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潜在的な経営課題をカスタマイズ物流で解決

「モノを動かす」ことに関する顧客の課題をドライバーが察知し、専門家集団「GOAL」が最適解を提案する─。
佐川急便のカスタマイズ物流「TMS(Transportation Management System)」に注目が集まっている。
企業経営にTMSが果たし得る役割を、佐川急便の荒木秀夫社長に聞いた。
(聞き手:日経BP社副社長 酒井綱一郎)

──企業経営において、物流の重要性が高まっています。Society 5.0に関する日本経団連の提言でも、物流は革新技術との親和性が高く、変革が最も期待される産業の一つであると位置づけられています。

荒木 技術革新の成果を物流の現場に実装し、業務効率化を図る取り組みを続けています。配送伝票の入力を、AI(人工知能)と光学式文字読み取り装置(OCR)とを融合させて自動化するシステムの開発に着手したほか、社会経済の変革を視野に入れた実証実験にもできるかぎり参画していきたいと考えています。

 一方、こうした技術的な対応と並行して、企業経営の観点でも、物流に関するお客様の認識が急速に変化しつつあると実感しています。

──それはどのような認識の変化でしょうか。

荒木 お客様は長い間、佐川急便を、ラスト・ワン・マイルの運送会社と見ておられた。それが2014年に先進的ロジスティクス プロジェクトチーム「GOAL」を発足させたあたりから、それだけではなくて、経営戦略上、物流は利益を出す部分でもある、とご認識いただくようになってきました。

──物流で利益を出す、とは興味深い視点です。もう少し詳しく教えてください。

荒木 例えば、サプライチェーンを俯瞰したとき、海外原料の調達はA社、物流加工はB社、国内配送はC社と個別に委託していたものを、当社に一気通貫で託していただく。すると、コストが低減でき、時間も短縮されることがあります。

 より実務に引き付けてご説明しますと、海外生産のアパレル商品であれば、海外で検品と検針、納入店舗別の仕分けを済ませてから日本に商品を送る。すると、陸揚げ後は商品を一気に各店舗に流せます。日本で配送センターを借り、荷物をいったん倉庫に集約し、人を雇って仕分けや配送伝票の貼付をして、配送業者に託す、といった手間とコストを省くことが可能になる。

 モノの流れに着目して業務プロセスの全体最適を追求することによって、物流は利益の源泉ともなり得るわけです。

──なるほど。「宅配便1個いくら」といった価格交渉とは異なる、ダイナミックな変更ですね。

荒木 目の前にある「この荷物を運んでほしい」というご要望が1つのニーズであることに変わりはありません。しかし、モノを動かすことに関わるお客様のニーズや、私たちがお役に立てる機能は、もっと広範なものです。

 農家の方が毎朝、茶葉を収穫して、自分で組合の集荷場に持っていく。これでは、仕事も中断されるし、トラックで運ぶという行為もあって、大変なんですね。当社のセールスドライバーは、担当地域で日々、そのような光景を目にしていた。そこで、「ご負担を減らしたい。お役に立てる方法はないか」と、本社のGOALにつないだんです。

荒木秀夫 氏
佐川急便株式会社
代表取締役社長
荒木秀夫

1980年に明治学院大学経済学部を卒業し、82年に東京佐川急便にセールスドライバーとして入社。佐川急便本社営業本部部長を経て、2009年に佐川グローバルロジスティクス代表取締役社長に就任し、2011年にSGホールディングス執行役員を兼務、2012年に佐川急便専務取締役を経て2013年2月から現職。1956年生まれ、神奈川県出身。

──GOALというのは、佐川急便で、物流の専門家を集めた、ソリューションのためのプロジェクトチームですね。

荒木 はい。グループ会社を含めると200人以上のメンバーが在籍していて、お客様の課題解決のためのソリューションをご提案します。茶葉のケースの場合は、当社のトラックが午前中に三十数カ所の農家を巡回して集荷し、そのまま集荷場に納入し、検品などの後、飲料工場まで持ち込む仕組みを構築しました。

 この事例で私が大切にしたいのが、提案に至ったきっかけです。トライバーはお客様から何か具体的な相談をいただいたわけではなくて、何となく大変そうに見えたのでGOALに話を持ち掛けたのです。身内ながら、そういう課題に気付いたことがすごいなと思います。

──顧客の潜在的な課題を発見したわけですね。

荒木 ドライバーはお客様のところに伺い、それまでとちょっと違う風景を目にすることがあります。そんなときに、「もしかしたら、こういうことで困っているんじゃないか」とか、「この荷物はどこから来ているのだろう」などとアンテナを立て、思いを巡らせる。これが大事なのです。お客様としては課題として認識していないのだけれども、そこを深く突っ込んでいったときに、実は課題だったりするわけです。

──「お困りごとはありませんか」と相手に気付かせるアプローチではなくて、見聞きした事実から「これ、困っておられますよね?」と課題を提示してみせる……。

荒木 スマートフォンって、市場に出るまでは具体的にこのような製品を欲しいと言った消費者はいませんでした。けれど、使ってみるとこんなに便利なものはない。どうしてなかったのか、と。そういう物流をやりたいのです。

──特定の技術が進化するからそれに対応した新たなサービスを立ち上げるのではなくて、ビジネスプロセスの潜在的な課題を見抜き、ニーズというよりもシーズから入っていく。その先を見通して個別に課題解決を図る。

荒木 お客様ごとの課題に対する個別のソリューション、サービスを提供するのがチームGOALです。ドライバーは集荷と配達で非常に忙しい。情報収集という大切な仕事は疎かになりがちです。けれども、情報収集をしてくれれば、GOALが控えています。「当社に任せていただければ、こういうことができます」と提案をさせていただく。そういうビジネスの深まり方を目指しています。

 もちろん、最初から「こんなことができないだろうか」「今度、こういうことをしたいのだけれど」といったご相談でも歓迎です。

1.情報収集→2.顧客課題発見→3.物流の最適解を提供 GOAL
[画像のクリックで拡大表示]

──こう理解すればいいですか。GOALが提供するソリューションは、定型ではない、カスタマイズ物流である。それは新たなニーズやシーズに基づくものである、と。

荒木 はい、そうです。運び方に着目して整理しますと、1個単位で運ぶのが宅配便で、それ以外はお客様の状況に合わせていろいろな運び方があります。宅配便では扱わない特殊なモノを運ぶことも含めて、新しいニーズに対応するのがGOALとなります。

──「物流に関するよろず相談所であるGOALメンバーがいますので、あらゆる無理をまず言ってください。カスタマイズした物流をご提案します」と。

荒木 先ほどご紹介した茶葉の巡回集荷は、「ミルクラン」といって、自動車業界などでは一般的な物流の形態です。それを他の業種に転用することによってブレークスルーが生まれた。GOALではそのようなご提案もできればと思っています。

 また、博物館のリニューアルでは、展示物である飛行機を、ばらさずにそのまま運び出す特殊配送も請け負いましたし、図書館の引っ越しのお手伝いもしています。

──飛行機や車両も佐川急便が運ぶのですか。

荒木 飛行機のような大型の特殊貨物は資本業務提携をしている日立物流さんに依頼します。レイアウト変更によって生産性の向上が見込めそうなら、そこも含めてご提案します。施設の引っ越しであれば、グループ会社のSGムービングの得意分野です。佐川急便が核となり、宅配便以外の運ぶサービスも提供しています。これがTMSです。

──TMSのようなカスタマイズ物流を手掛けようと考えたきっかけはどこにあったのでしょうか。佐川急便の社内で進化が起きているのでしょうか。

荒木 私は2009年から3年間、海外物流を手掛ける佐川グローバルロジスティクス(SGL、当時)におりました。冒頭でお話ししたように、お客様が海外、通関、国内、などと個別に手配をしておられる様子を見ていて、「どうして一貫でうちを使わないのだろう」と疑問を抱いていました。グループで海外を含め、広範なお手伝いができることがあまり知られていなかったわけです。ですから、「いつか一気通貫でお受けしたい」と思っていました。お任せいただけるだけの組織力があることは分かっていましたから。

──ある意味、佐川急便としての潜在的なニーズが見えていたわけですね。

荒木 BtoBでスタートしている会社ですので、お客様のサプライチェーンが海外を含めて広がっていく中で、一貫物流でラスト・ワン・マイルまでお手伝いをしていきたい。さらにはリコールに伴う消費者からの製品回収など、静脈物流と呼ばれるサービスもご提供できます。

 ドライバーやGOALに寄せていただいたご相談への対応を通じて、課題解決の幅を広げ、奥行きを深めていきたいと思っています。

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