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自然現象の再現・予測やDNAの解析・探索などに用いられている、シミュレーションの活用範囲が広がっている。その中でも、とくに計算量が膨大な場合は、HPC(High Performance Computing)と言われる高性能なコンピューターシステムが必要となる。自動車関連の設計を手掛けるデンソーテクノもHPCのヘビーユーザーだ。同社は、HPCの環境をオンプレミスからクラウドに切り替えた。今、同様の動きが様々な産業分野で広がりつつある。

計算量が膨大な流体騒音解析必要な時間は数日~15日以上

 

デンソーテクノ株式会社
DX推進センター VE開発部 部長
博士(工学)
甲村 圭司

1997年に入社後、一貫してCAE(Computer Aided Engineering)の技術開発に従事。2004年から大学との共同研究に着手し、流体解析や騒音解析に関する論文を数多く発表。19年よりVE開発部を立ち上げ、製品開発全体のバーチャルエンジニリング化を推進。

製造業の設計フェーズにおいて、シミュレーションの役割は大きくなりつつある。バーチャル環境で3Dモデルなどを動かして問題点を洗い出し、早い段階で設計品質を高めれば手戻りを減らすことができるからだ。場合によっては、試作工程を経ずに生産に移行することも可能となる。

シミュレーション手法は高度化しており、一般的なコンピューターでは対応できない複雑な計算が求められるケースも増えている。そこで、ニーズが高まっているのがHPC(High Performance Computing)だ。製造業はもちろん、金融や流通、ライフサイエンス、メディアなど多様な領域でHPCの利用は拡大している。

HPCによるシミュレーションを活用し、その可能性を広げようとしている企業の一つがデンソーテクノである。デンソーのグループ企業として、同社は自動車関連の設計を専門に事業を展開している。同社で先端的な設計技術の開発をリードする甲村圭司氏はこう説明する。

「強度解析や衝突解析、システム解析、熱解析など、当社の設計では多様なシミュレーションが活用されています。とくに流体騒音解析における計算量は膨大で、HPCの能力が重視される領域です」

ハイブリッド車やEVの普及もあり、静粛性が高いクルマが増えた。駆動系などの騒音が少ないと、室内のエアコンの音などが気になる。そこで、最近は消費者に対して「静かさ」をアピールポイントにするクルマも登場している。こうした動きを受けて、自動車開発の現場では低騒音のエアコンやファンの設計が求められるようになった。騒音の発生を抑える設計を効率的に行う上で、流体騒音解析はカギとなる技術だ。

このような背景から、デンソーテクノはHPCによる流体騒音解析に取り組んでいる。これまで、HPC用のコンピューターをオンプレミス環境で運用してきたが、そこには様々な課題があったようだ。

「流体騒音解析には時間がかかります。比較的簡単な計算でも3~4日、複雑な計算になると15日以上かかることもあります。これでは、頻繁に試してみることはできません」と甲村氏。そこで、これまでは重要と思われる計算に絞ってシミュレーションを実施してきたという。

しかし、「流体騒音解析に関しては、まだ基礎的な計算技術が確立していない」(甲村氏)という段階で、実設計に適用しようとすると手戻りが多くなり、リードタイムも想定以上に長くなることがある。

こうした課題に対するソリューションとして、同社はOracle CloudのHPCソリューション(Oracle Cloud Infrastructure for HPC)を検討し、導入を決めた。Oracle CloudのHPCソリューションをベースにした新しいシミュレーション環境は、2019年4月から稼働している。

デンソーテクノがクラウドのHPCを選んだ理由とは? そして、同社が目指す新しいものづくりとはどのようなものだろうか。

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