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国際金融公社が日本人職員の採用を強化

途上国の発展を支援する世界銀行グループで、途上国の民間セクターに特化した国際開発機関としては世界最大規模の「国際金融公社(IFC)」が日本人職員の採用を強化している。これまでは年間数名だった採用人数を大幅に増やすべく採用活動に力を注いでいる。“国際社会貢献”という使命を担うIFCがなぜ日本人の採用に注力するのか、そこではどのような人材が求められているのか。IFC 東京事務所 所長の黒澤利武氏に話を聞いた。

自ら呼び水となって途上国への投資を促す

 貧困削減と持続的成長の実現に向けて途上国の支援を行う世界銀行。その世界銀行グループの1機関で、民間セクターを対象とした機関が「国際金融公社(IFC:International Finance Corporation)」である。1956年に設立後、2018年度末までに2850億ドル(約32兆円)を途上国の企業に投融資した。2018年度の投融資額は233億ドル(約2.6兆円)に上る。

 IFCの投融資活動の特徴の1つが、民間投資家からの資金を動員している点にある。2018年度の233億ドルのうち117億ドル(約1.3兆円)は民間投資家からの資金である。資金動員力という面ではジョイント型のベンチャーキャピタルに近いかもしれない。

 最も大事なのは、IFCの投融資が、途上国の開発効果のための“インパクト投資(慈善活動と利益獲得の2つを目標とする投資)”であることだ。ここが通常の金融機関とは大きく異なる点だろう。黒澤氏は「IFCが呼び水となり、民間企業の投資資金を途上国の開発に振り向けることが重要なのです」と語る。

国際金融公社(IFC)
東京事務所 所長
黒澤利武 氏

 2015年9月の国連サミットで2030年までに達成すべき持続可能な開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」の合意形成がなされたものの、途上国がそれを達成するには少なくとも年間2兆〜3兆ドル(約224〜325兆円)もの巨額の投資が必要とされている。

 しかし、現実はこの目標と大きく乖離している。「ODA(政府開発援助)でまかなえているのは目標の1割弱。残りは民間の投資家の資金を調達するしかありません。今は1兆ドルがやっと。それをどう倍増させていくか、そのためにIFCに何ができるかが、今の課題です」と黒澤氏は厳しい状況を指摘する。

 この現状を打破するカギとして期待されているのが、ダイバーシティの推進である。IFCは、世界のあらゆるところで活動している。「投資先はダイバースですから、私たち自身がダイバーシティを進め、柔軟な発想を持たなければ開発資金を増やすことはできません」(黒澤氏)。その一環として強化しているのが日本人職員の採用だ。

金融出身者だけでなく幅広い人材が必要に

 IFCの全職員3900人のうち、日本人は50人程度だった。しかし、日本は米国に次いで第2位の出資国であるとともに、IFCの資金調達のために不可欠な資本市場を提供している。このことから「もっと日本人の存在感があってもいい」(黒澤氏)という見方もあり、昨年から採用活動を強化してきた。

 「あらゆる採用チャネルを活用し、説明会などを開催して応募者を増やす取り組みをしてきました」と黒澤氏は昨年を振り返る。その結果、約500人の応募があり、そのうち約80人を本部から来日した面接官や採用担当者がインタビューし、最終的に15人の日本人を採用することができた。

 この採用活動を支えた採用チャネルの1つが、即戦力・ハイクラス人材に特化した転職サイトを運営するビズリーチだ。IFCは今年も昨年と同様に、日本人に特化した募集を行ったが、そこでも、他のチャネルと並んで、ビズリーチのサービスが利用されている。

 2年目となる今年は、昨年の活動で認知度が向上したこともあって順調に応募者が集まっているという。そこで求められる人材は多種多彩だ。投融資を行う金融機関だけに投資銀行などの出身者が多いが、途上国向けに投融資するIFCならではの裾野の広さがある。

 「例えば、太陽光発電施設をつくろうとしたとき、ソーラーパネルは安く調達できても土地を収用できなかったり、入札制度がない国もあります。そこでは制度づくりから着手しなければなりません。途上国ならではの問題をクリアするためには幅広い分野の専門知識とスキルが必要です」(黒澤氏)

「幅広い分野の専門知識とスキルが必要です。大変な仕事ですが、実現したときの喜びは大きいと思います」

 実際に昨年採用された人の中には、銀行以外に商社や広告代理店、メーカー出身者のほか、エコノミストや数理に強い金融専門家や日本の国際開発機関の元職員もいるという。

“市場を拓き、機会を創る”やりがいのある仕事

 IFCの業務は大きく分けて3つある。投融資、助言提供、資産運用である。しかし、前述したようにきれいごとでは片付かない。当然、投資リスクもある。政府機関に強い世界銀行と一緒になって投資環境を整備することも必要になる。途上国への投融資を倍増させるためには、ひたすら努力と工夫を積み重ねるしかないのが実情だ。

 「ゼロから市場をつくるには馬力が必要です。必死に知恵を絞り、いろいろな人に働きかけていくしかありません。大変な仕事ですが、実現したときの喜びは大きいと思います」と黒澤氏はIFCの仕事のやりがいを語る。それだけにタフでダイバースな人材が求められるのは当然のことだ。

 では、日本人職員にはどのようなことが期待されているのか。「日本人は勤勉、真面目で誠実。しかも実績があって実務能力の高い人が多い。目配りしながらきちんとプロジェクトを回し、果実を相手に届けることができるはず。意欲的な女性の活躍にも期待しています」と黒澤氏。

 日本人の力で世界の貧困を救い、持続可能なグローバル社会をつくる。その開拓者として活躍できるIFCは、高い志を持ってチャレンジしようという人にとっては理想的な職場といえるだろう。

キャリアをつくり上げていく考え方とそれを応援してくれる仕組みがある
国際金融公社(IFC)
金融セクターエコノミスト
中野ちえみ氏
(2018年5月入社)
 大学時代にメキシコへ留学して開発途上国の人々の現実を見たことで、将来的には開発に携わり、少しでも「誰でも頑張れば活躍できる世界」をつくることに貢献したい、と考え始めました。
 大学卒業後は民間金融機関へ就職し、重要なビジネススキルと金融の知識について深め、その後、アメリカの大学院で国際経済を勉強する中で、経歴の異なる人が集まる国際機関で活躍するための技術を身に付けました。
 現在は金融セクターエコノミストとして、アジアとラテンアメリカ地域におけるプロジェクトの開発効果分析を担当し、一つひとつの投資プロジェクトがどのように金融セクターの成長と貧困撲滅に貢献するのかを分析する仕事をしています。
 IFCで働いてみて感じる世界銀行グループの魅力は3つあります。1つ目は、開発の現場において地球規模的な観点から仕事ができるということ。国際金融や気候変動に個人的な興味のある私にとってはちょうど合っていると感じています。
 2つ目は民間企業へのフォーカスです。IFCでの民間企業向けの投資は現地企業のビジネスをボトムアップで応援する仕事です。現地の文化社会的構造に沿ったイノベーションに投資をし、その経済開発効果を分析することができることに大きなやりがいを感じます。
 そして3つ目は、働く環境。世界銀行グループでは多様性を尊び、それを新しいアイデアへ結びつけて仕事に生かし、よりよいサービスを提供することが重んじられています。その中で私には、金融の専門知識だけでなく、日本人であることや民間企業出身であること、女性であることの強みをもって貢献することを高く期待されていると感じます。
 ここには自分でキャリアをつくり上げていくという考え方と、それを応援してくれる仕組みがあります。今後はこれまでの自分の経験を生かしつつ、プロフェッショナルとしての成長につながるような機会を積極的に探していきたいと考えています。
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