日経クロステック Special

コロナ禍によるビジネスの変化に対応 チケッティングサービスのIT基盤をクラウドに転換した「ぴあ」の選択

時代の変化に合わせて
ITインフラの見直しを図る

 『チケットぴあ』で知られるぴあのチケッティングサービスは、1984年に日本初のオンラインチケット販売サービスとして始まった。インターネットが本格普及する10年以上も前の話である。当初は専用線でネットした自社店舗での販売や電話予約からスタートしたが、その後、パソコン・携帯電話によるインターネット予約、コンビニエンスストアでの発券サービスなど、技術の進歩とともに、サービスとしての利便性を高めていった。

 コロナ禍の影響で現状は変化しているが、2020年3月末時点では『チケットぴあ』の会員数は1750万人を超え、年間に販売するチケット枚数は約7500万枚にも上っている。当然、そのサービスを管理するチケッティングシステムには高い可用性と安定性が求められるので、同社は堅牢なオンプレミスを基盤として運用していた。

ぴあ
システム局 局長 兼
CISO室 室長
山田 武史

 しかし、同社は2018年頃から、長年使用してきたオンプレミスの基盤をクラウドに移行することを検討し始める。その理由について、「社会やビジネスニーズの変化に、俊敏に対応できるITインフラ環境を整えたかったからです」と語るのは、ぴあ システム局 局長 兼 CISO室 室長の山田武史氏である。

 「ぴあは、出版からチケッティング、コンテンツビジネスと、時代の変化に合わせながら、事業の幅を俊敏かつ柔軟に広げてきました。同じように、ビジネスを支えるITインフラも時代とともに進化を遂げなければならない。そう考えて、クラウドシフトという時代の潮流に沿った積極的なIT投資戦略を推進しています」(山田氏)

 クラウド化への具体的なステップとして、まずチケッティングシステムのITインフラをオンプレミスからクラウドに全面移行し、次にアプリケーションをクラウドネイティブ化することを目指している。これをなるべく短期間で実現し、目まぐるしく変化するエンタテインメント業界のトレンドに俊敏に対応しながら、時代が求めるサービスをいち早く提供できる体制を整えたいと考えている。

 「コロナ禍によって、会場でエンタテインメントを楽しむことが制約され、オンラインコンサートやVR(仮想現実)によるエンタテインメント体験の需要が高まるなど、トレンドはどんどん移り変わっています。そうした変化に柔軟に対応できるシステムづくりを目指したい」と山田氏は明かす。

可用性、安定性を兼ね備えた
クラウドサービスを求める

 ただし、どんなに高い柔軟性を持ったITインフラでも、十分な可用性や安定性を兼ね備えたものでなければ意味がない。

 とくにチケッティングシステムは、ぴあの基幹事業を支えるミッションクリティカルなシステムであり、24時間365日の安定稼働や、高い可用性が求められる。その要件をしっかり満たせるITインフラでなければ、移行は難しいと考えていた。

 「『チケットぴあ』では、コンサート開催日の直前や、人気アーティストがラジオ番組でコンサート告知を発表した直後など、瞬間的に予約が殺到することが頻繁にあります。短時間で大量の予約を正確に処理するためには、非常に高い可用性が求められるのです。クラウドでは、それが十分に担保できないのではないかと不安に感じていました」と語るのは、移行プロジェクトをリードした野崎氏である。

 一方で野崎氏は、オンプレミスからクラウドに移行すれば、運用コストの管理は容易になるのではないかと考えた。

 ぴあのチケッティングシステムは、会員数やチケット販売枚数の増加とともに、年々その規模を拡大していた。新たな機能を次々と増設し、「まるでスパゲティのように入り組んだ複雑なシステムが、年を追うごとに膨れ上がっていました」と野崎氏は説明する。当然、それを支えるオンプレミス基盤の運用コストも、右肩上がりで大きくなった。

 「従来は、売り上げも継続的に伸びていたので、コストの増額分を何とか吸収できていました。しかし、コロナ禍で売り上げが大幅に落ち込んだことで、それも立ち行かなくなってしまったのです」(野崎氏)

 オンプレミスのままだとコストコントロールは非常に困難だが、クラウドなら、ビジネスの状況に応じて柔軟に調整できる。そうした柔軟性と、高い可用性、安定性を兼ね備えたクラウドサービスはないかと、ぴあはいくつかのパブリッククラウドを検討した。

 野崎氏は、「残念ながら、“オンプレミスネイティブ”な弊社システムのアーキテクチャーを適合させられるクラウドサービスはほとんどありませんでした。ハードウェアからソフトウェアまで迫ってくるEOSLにやむを得ず、一時はオンプレミスからオンプレミスへの移行も考えたのですが、オラクルが提供するOracle Exadata Cloud Serviceと出会って、『これならいけそうだ』と感じ、PoCをしてみることにしました」と振り返る。

チケット流通事業を支える
世界最先端のシステムを目指す

 Oracle Exadata Cloud Serviceは、オラクルのパブリッククラウドであるOracle Cloud Infrastructure(以下OCI)上で提供される高速データベースサービスだ。

 野崎氏は、このサービスに注目した理由について、「オンプレミスと同等の性能や安定性が担保されていることに加え、高い性能要件を満たしながらコストは柔軟にコントロールできること、セキュリティの高さなどを評価しました」と説明する。

 また、セキュリティの高さについては、「チケッティングシステムが扱うチケットは“金券”なので、常にサイバー攻撃などのリスクにさらされています。オンプレミスのシステムでは、データ配置のロケーションを外部から隔離することに安全担保の比重を置いていましたが、パブリッククラウドである以上、データそのものにも一定のセキュリティレベルが必要です。データ暗号化技術などによって、そのリスクを抑えてくれる点にも魅力を感じました」と野崎氏は語る。

 ぴあは、入念なPoCを重ねた上で、2021年にOracle Exadata Cloud Serviceの導入を正式に決定。現在、2023年1月の稼働に向けて準備を進めている。

 稼働準備に当たっては、オラクルが提供するコンサルティングサービスを利用している。このサービスが利用できることも、同社がOracle Exadata Cloud Serviceを選定した理由の一つだ。野崎氏は、「オラクルの支援サービスなのに、同社の製品周りだけでなく、アーキテクチャー全体を俯瞰しながら提案やサポートを行ってくれるのがありがたいですね」と高く評価する。

 Oracle Exadata Cloud Serviceの稼働によってチケッティングシステムの移行が完了すれば、次のステップであるアプリケーションのクラウドネイティブ化も、いよいよ本格始動する。山田氏は「チケット流通事業を支える世界最先端のシステムを作り上げたい。ミッションクリティカルなシステムをクラウドで動かせるようになれば、それが一気に実現するのではないかと期待しています」と語った。

チケッティングシステム構成概略

ぴあのチケッティングシステムは、ニーズの変化や新しいサービスの投入とともに、どんどん大きくなっていった。その分、ITインフラの規模も拡大し、運用やコスト管理の合理化が求められていた。