アナログ・デバイセズの日本法人は、ミリ波応用の加速と将来の6Gに向けた要素技術開発を目的に、ミリ波5G帯に対応したフェーズドアレイ・アンテナ・モジュール「Dragonfly」を開発した(図1)。ビームフォーミング制御やMU-MIMO(マルチユーザーMIMO)などの評価に加え、前述のISACの評価にも活用できるアンテナ・モジュールである。
開発の狙いについて高松氏は次のように説明する。「日本におけるミリ波の研究開発がさらに活発になって欲しいと考え、日本法人で企画し開発しました。ミリ波応用のうち、とくにISACは世界的にもまだシミュレーションレベルでの検討が中心で、現実世界での検証が進んでいません。DragonflyはISACの検証に必要な機能を搭載したフェーズドアレイ・アンテナ・RFモジュールであり、通信事業者や、移動体通信機器メーカー、ミリ波研究を担う大学や研究機関の皆様に活用していただきたいと考えています」。
基本となるフェーズドアレイ・アンテナは8×8構成の64素子で、各素子は個別にゲインと位相を制御できる。ビーム角度は±45°、ビーム分解能は2°だ。単偏波とV/H両偏波に対応した2種類のモジュールが提供され、それぞれのアンテナパターンはミリ波5Gの周波数帯(最大24.0GHz~29.54GHz(FR2))に最適化されている。
Dragonflyのハードウエアは5G基地局向けソリューションで多くの実績を持つアナログ・デバイセズのシグナルチェーンで構成されている。ビームフォーミングの制御には16チャネル直交2偏波ビームフォーマーLSI「ADMV 48281」を4個搭載。また、アップコンバータ/ダウンコンバータ「ADMV1128A」、VCO内蔵マイクロ波広帯域シンセサイザ「ADF4372/ADF4368」のほか、µModule®を含めた低ノイズのパワーマネジメントICが基板上に搭載されている。
なお、Dragonflyの実装設計を含むハードウエア開発にはエスタカヤ電子工業が、ソフトウエア開発とシステムインテグレーションはアイダックスが協力している。
Dragonflyは、ISACの評価において、送信機と受信機とを対向させて通信経路途中の物体を検出するバイスタティック・レーダー構成と、1台で送受信を行うモノスタティック・レーダー構成のどちらにも対応可能である。
送信と受信のベースバンドI/Oは任意だ。ミリ波5Gシステムテスト用測定器を用いる方法のほか、手軽に検証するのであれば、アナログ・デバイセズがRFのトレーニング用に提供しているローコストのソフトウエア定義無線「ADALM-PLUTO(Pluto SDR)」が適当だろう。
2つのDragonflyの間にある物体を検知する原理は次の通りだ。まず送信側で、通常の見通し通信の合間に、周囲最大±45°の範囲でビームスキャンを行う。これに対して受信側でもビームスキャンを行い、送受信機間にあるターゲットからの強い反射波が届けば(受信信号の信号強度(RSSI)に変動があれば)送信ビームと受信ビームの交点に物体がある可能性が高いと判断できる。後は三角測量の原理に従えば距離や角度が推定可能だ。
これは最も単純なセンシングの例だが、アルゴリズムの作り込みを行えば、物体の位置の高精度な推定や、受信波の位相差を用いたドップラーシフトによる移動速度の推定なども可能だ。
「Dragonflyは評価用として提供していますが、基板上の高周波配線を含めて商用レベルの性能を担保しているため、セットアップ次第ではより高度な評価にも応用が可能です。また、MATLAB®を使ったリファレンスコードを準備しており、フェーズドアレイの設定や制御が誰でも行えるように工夫してありますので、RFに詳しくなくてもISACアルゴリズムの研究を進められます」と高松氏は説明する。実際に、国内の大手キャリアのほか、多くの企業や大学がDragonflyでISACの評価を始めているようだ。
ISACのキラーアプリケーションの一つがドローンの検知だ。国内でも重要施設や飛行禁止空域への侵入が報告されており、新たな脅威として認識され始めている。
高松氏は「ISACであればミリ波の通信インフラを使いながらドローンを検知できますし、各種条件さえ合えば、平時には渋滞監視、人流把握、降雨検知などの目的に使い分けることもできます。カメラとは違いプライバシーの心配もありません」と述べる。
「アナログ・デバイセズのDragonflyを活用しながら現実世界での検証を進め、社会実装に向けた機器やアルゴリズムの開発につなげていただきたいと考えています」と高松氏は結ぶ。
アナログ・デバイセズはDragonflyを評価用RFモジュール、商用開発に向けたリファレンスデザインとして位置付けており、フェーズドアレイ・アンテナのカスタマイズや基板設計データのライセンス提供にも対応する。ISACを含めたミリ波応用の研究開発が加速することが期待される。