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富士通と日本IBMがローカル5Gで協業

企業が5G(第5世代移動通信システム)を用いて独自のネットワークを構築できる「ローカル5G」の分野で、富士通と日本IBMが手を組んだ。技術検証にとどまることなく、具体的なソリューションについて実証実験を行い、将来的には日本企業にサービスを提供するというパートナーシップである。2025年に3000億円規模(※)とも予想される市場に向けて両社はどのように連携していくのか。この歴史的な協業の推進役である富士通 執行役員常務の島津めぐみ氏と日本IBM 常務執行役員の三浦美穂氏に話を聞いた。

(※)電子情報技術産業協会(JEITA)の「5Gの世界需要額見通し」
https://www.jeita.or.jp/cgi-bin/topics/detail.cgi?n=3900&ca=1

ローカル5Gの専門組織を新設した富士通

島津めぐみ氏
富士通株式会社
執行役員常務
デジタルインフラサービスビジネスグループ長
島津めぐみ氏

――富士通は昨年、5Gやローカル5Gを推進する専門組織を立ち上げました。どのような戦略をお考えでしょうか。

島津当社は2020年から会社の存在意義を示す「パーパス」を定義し、すべてのビジネス目標をその実現に向けて設定しています。なかでも5Gやローカル5Gは人、モノ、サービスがリアルタイムにつながる社会を実現し、多くの社会課題の解決に貢献するものです。

 しかし5Gは新しい分野であり、具体的なユースケースは見えていません。そこでネットワークという分野に閉じるのではなく、当社の製品やサービスを連携させるための横断的な組織を社長直轄で新設しました。新たな試みであるポスティング制度を適用した第1弾の組織という位置づけでもあります。


 新設した5G Vertical Service室の戦略は、5Gなどのワイヤレスでできることをバーティカルにお客様に提示することです。当社の製品だけでなく、強みを持つパートナーとは積極的に組んで最大価値提供を目指しています。そのための取り組みとして、実際のローカル5Gを利用可能なコラボレーションラボを準備し、独自のパートナーシッププログラムを多くのパートナーに提供しています。

三浦美穂氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
常務執行役員
テクノロジー事業本部 パートナー・アライアンス事業本部長
三浦美穂氏

――日本IBMはどのような戦略をお考えでしょうか。

三浦当社が注力しているのはエッジコンピューティングの分野です。IoTによって大量のデータが収集されますが、それをすべてクラウドに集めるのではなく、発生源に近い現場で処理してから活用しようという方法です。工場の生産設備から自動車、医療機器、商品棚に至るまであらゆるエッジが対象になると考えています。

 様々な業界でエッジコンピューティングの活用を支援していますが、重視しているのはオープンなテクノロジーを採用することです。市場がオープンであることを求めていますし、オープンの上で最適なソリューションを組み合わせるベスト・オブ・ブリードが当たり前になっています。

5Gに求められる具体的な活用イメージ

――今回、ローカル5Gの分野で協業することになった背景について教えていただけますか。

島津当社の強みは長年のキャリア向けビジネスで培った通信分野の技術力とパートナーとの幅広いエコシステム、そして多くのお客様がいることです。お客様から「何かをやりたい」と言われたときにすぐに対応できる基盤を持っています。

 ローカル5Gの課題は利活用のイメージやメリットが具体的になっていないことと、投資対効果が見えないことです。さらに通信分野の技術の進化が速く、スピーディーに対応しなければ技術が陳腐化してしまうという状況もあります。パートナーの力も借りて実用的なソリューションをスピーディーに提供しなければなりません。

島津めぐみ氏
「スピーディーに対応しなければ技術が陳腐化してしまう。パートナーの力も借りて実用的なソリューションをスピーディーに提供しなければなりません」

 そんなときに日本IBMからIoTプラットフォームである「IBM Maximo」を使った実証実験の提案がありました。設備保全などの具体的なソリューションがあり、技術的な実証実験で終わるのではなく、バーティカルなソリューションに進化させることができます。私自身もSEとしてMaximoをお客様に導入した経験があり、グローバルでも広く使われている強いソリューションという印象を持っていたことも協業の決断を後押しする要因になりました。

三浦新設の専門組織ができたと聞いてお声がけをしたのですが、Maximoをよくご存じだったのでご縁を感じています。今は最初の段階として、富士通様のローカル5G環境と、IoTプラットフォームとして進化したIBM Maximo、IBM Cloud上のOpenShiftの接続性を試しています。

 ただ、今回は技術的な接続検証だけではなく、ユースケースを想定したテストを行っていくので、お互いにアイデアを出し合って実践的なシナリオを用意することに時間をかけました。次のステップでは、オープンな基盤の上で富士通様や他のパートナーのアプリケーションも稼働させ、エコシステムの共通プラットフォームとしての検証を進めていきます。

実証実験を通して新たな知見を共有する

――今回の実証実験は双方にとってどんなメリットがあるのでしょうか。

島津5Gのサービスをお客様に提供していくのは1社ではできません。当社としてもパートナーづくりに取り組んでいるところです。日本IBMにはMaximoという具体的なソリューションがあったために一気に加速しました。

 技術の話をしてもお客様に「それで何ができるの」と言われてしまいますが、様々なデータをつなぎ合わせるMaximoというソリューションが示されたことで5G利活用の実践的なイメージが湧いてきました。

 今回の実証実験はプラントや製造現場での障害対応の遠隔支援を想定しています。現場の映像をローカル5Gとクラウドを経由して遠隔支援者に送り、AI(人工知能)や人による指示をもとに映像に指示を追加して送信し、現場は映像の指示に従って作業するというイメージです。

三浦これからの展開を考えるとワクワクしてきます。オープンであることも評価していただいたので、実証実験のプロジェクト名は富士通様の「Edge & Cloud」戦略にオープンをつけて「Open-Edge & Cloud」と名付けました。

 第2段階では、OpenShiftというオープンな基盤の上でISV(独立系ソフトウェアベンダー)やシステムインテグレーターのパッケージが動かせるようなエコシステムのためのプラットフォームを構築できます。こうした実証実験の結果を2社で共有できることには大きな意味があると考えています。

三浦美穂氏
「これからの展開を考えるとワクワクしてきます。実証実験の結果を2社で共有できることには大きな意味があると考えています」

島津オープンという多くのソリューションが集まる土台ができると、お客様からはインテグレーションのニーズが出てきます。インテグレーション力を強みとする当社のSEが活躍できる場ができるわけです。

5Gの普及でビジネスモデルも変化する

――富士通とIBMがともにソリューションを開発するというのはこれまでになかったことではないでしょうか。

島津IoTが普及していくと想像もつかないくらいのデータ量が発生します。5Gなしでは対応できません。バーティカルなサービスを提供して企業のDX(デジタル変革)に貢献していくというのが当社の使命であることは変わりません。今回の協業には大きな期待がかかっています。コンソーシアム的ではなく実用的な成果を上げるために、できるところはどこまでも協業していきます。

三浦確かに今回の協業は過去のことを考えると歴史的なことかもしれませんが、お客様に届けられるものにする、ということは両社の共通した想いです。早く具体的な形にしてソリューションとして提供し、お客様への導入事例を共同でプレス発表したいと考えています。新たな時代のパートナーシップとしてスタート地点に立った気分です。

島津大量のデータが送信でき、あらゆるものが超低遅延でつながる5Gの時代になると、ビジネスモデル自体が大きく変わってきます。私たちのビジネスモデルも変わっていかなければなりません。

 分担するのではなく、一体となってお客様に向き合わなければ、真の貢献は実現できません。今、その試行錯誤が始まったところですが、10年後にはそれが当然の世界になっているのではないでしょうか。

左から島津めぐみ氏、三浦美穂氏
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