オフィスに一段と求められるようになってきたクリエイティビティとコミュニケーション。その向上につながる環境として木質空間に目が向きつつある。2023年7月、オフィス移転に伴い床に天然木の建材を採用したのは、小堀哲夫建築設計事務所だ。その決め手を、同社代表取締役の小堀哲夫氏に聞いた。
(聞き手:日経BP総合研究所 上席研究員・小原隆)

新しくオフィスを移転されました。狙いはどこにあるのですか。

小堀 まずワンフロアにまとめようという狙いです。移転前は3フロアにまたがっていたため、互いの様子が分からないという課題がありました。手狭になってきたということも重なり、物件を探していたところ、このビルに空きが見つかったのです。新型コロナ禍で需要が落ち込んだため、賃料が下がっていたことも背中を押しました。

 移転にあたっては3つのことに挑戦しました。オフィスや家具の設計を手掛けることもありますから、移転プロジェクトを将来に生かそうという狙いです。

 第一は、「プロジェクト・ベースド・ワーキング(PBW)」の発想を取り入れてみることです。最近は「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」が主流ですが、誰がどこで何をしているか把握しにくいなど課題も指摘されています。そこで、プロジェクトチームの単位でまとめてみては、という発想です。

 第二は、「PBW」と対になるものとして「ビッグテーブル」を置いてみることです。「ABW」には課題があると申し上げましたが、フリーアドレスに対応した場所も用意したい。そこで、オフィスの真ん中に巨大なテーブルを置いて、仕事の場として誰もが自由に使えるようにしてみてはどうか、と思い付いたのです。

 第三は、オフィスや家具の設計だけでなく、施工や家具づくりまでやってみよう、ということです。移転前のオフィスで用いていた素材も再利用しよう、と。モノづくりを通して、そのモノが出来上がっていくのを身体的に捉える狙いです。その経験は、デザインにもフィードバックされるはずです。まあ、コスト削減にもなりますし。

オフィス全体、木質感にあふれています。とりわけ床は、面積が広いだけに目立ちます。どんな考え方から、そうしたのですか。

小堀 オフィスは最近、半ば住宅化してきています。キッチンが設けられていたり、家具も住宅用のものが入り込んできたりしています。そのほうが、リラックスできるのでしょうね。ムラなく均質で経年変化がない近代的な素材ではなく、木のように質感を伴った揺らぎや経年変化がある素材を利用することで、発想が変わるように思います。建築設計はクリエイティビティが求められる仕事です。それには、木質空間が適しています。

 もう1つ、チームワークの熟成を促すようにも思います。象徴は、広葉樹を組み合わせてつくったテーブル4台で構成する「ビッグテーブル」です。このテーブルを囲んでみんなでランチを楽しむこともあります。食卓といえばやはり、木のテーブルですよね。それを囲むことでコミュニケーションが促され、家族的な関係を築けます。

 いずれにしても、天然木は温かみがあり、心地よい素材です。このオフィスだけでなく、移転前のオフィスでも、床には天然木を利用していました。オフィス設計のプロジェクトでも、床には天然木を利用する例が多いですね。

※「ABW」が個人単位で働く場所を選び仕事に臨むのに対し、「PBW」はプロジェクト単位で働く場所を決め仕事に臨む

床材にはパナソニックハウジングソリューションズのOAフロア用木質仕上材「ボアシス」を採用しました。床材としての魅力はどこにあるのですか。

小堀 まずは、その薄さです。6mmですから、タイルカーペット並みです。テナントビルの場合、床はたいていOAフロアです。タイルカーペットと同様、その上に直接貼って仕上げられます。木質のフローリング材は厚さ15mmですから下地用の合板とともに施工すると、全体が厚くなりすぎ、出入り口付近に段差が生じます。OAフロアを鋼製床組に改めれば避けられますが、OAフロアを廃棄する無駄が生じます。

 それでいて、耐久性が高い。土足でもまったく問題ありません。基材に特殊な工夫があるのか、局所的な荷重にも強い。天然木のフローリング材といっても突板を用いたものでは耐久性が低く、突板部分が剝がれたりサネが取れてしまったりしますが、それがありません。サネ加工はしっかりしていますね。また従来はピンヒールにも耐えられるように厚めのウレタン塗装を施してきましたが、そうした手間も不要です。

 貼り替えも、タイルカーペット感覚でラクそうです。模型を制作するコーナー付近の床は、スプレーのりを使うこともあって汚れやすい。いずれは貼り替えたほうがいいのでしょうが、そういう時でもタイルカーペットのように、ぺろっと剝がせばいい。

オフィス移転に伴う施工は、事務所の皆さんでやられたのですね。

小堀 そうですね。フリーレント期間が幸い半年ほどあったので、その期間を利用して施工しました。自分たちのオフィスであれば、失敗も許されますからね。

 収穫もありました。床材でいえば、真ん中から貼り始め、徐々に端部に向かいます。端部は、うまく納めるためには切断しなければなりません。でも、その作業には誰も手を出そうとしない。それくらい難しい。設計者はよく施工者に対して、「うまく納めてよ」と安易に指示しますが、なぜ納まりづらいのか、初めて理解できました。

現在進行中のオフィス設計プロジェクトの中にも、この木質仕上材の利用を提案している案件が既にあるそうですね。

小堀 自社ビル内の研究施設です。レイアウトを変更する可能性が見込まれ、床下から配線を引き出す位置に可変性を持たせておきたい。この木質仕上材なら、貼ったり剝がしたりが容易でフレキシビリティに富むため、そうしたニーズに対応しやすい。しかも素材は、天然木です。OAフロアの良さを生かしながら、床を天然木で仕上げられます。OAフロア対応と天然木仕上げというニーズを同時に満たせます。

提案にも取り入れるということは、それだけ高く評価されているわけですね。

小堀 はい。この床材を最初に知った時、オフィス設計者の悩みに共感し、それを解決してくれる床材ではないか、という印象を受けました。利用してみて、まさにその通りです。OAフロアを標準仕様とするテナントビルのオフィスで利用できる理想の床材ではないですか。床材としての大きな可能性を感じています。

小堀哲夫建築設計事務所

日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、Dedalo Minosse国際建築賞特別賞、IDA国際建築賞銀賞、AMP国際建築賞Best of Bestなど国内外において受賞多数 。現在、大学やオフィス、研究所、住宅、大型複合ビル、旅館、ホールや庁舎など幅広い用途や規模のプロジェクトで活動。

● 所在地:東京都文京区小石川1-28—1 小石川桜ビル7F
● ホームページ:http://tk-a.jp/

お問合せは

〒571-8686 大阪府門真市大字門真1048番地

https://panasonic.co.jp/phs/