
なぜ多くの企業が、SAP BTPを使い始めているのか? 企業固有の戦略的な取り組みやプロセスなどに注力するためにITによる変革を実施している、半導体製造装置や医用機器を手掛ける日立ハイテクの事例で説明していこう。
「SAP S/4HANAの旧バージョンであるSAP ERPを使われてきたお客様の多くが、アドオンによってカスタマイズを進めてきた結果、『アドオンお化け』とでも言うべき状況を経験されています。そこでSAPでは、SAP S/4HANAのカスタマイズをSAP S/4HANA内でのアップグレードに影響を与えない拡張手段に加え、SAP BTP側に外出しする『Side-by-Side』アプローチの両面を提案しています」と、本名氏は説明する。
日立ハイテクは実際にこの考え方を採用し、SAP ERP時代に作り込んできた9000本を超えるアドオンを500本余りに削減した(※1)。
同社はSAP S/4HANA Cloudへの移行に際して、いわゆるFit-to-Standardの方針に基づき、アドオンを極力削減。一方、入力画面、バッチ処理、システム間インターフェースなどはSAP BTPで開発した。SAP S/4HANA Cloudをできるだけクリーンに保つことで運用負荷が軽減され、かつ、SAP S/4HANA Cloudのバージョンアップによる新機能を速やかに利用できるようになった。
「日立ハイテク様の取り組みでご覧いただけるように、SAP BTPを活用することで戦略的に変革を実現されており、『変わらない部分』をできるだけクリーンに保つことで、より柔軟性を持って『変わる部分』を進化させることができると考えます」(岩渕氏)
*1 参考記事:ERPコアをクリーンに保つ。その目標実現のためにSAP BTPによるSide-by-Side開発を推進する日立ハイテク Vol.1 - SAP Japan プレスルーム

なぜこのようなことが可能になったのか? その背景をひも解いていこう。
実はSAP BTPは、新しい機能群ではなく、既にクラウドアプリケーションの開発においてSAP自身が使っている。ユーザー企業やパートナー自身が、Side-by-Side開発として新たに実装する際に親和性が高いことも理由の一つに挙げられる。
また、ユーザー企業がプロジェクトとしてさらに活用しやすい形での提供も行われている。SAPが持つグローバルな知見を反映した3400種類以上の定義済みコンテンツと、他社アプリケーションを対象にした250以上のコネクターが用意されているため、実装の効率に優れるほか、ローコード/ノーコード機能を活用してアプリケーションを開発したり、プロセスの自動化(SAPではエンタープライズオートメーションと呼んでいる)も可能となる。
さらに、SAP BTPの90以上の機能群の中でも、一番利用が多い機能として挙げられるのが、「インテグレーション」機能である。
例えば、SAP S/4HANAで構築された基幹システムと、他のソリューションで構築された人事システムやCRMシステムがあったとしよう。それぞれのシステムにログインして、それぞれでデータの参照や更新を行うのは効率が悪くミスも出やすい。また、データを連携させる社内アプリケーションを開発しようとすると、工数もかかりメンテナンスも必要になる。
ここにSAP BTPの価値がある。SAP BTPには、オンプレミスかクラウドか、社内外のシステムかを問わず、プロセス、サービス、イベント、アプリケーション、およびデータをつなぐ「SAP Integration Suite」という機能が備わっているからだ。
「例えば、人事部門で採用が決まったときに、人事システムから基幹システムにデータを渡して執務用のパソコンを発注する、といった自動化ワークフローも定義済みコンテンツを利用して簡単に作成することができます。なお、お客様がSAP S/4HANAで基幹システムを構築したときに、他のシステムとの連携やユーザーエクスペリエンスの一元化を図るために、実はSAP BTPが裏で動いているケースも少なくありません」(本名氏)

SAPは、2023年11月2日から3日にインドのバンガロールで開催したイベント「SAP TechEd 2023」で、「SAP Business AI」戦略の実現に向けて、新たなテクノロジーの発表も行った。
「同イベントの一番のトピックは、生成AIでしょう。SAPの様々なソリューションに取り込んでいくだけではなく、基盤であるBTPの開発ツールにも取り込んでいく点も発表されました」(本名氏)
SAPは、業界固有のデータとビジネスプロセスの深い知識を活用して、SAP Business AIを提供し、その結果の信頼性を確保するために、主要アプリケーションに組み込んでいる。さらに今回の発表により、データ管理の基盤(SAP HANA Vector Engine)・最新の生成AIテクノロジーを組み込めるハブの提供(Generative AI Hub)・生成AIを活用したアプリケーション開発基盤(SAP Build Code)までをカバーする、企業の持っているデータを活用した生成AIアプリケーションを構築できるようになる。
今まで課題であった、生成AIの持つ学習済みデータベースだけではなく、企業固有のデータをどのように企業向け生成AIとして活用したらいいのか、という点についても、解決の糸口を与える形になった。
さらに、クラウドアプリケーションでは、ユーザーエクスペリエンスを高めるために、AIアシスタントの「Joule(ジュール)」が搭載され、様々なビジネスシナリオに対応されていく予定だ。例えば、営業実績が未達のときに、確度の高い案件をバブルチャートで表示したり、最近の営業活動のサマリーを出力してくれるような問い掛けができる。
その他、SAPの様々なソリューションに生成AIテクノロジーを組み込んでいく計画だ。
「生成AIの利用を禁止している企業もあるかと思いますが、SAPは生成AIに関してセキュリティーや信頼性をしっかり担保していきます。SAP BTPの活用に加え、SAPが提供する生成AIの活用にぜひチャレンジしていただきたいと思っています」と本名氏は訴求する。
最後に、岩渕氏は次のように述べた。「先ほどもご説明したように、デジタルを活用した改革において、『変わらない部分』を支えるのが基幹システムのSAP S/4HANAであり、『変わる部分』を効率的に実装する手段がSAP BTPです。SAPは、年間売上高のおよそ20%という莫大な額を研究開発に投資していて、生成AIの開発もその一環です。こうした新しいテクノロジーも活用しながら、引き続きお客様の改革をサポートし成長のお手伝いをさせていただきたいと考えています。SAPが提供するテクノロジーの、さらなる進化にも期待していただければと思います」。
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