日経クロステック Special

イノベーション創出には異業種の知の融合が必須 理想的な共創の場で開発が加速

イノベーション創出には異業種の知の融合が必須 理想的な共創の場で開発が加速
どんなに高度な専門的知見を持っていても、今や自社だけで製造業に新たな価値をもたらすようなイノベーションを創出することは困難だ。異質な物質の組み合わせによる化学反応で新たな性質を持つ物質が生まれるように、価値あるイノベーションは、異分野の知の融合によって生まれる。セイコーエプソンの内田昌宏氏と三井化学の善光洋文氏が、製造業でイノベーション創出が求められている時代背景と、共創の価値について語った。

製造業ビジネスの持続的成長を目指して
インクジェット技術の応用開発で共創

──これまでの製造業の使命は、世の中を豊かにする便利な製品を開発・製造・提供することでした。ところが近年、さらなるビジネスの成長を目指すためには、従来のものづくりにとどまらない、新たな価値を持つビジネスの実践が求められています。

善光 三井化学では、ビジネスモデル自体の見直しの必要性を感じています。これまでは、化学反応を助ける触媒の改善でプラスチックの生産効率を向上させ、大量生産によるコスト低減と高品質化を追求すればビジネスが成立していました。最近の大きな環境変化を見ると、従来の素材提供型のビジネスだけでは持続的成長は難しく、社会課題視点のビジネスへ転換しようと試みています。

内田氏
セイコーエプソン
IJS事業部 事業部長
内田昌宏

内田 セイコーエプソンも同様です。ものづくりに注力し、良い製品を開発し、大量に提供していくことを目指して事業を進めてきましたが、それだけでは社会の要請に応える事業を展開できないと考えています。当社は2021年4月に新たな長期ビジョン「Epson 25 Renewed」を打ち出しました。その中で、デジタル技術によって人・モノ・情報・サービスがつながる世界を提供し「持続可能でこころ豊かな社会」を共創していくことを明記してビジネス改革に取り組んでいます。

善光 私たちは2013年頃より、当初は利益の7割を占めていた基礎化学品中心の製品構成から、自動車、ヘルスケア、フード&パッケージングの3成長領域において、課題解決型の素材を提供することでポートフォリオチェンジを図りました。今では利益の7割がこうした成長事業が占めるようになりました。さらなる成長へ向けて新事業開発センターを設立し、異分野のベンチャーや大企業と協業して社会課題(ペイン)を解決する製品やサービスの創出に挑んでいます。その中でデジタル技術を活用する新事業も探究しています。

内田 ビジネス改革を推し進める上で、新たな発想を社外から取り入れることは極めて重要になってきますね。三井化学とセイコーエプソンは、共に出資し戦略的提携を結んでいる、プリンテッドエレクトロニクス関連のスタートアップ企業、エレファンテックを通じて知り合えましたが、こうした共創の場が未来を拓くきっかけを作り、取り組みを加速すると考えています。

 お客様のご要望からの気づきは年々増えています。そのご要望や問題に対し、私たちは吐出制御条件を見直したり、インクの物性に対して改善のアドバイスをしたりすることができます。しかしながら、自分たちの発想だけでは、自社技術の範囲内での試行錯誤となってしまう場合があります。基材の特性や、前後工程における制約条件は様々で、そこまで踏み込んでの提案はなかなかできません。そういった特殊な素材やプロセス面を含めてお客様と一緒に試行錯誤すること、それ自体が新たな技術開発のきっかけになることもあると思います。

善光氏
三井化学
新事業開発センター長
善光洋文

善光 その通りですね。現在、化学産業でも、スマート化(ICT活用)がキーワードの一つになっています。プラントの稼働状態を示すデータをリアルタイムで取得し、AIを使って故障予知や効果的なメンテナンスに役立てる技術の活用などが検討されています。ただし、こうした取り組みは、社内の生産技術の高度化・効率化や働き方改革には貢献しますが、新事業が生まれるわけではありません。

 これまで三井化学は、一般消費者のニーズに直接触れる機会が非常に少なく、何が求められているのか、あるいは私たちの技術がどのような新しい市場価値を生み出せるかを知ることが困難でした。また、ICTのようなデジタル技術に関する深い知見を持っているわけでもありませんでした。そこで新事業を創出するには、外部企業との共創を通じて、社外の価値観や知見、手法を積極的に取り入れていくことが不可欠だと考えたのです。