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コネクテッドインダストリーズの最新動向

特別講演+パネル討論

AIだけでムーンショットは狙えない
─ダベンポート氏の提言と、専門家との「AIと人間」の議論

データ活用やAIなど、先端テクノロジーのビジネス実装についての研究分野で世界的な権威であるバブソン大学教授のトーマス・H・ダベンポート氏による特別講演、そして同教授を交えたパネル討論が行われた。このセッションでは「AIと人間の関係、AI時代の企業経営の在り方」をテーマに意見が交わされた。

トーマス・H・ダベンポート 氏
バブソン大学 特別教授

トーマス・H・ダベンポート

 特別講演の講師として登壇したダベンポート氏は、まず「インダストリー4.0」という言葉には、何か大きなステップがあるわけではなく、連続的な進化の結果そうなるのだと語り始めた。そして「AIなどの技術は人間にとって代わるものではなく、人間にできることは残り、役割が変わる。AIが全知全能で人間を支配するというのは幻想。AIはタスクの置き換えにすぎない」と続けた。

 AIと人間などの技術の関係を示す身近な例として自動運転車を挙げ、「私はテスラを所有しているが、購入時に3000ドル余計に払って自動運転の機能を付けた。だが、まだ完璧とはいかない。ここで分かるのは、例えば『自動運転』という機能の90%までは達成できていたとしても、残り10%を埋めるのに0から90%までと同じぐらいの時間と労力がかかるということだ」。そこで重要になるのは、AIと人間の相互補完だと述べる。

 AIの企業の活用については、デロイトが行った調査結果を引用し、「AIについて取り組みを始めている企業は、海外ではおおむね20~25%、対して日本は27%だった。ソフトバンクの孫正義会長が『日本はAI後進国』と発言したことが話題になっていたが、調査結果からは、日本も世界もまだこれからという点で差がない。もし、孫氏がそう感じていたとすれば、それはAIに処理させるデータがまだ不足しているからだろう」と述べた。

 また「人は、テクノロジーの効用を短期的には過大評価し、逆に長期的には過小評価してしまう」という「アマラの法則」を取り上げ、「目の前の変化に右往左往してはいけない。AIの分野ではいわゆる“ムーンショット”を狙うよりも、小さな成功を積み重ねる努力が、結果的に大きな進化につながる」と語った。

技術とビジネスの関係が語られた
パネル討論

酒井 耕一
日経BP総研
コンサルティング局長

酒井 耕一(モデレーター)

HEROZ
執行役員 開発部 部長

井口 圭一

アビームコンサルティング
執行役員 プリンシパル P&T Digital ビジネスユニット IoTセクター長

橘 知志

 続いて、パネリストにダベンポート氏、アビームコンサルティング執行役員の橘知志氏、HEROZ執行役員の井口圭一氏が登壇し、日本の製造業の進化をテーマにしたパネル討論が行われた。

 ダベンポート氏の講演を踏まえ、AIと人間との補完関係についてどう思うかの問いに対し、井口氏は「当社は将棋のAIエンジン開発を出発点に、ビジネス向けのAIを手掛けているが、指摘の通りでAIだけでは課題を解決するのは難しい。例えば最近開発した株価予測のAIでは、単純な値の上げ下げの予測スコアにはAIを使い、そこに人間の知識を組み合わせて最終的な判定を行っている」と話した。

 続いて、AI活用には社内にどのような人材が必要かというテーマで、橘氏は「個々の業務プロセスをAI化するのは比較的容易だが、プロセス同士をつなぐところは人間の力が不可欠。そのために社内で事業部横断の仕事をしている人材がキーになる」と話し、井口氏は「AIそのものより、AIが生み出す影響を理解できる人が必要」と語った。

 また、AIの実装は自社だけでは難しく、外部の企業や人材との協力関係が必要だという認識では全員が一致。ダベンポート氏は「カナダは経済規模は小さいが実はAIが強い国。トロント、モントリオール、バンクーバー、エドモントンなどそれぞれに異なる技術分野の中核セクターをつくり、全体のエコシステムでAIの突破口を探っている」と、日本のAI開発に対する1つのヒントを提示した。