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GOAL─物流における潜在的課題を解決

佐川急便
  • ■佐川急便の先進的ロジスティクス プロジェクトチーム「GOAL(GO Advanced Logistics)」。SGホールディングスグループ全体から、国際物流やコールドチェーンなど、多様な領域のプロフェッショナルを結集し、カスタマイズ ソリューションの提供に取り組んでいる。
  • ■顧客企業が抱える、潜在的なロジスティクスの課題をどう把握し、解決していくか。荒木秀夫社長とGOALの主要メンバーが、GOALの軌跡と現在の手応え、今後の目標を語り合った。(司会進行:日経BP社副社長 酒井綱一郎)
荒木 秀夫
佐川急便株式会社
代表取締役社長
荒木 秀夫

――物流各分野のスペシャリストで構成されるチーム「GOAL」の発足から5年ほどたちました。これまでの活動をどう評価していますか。

荒木 いくつかの成果も上がっていますし、事業も成長を続けています。

 佐川急便は約100万社のお客様とお付き合いをいただいていますが、個別の物流課題に関するソリューションを提供しているお客様は、まだわずかです。営業の深掘り、言い換えると、GOALの存在と課題解決の事例を知っていただき、お客様から「相談してみよう」と思っていただけるような活動が大切だと考えています。

山本 将典
営業開発部
部長
山本 将典
GOALの統括責任者。佐川急便だけで150人、SGホールディングスグループを含めると200人以上のGOALのメンバーを率い、新たなソリューションの開発に奮闘を続けている。

 さらに今後は、資本や業務の提携を含め、お客様とより深い関係を築き、お客様のニーズをつかみ、より良い提案ができるようにしていきたいと思います。GOALのメンバーも補強していく計画です。

山本 この5年間で、お客様のお困り事に関するセールスドライバーの感度が大幅に上がってきました。

 例えば青森のドライバーが、担当のお客様がコンクリートの防波堤の輸送にお困りであると気づいて、GOALのメンバーがそのソリューションを提案しました。日立物流さんと資本業務提携をしたことで大型の特殊貨物も運べるようになっていますので、宅配便以外の大がかりな仕組みについても提案ができたのです。

 その事例を社内報で紹介したところ、様々な地域のドライバーが同じような課題の案件を探すようになりました。当社が抱える約3万人ものドライバーの感度が上がれば、ものすごい量の情報が集まりますから、これは大きなパワーです。

顧客企業と一緒に課題を解決する

吉田 GOALのメンバーも、これまではどうしてもラストワンマイルに目を向けがちでしたが、今ではお客様のサプライチェーン全体を可視化し、どこに課題があるかを探るところから仕事をするようになりました。

 お客様の潜在的な課題を発見し、そのソリューションを開発して提供する。そんな姿勢に変わってきたのです。

 その一例が、外資系の保険会社様に提供したソリューションです。保険会社で物流というと意外に思われるかもしれませんが、情報化が進んでも、代理店に営業用パンフレットや販促品を配送する機能は欠かせません。代理店はパンフレットや販促品が切れると営業に支障をきたすので、多めに発注しがちです。結果、余らせて廃棄するムダが生じます。

 そこでパンフレットや販促品を発注する情報システムをグループ会社のSGシステムが開発し、発注情報を当社の倉庫で受けて、必要なときに必要な数だけお届けする一貫システムを提供したのです。このシステムは保険業界に広がり、今では10社以上で採用されています。

 このSGシステムを含め、SGホールディングスグループ17社が連携し、配送から倉庫、情報システム、さらには決済までのソリューションをワンストップで提供できることが大きな強みです。

――宅配便に限らず、物流に関する新たなチャレンジをすることが、GOALの使命というわけですね。

青木(康) 私が担当する3PL(サードパーティー・ロジスティクス)事業では、チャレンジが欠かせません。ほとんどのお客様は「佐川急便は宅配便の会社」と思っていらっしゃいますから、「こんなものも運べます、こんなこともできます」と説明しながら、お客様の悩みを引き出すように努めています。

 それが成功したのが、ある健康関連会社の例です。宅配便では取引があったのですが、「海外はどんなところから仕入れているのですか」とお尋ねすると、「海外もできるの?」と驚かれました。そこで国際物流の専門家である池田とともに当社の強みを説明し、海外からの製品仕入れ、国内保管、宅配便による配送、さらにはお客様専属の車両を使ったルート配送までを一括で請け負うことができました。

 宅配便という“点”の仕事から、“面”へと業務範囲が広がった。それがGOAL誕生後の大きな変化です。

池田 立秋
営業開発部
国際事業推進担当部長
池田 立秋
国際物流のスペシャリスト。2018年3月に発足した国際事業推進課の営業スタッフの力を結集し、海外案件を中心に国際物流の課題解決に取り組んでいる。

池田 確かにGOAL発足当時は国内配送の話しか聞いてもらえないこともありました。しかし、グループの総力を結集したソリューションの提案をしておりました。「海外のトラック輸送も倉庫も、国際輸送もできます」と粘り強く説明をしてきたところ、お客様の認識もかなり変わってきました。

 今は最初から「佐川急便ならお客様と一緒になって課題解決が図れる」という姿勢で臨む形でのお打ち合わせが当たり前のようになっています。

 ここ5年ほどで当社グループは、国内だけでなく海外からシームレスに物流システムを提供でき、宅配便だけでなく大型荷物やロット荷物も配送できる総合物流業に変わってきました。

青木(彌) 私は究極のラストワンマイルともいえる館内物流を担当しています。この事業でもチャレンジは欠かせません。

 大規模に限らず複合施設では竣工後、五月雨式でオフィスが入居してきます。入居完了後から、宅配便の共同配送や、商品を直接納入する事業者の車両管理、セキュリティーの確保といった通常の館内物流業務が始まります。

 一方で、これから入居されるオフィスは入居前の様々な工事や移転業務があり、工事車両の管理とともに、その工事資材やオフィス什器などの荷さばきからオフィスフロアまで運ぶ揚重(ようじゅう)作業も並行して行う必要がありました。予想を上回る業者や荷物の集中が発生しましたが、それも当社で全ての物流をコントロールして、業務を滞りなく回すことができました。

 また商業施設の開業に伴い、店舗家具や什器を海外から店舗まで一気通貫で調達するという、新たなソリューション開発にもチャレンジしました。

吉田 お客様の抱えている課題はそれぞれ異なりますから、GOALの専門家が中心となって一つひとつ解決策を見いだしていく。それが積み重なっていくと、ソリューションのメニューはどんどん増えていきます。

いかにニーズを見つけるか

青木 康弘
営業開発部営業開発課
上席課長 東日本担当
青木 康弘
企業の物流を包括して受託する3PL(サードパーティー・ロジスティクス)のスペシャリスト。同時に東日本エリアの営業を担当し、国際物流のソリューション開発も手掛ける。

荒木 お客様がとり上げた課題に応えるだけでなく、お客様と話し合っていくうちに気がついていないニーズを見つけ、GOALのメンバーが中心になってソリューションを組み立てていく。それが重要だと思います。

 もともとはそのお客様のためだけに提案するソリューションですが、チャレンジをして壁を乗り越えると、それが財産になっていき、提案できるソリューションの引き出しが増えていく。そんな好循環をGOALのメンバーには期待しています。

――GOALにはどのような分野の専門家がいるのですか。

山本 今は専門家を「スマート納品」「グローバルロジスティクス」「コールドチェーン」「ファシリティ」「共配利用運送」「リバースロジスティクス(静脈物流)」「コンサルティング」といった7領域に分けています。

 一方で営業を担当するメンバーは、北海道、東日本、中部、関西、九州に分けて活動をしています。

 まず営業を担当するメンバーがお客様を訪問し、課題を見つけてくる。次にその課題の解決に長けた専門家をアサインして、最適なソリューションを開発する、といった流れです。

 例えば、オンワード樫山様のベトナムからのアパレル製品調達システムは、青木(康)がお客様の課題を伺い、池田の国際物流チームとともに開発したソリューション事例です。

吉田 誠明
営業開発部営業開発課
上席課長
吉田 誠明
GOALの事務局長的存在。北海道・東日本・中部・関西・九州に分かれている営業の第一線と、GOALのメンバーをつなぎ、営業活動をサポートする。

青木(康) 以前からお取引のあったオンワード樫山様が国内の物流改革を計画していると聞き、訪問しました。いろいろと話を伺ううちに、「ベトナムの協力会社でアパレル製品を生産しているが、将来的には物流作業もベトナムにシフトしていきたい」というご希望をお持ちなのが分かりました。

 そこで池田のチームと一緒に訪問して、「当社のグループ会社がベトナムに倉庫を保有しています。そこを利用すれば新たな輸送システムを構築できます」と提案したわけです。

池田 アパレル製品は遅くとも発売の半年前には製造をしなければなりません。しかし、国内の物流センターはどの業界も人手不足に直面しています。このため、発売直前の段階で国内の物流センターで処理することが難しくなってきている、というお悩みを先方の担当者様はお持ちでした。

 そこでベトナムの保税倉庫で入庫検品し複数の工場の製品をまとめます。さらには国内の店舗ごとに仕分け作業まで行ったうえで製品をコンテナで輸入する国際一貫輸送(スマート・インポート)を提案したのです。国内の調達先からの納品物流の仕組みを、そのまま海外の調達先にも応用したわけです。

物流は利益に直結する経営戦略

青木 彌明
営業開発部営業開発課
課長
青木 彌明(ひろあき)
大規模複合施設内のモノの流れに加え、人や車、情報、設備保全なども一元管理する「館内物流」のスペシャリスト。多くの大規模複合施設で館内物流システム開発に携わってきた。

――青木(彌)さんの担当する館内物流はファシリティの領域に属するわけですね。館内物流にはどんな専門知識が必要なのですか。

青木(彌) 館内物流は、実際に業務を開始する何年も前から検討に入らなければなりません。最初に施設の設計図面を拝見し、荷さばきするバースの数は適当か、エレベーターの大きさや動線は問題ないか、物流目線でデベロッパーや設計会社に提言します。実際に、設計を変更していただくケースも珍しくありません。

 つまり、館内物流システムの構築には、設計の段階で施設自体を把握し、当社が持っている実績データを基に、施設に入るモノや人、車、などの流れをシミュレーションし提案する専門知識が必要になってきます。現在、最も長期にわたる案件では、2032年に完成する施設の館内物流についてご相談を受けています。

――今後の目標をお聞かせください。

山本 今では「佐川急便が運べないものはない」という意識が会社全体に浸透してきました。GOALのメンバーも、これまで見えなかったお客様の潜在的な課題を発見し、ソリューションを提供するというチャレンジを積み重ねてきました。

 ただし、まだ十分ではありません。メンバーの一人ひとりが、それぞれの専門領域でレベルアップを図っていかなければなりません。GOALがカバーする専門領域をもっと広げていくことも大切だと考えています。

荒木 最近は経営者の皆様の物流に関する意識が変わってきました。物流は利益や成長に直接結び付く、重要な経営戦略の一つであると認識されるようになりつつあります。そのようなご期待にお応えするためにも、GOALをさらに発展させていかなければならないと決意しています。

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