

富士通製のハードウエアについての話が続きましたが、他社製のハードについても、継続提供されるかが不透明だったり、徐々に提供が縮小されたりしています。米IBMはメインフレームの継続提供を明言しているので当面は大丈夫だと思いますが、それ以外のレガシーシステムを使っている企業は何らかの対応を考えている状況です。
仮にレガシーシステムのハードを継続的に利用できたとしても、中身がブラックボックス化していれば、システムの保守には手間やコストがかかります。DX推進を見据えた改修や移行が必要な状況になっています。
——レガシーシステムの改修などをVTIに相談する日本企業の一番の悩みは、ハードを継続して使い続けられないことなのですか。
やはりそれが最も多いです。「現状のシステムが使えなくなると業務が継続できないので、なんとか使える形にしてほしい」とご相談いただきます。新しいことをしたいというわけではなく、現状維持を望まれているので、できるだけコストはかけたくないとお考えです。特にオフィスコンピューターをお使いの中小企業の場合、ITにかけられる予算が少ないので、その傾向が強いですね。
我々としては、コストを抑えることにはできるだけご協力したいと思っていますが、「別のハードで動くようにすればよい」とは考えていません。そのため、お客様としっかりお話しするようにしています。
今後、COBOL技術者などレガシーシステムに関連する技術者が退職し、より人材が不足するはずです。レガシーシステムのソースコードなどをそのままにすると、システムの保守・運用はより困難になっていきます。ですから、「ただハードを変えればよい」ということではなくて、移行を機にソフトにも適切に手を入れるべきです。
品質も課題になります。現状のレガシーシステムは、設計書を作らずにシステム運用をしているケースが多くあります。そうなると移行後のシステムについて、「どういう品質を期待するのか、どう動くことを望むのか」といったことが定まらず、品質評価ができません。
当社としては、品質についてはお客様を巻き込んで一緒に議論することが欠かせないと考えています。どういったシステムを目指すかを共有し、一緒に考えていただくことが、長い目で見て「システム移行が成功した」と感じていただくために必須です。
レガシーなアプリケーションは悪く言われることもありますが、企業の大切な資産です。資産を生かすためにはどうしたらよいかを、我々と一緒に考えていただけるように努力しています。
——まさに「正攻法」と言えるプロジェクトの進め方ですね。「ハードだけ変えられればよい。コストはできるだけ抑えたい」と考えている企業に対し、プロジェクトに積極的に参加してもらうのは難しいのではありませんか。
確かに簡単ではありません。いろいろな工夫をしています。お客様に関心を高めていただくうえで特に効果を発揮しているのが、当社でアドバイザーを務めている日本人社員と対話していただくことです。
当社は、大手国産ベンダーを定年退職した、レガシーシステムについての優れた知見を持っている技術者を採用し、アドバイザーという役割を担ってもらっています。
このアドバイザーがお客様とお話しし、「今までのやり方を続けると、今後こういったことが起こる可能性がありますよ」と丁寧にお伝えします。お客様のお考えを頭ごなしに否定することはしないのですが、選択にまつわるリスクをしっかりお話しし、それを認識していただくのです。するとお客様も問題点を把握され、「自分達もプロジェクトに積極的に関わらなくてはいけない」と、認識を改めていただけることが多くあります。
アドバイザーは現在5人いて、皆が活躍してくれています。彼らには、お客様の心に響く言葉を伝えられる、特別な能力があると感じます。我々ベトナム人の社員だけでは足りない部分を、彼らが埋めてくれています。
——VTIが提供する、レガシーマイグレーション関連サービスについて、改めて教えてください。
現状のレガシーシステムの資産を棚卸しして分析し、移行先のハード上で動作する新たなプログラミング言語へと変換します。その過程で必要になるテストや移行作業、保守・運用などの作業も担います。お話しした設計書の作成や品質の基準設定なども併せて実施します。
どのハードに移行するかということについては、状況に応じて様々なパターンに対応しています。メインフレームやオフコンをオープン系のシステムに移行するケースや、富士通製メインフレームからIBM製メインフレームに移行するケースなど様々です。
「いままでの資産を生かすのではなく、完全に新しいアプリケーションを作成した方が早い」ということになるケースもあるので、その場合は新規のシステム構築もサポートさせていただいています。
——他社製メインフレームに移行するケースもあるのですね。
はい。メーカーが違ってもメインフレームにはある程度共通する部分があるので、オープン系システムに移行するより互換性などの点でリスクが低いのです。オープン系は約5年でサーバーのバージョンアップが必要になるので、メインフレームよりコストが増えてしまうこともあります。
プログラミング言語については、COBOLを.NET上で動かせるようにNetCOBOLを使って変換するケースが多いです。オフコンを使った中小規模の基幹システムの場合は、Javaに変換する事例が増えています。
画面や帳票、データベース、文字コードなどについても、移行先のシステムで利用できるよう変換します。
——プログラミング言語の変換などの際にAI(人工知能) は活用していますか。
はい、積極的に活用しています。ただし、「AIを使えば自動でプログラミング言語が変換できる」という考え方ではありません。AIによる自動化と、人間のチェックを適切に組み合わせることが重要です。
AIの利用が活発になる以前から、当社は様々な自動変換ツールを自社で開発してきました。自動変換ツールをうまく活用できる部分はもちろんあるのですが、機能しないケースも多くあります。
例えば、COBOLを自動変換ツールでJavaに変換すると、プログラム自体は容易に動作させることができます。ですが、オブジェクト指向の言語であるJavaの特性を考慮しないプログラム、いわゆる「JaBOL」になってしまい、メンテナンス性がとても低くなってしまうのです。
こうした課題を乗り越えるためには、COBOLのプログラムの構造をしっかりと理解して設計書を作り、それを基にしてJavaの特性に合ったプログラムに変換する必要があります。この際に、AIを使った構造の自動解析などが非常に役立ちます。
しかし、変換ツールとAIを組み合わせたとしても、プログラムの不具合などの問題は起こります。ソースコードを理解した人間がいないので原因の調査ができません。AIに原因を調査させることはできますが、それでも解決しないケースが多くあります。このように無理に全てを自動化しようとすると、メンテナンスの際などにかえって手間が増えてしまうのです。
——AIによって完全自動化を目指すわけではないと。
はい。その通りです。当社は、AIが自動で作成したプログラムや設計書、テストなどについても複数回人間によるレビューを繰り返して完成させています。最新の技術を生かしつつ、適材適所で使いこなしていく方針です。
——具体的なユーザー事例をご紹介いただけますか。
大手鉄鋼会社様の事例についてお話させてください。この会社は20年以上にわたり富士通製のオフコンを使っていたため、老朽化によるリスクの増大や保守人材の不足、ハードのサポート終了期限が近付いていることなどに悩まれていました。そこで事業中断を回避し、長期的なDX推進のために移行を決断されました。
2022年6月から2024年3月まで22カ月、約2年をかけたプロジェクトでした。2年は長いと感じられるかもしれませんが、レガシーマイグレーションのプロジェクトとしてはかなり短い方です。3〜5年かけるのが一般的です。
このお客様はオフコンを完全にオープン系システムにマイグレーションしました。約1800プログラム、160万行のコードがあるプロジェクトで、レガシーマイグレーションの案件としては中規模に当たります。メインフレームを使った大型な案件だと、この3〜4倍の規模になります。
鉄鋼の生産システムは原材料や購買、製造、在庫、販売など多岐にわたるため、一度で全てを移行するのは難しいと考え、段階的に移行を進めました。お客様と設計書の作成やテスト方法など、様々なことについて意見を交わしてプロジェクトを進めることができました。
結果として、現行ビジネスロジックを100%保持した形でマイグレーションを実現しました。業務停止時間もゼロでした。
——レガシーマイグレーションのサービスを他社と比較した場合の強みはどこになりますか。
まずはここまでお話ししたように、レガシーマイグレーションについての経験を積み重ねてきたことです。変換ツールによる自動変換は何がうまくいって何がうまくいかないか、AIとどう組み合わせるべきか、人が何をチェックするべきか、といったことについては経験からしか学ぶことができません。
もう1つ強みと言えるのは、ベトナムにAIに精通した技術者を多く抱えていることです。ベトナムの若い技術者はAIをはじめとした新しい技術に高い関心があります。レガシーマイグレーションで使うAIについても、ベトナムの優秀な人材が日々研究を進め、改善を繰り返しています。
——レガシーマイグレーションのプロジェクトを請け負うには、それなりの規模の体制が必要になると思いますが。
ええ。大規模になるほど、技術者の動員力が求められます。VTIジャパンには現在200人の従業員がおり、そのうちの50人がレガシーマイグレーションのための人員です。
ベトナム側には1800人の従業員がおり、レガシーマイグレーションの専任の要員は100人ほどいます。レガシーマイグレーションには、お話ししたようにAIを使うことが多いので、AIを専門とする400〜500人の技術者も協力する体制を敷いています。
——提案段階で国内ベンダーと競合することもあると思います。受注に至ったケースでは、顧客からどんな点を特に評価されていますか。
まずコスト面で優位性があるのでご評価いただけます。信頼度については、当初は国内ベンダーに比べると劣ってしまうのですが、先に紹介した当社のアドバイザーにも商談に加わってもらい、対話を重ねることで、信頼をしていただけるケースが多くあります。
コスト以外にご評価いただくことが多いのはスピード感ですね。お客様からご相談いただいた際に、翌日や翌々日に具体的な説明をさせていただいたり、すぐに簡単な試験用のシステムを作って実証をしたり、といったことをしています。「スピード感が優れていたので発注した」と言っていただく機会が多くあります。
——他のベトナムのベンダーと比較した場合はいかがでしょう。
レガシーマイグレーションは個別のシステムインテグレーションとして提供しているベンダーがほとんどです。しかし当社は、これまでの経験に基づき、共通してご提供できる部分についてはサービス化しています。これによってコストがさらに下げられます。サービス化に力を注いでいる点は、他のベトナムベンダーとの違いと言える部分だと思います。受注が増えるほど、サービス化が進んでいくので、サービス全体の競争力を引き上げることができ、お客様の期待に応えやすくなります。