないし、あまりにも抽象的だと伝えたいことが伝わりません。特に『岩盤市場』では、その市場独特のルールやしきたりが多いので、それを知っている人向けと知らない人向けでは、書き方が全く異なります。最終的には、どうしたらこれらの事例をより参考にしてもらいやすいかを最優先に調整しました。

タイトルにはスタートアップと入れましたが、スタートアップ以外も取り上げています。具体的には、『東京都北区』や『滋賀県日野町』といった自治体、教育現場である『品川女子学院』も取り上げました。スタートアップだけですと、大企業や自治体で働いている方には他人事に感じられてしまうのではないかと思ったからです。でも、最初にお話ししたように、この本はあらゆる人に読んでほしい、読んで参考にするだけでなく動くきっかけにしてほしいので自治体や学校、さらには『TOUCH TO GO』のように、JR東日本という大企業が関わるケースも取り上げました。こうした組織がここまでやっているとわかれば、一般的な企業はできない理由を失います。

――評判はいかがですか。

守屋氏:まだ発売から10日ほどですが、反響の大きさを感じています。予想以上に目立つのは、自治体のDX担当者からの声です。おそらく、参考書として読んでいただいているのだと思います。

なかなか気がつきにくいかもしれませんが、今は、見方によってはいい時代です。無料で使えるデジタルツールが溢れていて、小さな組織であっても動きやすくなっているからです。むしろ、小さな組織に有利な時代と言えるでしょう。遠くが見通せる時代は大きな組織で一体となってそこを目指すのが効率的ですが、先が見えない時代には細かく動くことに優位性があるからです。

では、志ある小さな組織が動くためのハードルが下がったからといって、それによって得られるリターンが小さくなったわけではありません。相変わらず、成功によって得られるリターンは大きいままです。であるとしたならば、環境の変化を不服に感じたまま、何もしないでいることは、とてももったいないことだとご理解いただけるのではないかと。

――どんな人に読んで欲しいですか。

守屋氏:一番に読んで欲しいのは、今すぐに動く人です。ただ、世の中のすべての人が動く人かというと、そんなことはない。動く人についていこうとしている人にも読んでほしいです。なぜなら、ついていこうとしている人にとっては動く人の胸の内がわかるし、今回はついていく人も、いつかは自分で動くかもしれないからです。

できれば、動く人の足を引っ張る人にも読んでほしい。そして、足を引っ張るのを辞めて、せめて傍観してほしいなと思います。それが、我が国の経済状況を改善させていくからです。

この本はDXの本ではあるのですが、DXという手段を推奨するつもりでまとめたわけではありません。DXはDではなく、Xが主役なのです。つまり、トランスフォーメーションすることが大事で、その手段としてデジタルの力を使うことが賢明ということです。未来を切り開いていこうとしている人の一助になればという思いで、先んじている人の考え方や取り組みを選び、取材して伝えようとしました。今のままではダメだとわかっている人、これからの時代を自分の手でつくりたい人に、ぜひ読んでもらいたいです。

守屋 実 氏
守屋 実(もりやみのる)
株式会社守屋実事務所
代表取締役社長

1992 年、ミスミ入社、新規事業開発に従事。2002 年、新規事業の専門会社エムアウトをミスミ創業者の田口弘氏と創業、複数事業の立ち上げと売却を実施。2010 年、株式会社守屋実事務所を設立。新規事業創出の専門家として活動。ラクスル、ケアプロの立ち上げに参画、副社長を歴任後、ジーンクエスト(ユーグレナグループ)、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会、サウンドファン、ブティックス、SEEDATA(博報堂グループ)、AuB、みらい創造機構、ミーミル(Uzabase グループ)、JCC、テックフィード、キャディ、セルムなど数々の企業の役員、理事などを歴任。JR 東日本スタートアップのアドバイザー、JAXA 上席プロデューサー、博報堂フェロー、内閣府の有識者委員、中国山东省の人工智能高档顾问などを務める。2018 年にブティックス、ラクスルを2 カ月連続で上場に導く。著書に『新しい一歩を踏み出そう!』(ダイヤモンド社)。近著は『起業は意志が10 割』(講談社)。同書では、起業に対する考え方や取り組み方のポイントなどの解説を通し、起業のスピリットが紹介されている。

日経MOOK DX スタートアップ革命
  • 書名:日経MOOK DXスタートアップ革命
  • 監修:守屋 実
  • 定価:1980円(10%税込)
  • 発売日:2021年7月
  • ISBN:978-4-532-18332-5
  • 並製/A4変型判/116 ページ
  • 発行:日経BP 日本経済新聞出版本部
  • 発売:日経BPマーケティング
  • https://nikkeibook.nikkeibp.co.jp/item-detail/18332