日経クロステック Special

広がる応用の可能性 製造業への時代の要請にインクジェット技術が応える

広がる応用の可能性 製造業への時代の要請にインクジェット技術が応える
業界を超えてあらゆる製造業企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実践と持続可能な事業体制構築の両立を求められている。その実現には、ものづくりの手法自体にイノベーションが必要になってきた。インクジェット技術を活用した共創に取り組むセイコーエプソンの内田昌宏氏と三井化学の善光洋文氏が、インクジェット技術の産業応用に秘められた可能性と共に目指す新たな製造業の姿について語った。

インクジェット技術の活用で
製造業でのDXを実践

──インクジェットプリンターは、オフィスや家庭などで文書や写真を手軽に美しく印刷する手段として広く使われています。こうした身近な場面以外にも、利用シーンはあるのでしょうか。

内田 実は産業用のプリンターとしても広く利用されています。例えば、幅64インチの大判の紙へのポスターなどの印刷、建築用CAD図面の出力、屋外に置く耐久性が求められるポスターなどの印刷に向けたレジンインク対応、Tシャツの絵柄を印刷する昇華転写方式のアパレル向けなど、幅広く産業用プリンターを提供しています。

善光氏
三井化学
新事業開発センター長
善光洋文

善光 私は初めて購入したプリンターがエプソンの「PM-700C」でした。初めて妻と一緒に写真を載せた年賀状を印刷したときはとても驚きました。自分たちが撮影した写真が、美しく、しかもいつでも印刷できることに感動したのです。それまで芋版や簡易的な印刷キットで作っていた年賀状とは大違いでした。今思えば、まさにデジタル化によるイノベーションを体感した瞬間でした。現在、デジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネス改革が、製造業でも話題になっています。インクジェット技術の活用そのものが、DXにつながるのではと期待しています。

内田 インクジェット技術の活用が、DXそのものとは嬉しいお言葉です。高い評価をいただきありがとうございます。一般には、業務の中でネットワークやクラウドなどICTを活用することがDXという認識があるように思います。製造業のハードウエア・プラットフォームであるインクジェット技術の利用が、なぜDXにつながると感じられたのでしょうか。

善光 DXとは、デジタル技術を使って、新たな感動を生む価値を創出することだと思うのです。スマートフォンが登場した当初、その価値をすぐには理解できませんでしたが、今やその利便性から肌身離さず持ち歩く生活が始まりました。これこそがDXです。

 初めてインクジェットプリンターを使って感じたのも同様の感動でした。おそらく、様々な産業分野に適用できれば、同じような感動が生まれ、社会や生活が変わっていくのではと確信しています。

 例えば従来Tシャツを作るには大量生産が前提だったのが、インクジェットプリンターを使えば、自分だけのTシャツを1枚から作れるわけで、製品設計やマーケットの多様性が格段に広がります。こうした生産手法の革新によって、ビジネスの形態は明らかに変わってくることでしょう。

内田氏
セイコーエプソン
IJS事業部 事業部長
内田昌宏

内田 現時点の産業応用ではグラフィックスの出力が中心ですが、新たな価値を持つ生産装置・加工装置としての応用を拓くことができるのではないかと考えています。

 インクジェット技術の最大の特長は、必要な場所に、必要な量の材料を、制御情報に基づいて緻密に配置できることです。この特長を生かせば、最小限の材料での環境負荷の低い生産や、オンデマンドでの生産、段取り替えなしでの複数製品の作り分けなどが可能になります。例えば有機ELディスプレイやバイオセンサーなどであっても、インクジェット技術の長所を生かすことで、これまで以上に付加価値の高いものづくりが実現できると確信しています。