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教育現場で進められる働き方改革

働き方改革への取り組みは教育現場でも進められている。東京都教育委員会は平成30年2月に「学校における働き方改革推進プラン」を策定し、教育の質を維持向上させるために「週当たりの在校時間が60時間を超える教員をゼロにする」ことを当面の目標に掲げた。しかし、新型コロナ感染症によって教育現場は大きな影響を受け、教員の負荷はますます大きくなっている。こうしたなか、墨田区教育委員会はSaaS型勤怠管理システム「勤給解決」を導入し、働き方改革を加速させている。そこではどのような取り組みが進められているのだろうか。

教育現場の働き方改革のスタート地点は“在校時間の把握”

墨田区
教育委員会事務局
庶務課
庶務・教職員担当
課長補佐
大島 悠樹 氏

 社会環境が急速に変化するなかで、教育現場も常に変化への対応が求められている。最近では「生きる力」が重視されて、英会話やITに関する教育が強化されている。教育課程の基準である学習指導要領は度々改訂され、教員はその対応に追われることになる。若手は慣れるまでに時間がかかり、ベテランでも新しい取り組みへの対応が求められる。

 教育だけではなく、保護者との密接な連携も重要な業務になるなど、教員の勤務時間は長時間化の一途をたどってきた。そこに新型コロナウイルス感染症への対応という新しい要素も加わった。公立教育機関として、7つの幼稚園、25の小学校、10の中学校がある墨田区でも事情は同じだ。

 墨田区 教育委員会事務局 庶務課 庶務・教職員担当 課長補佐の大島悠樹氏は「教員の働き方改革は待ったなしです。平成31年3月に墨田区教育委員会が策定した「区立学校における働き方改革推進プラン」では、学校教育の質の維持向上を目的としていますが、そのためにも教員の負荷の軽減が必要です。しかし、その前提として在校時間を客観的に把握する必要がありました」と語る。

 これまで教員の出退勤管理は紙の出勤簿で行われてきたが、自分の出勤簿のその日の欄にハンコを押すだけ。労働時間は厳密に管理されていなかった。

 長時間勤務を深刻な問題だと捉えていても、実態を正確に把握していなければ適切な対策は講じられない。教育現場の働き方改革の「スタート地点」は勤務時間を正確に把握することだったのである。

選定の決め手になった「勤給解決」の3つの特長

 働き方改革の入り口として、まず議論されたのが教員の在校時間を把握するための方法だった。データとして分析したり活用したりするには、タイムカードではなくシステムによって出退勤時間を記録する必要がある。教員の働き方改革を担当することになった大島氏は早速、具体的なソリューションの情報収集に乗り出した。

 「どのシステムが良いのか判断するために20社くらいのシステムを調べ、情報を教育委員会事務局内で共有して議論しました。利便性、コスト、拡張性などの項目で比較検討した結果、シフトが提供する『勤給解決』を選定しました」と大島氏は話す。

株式会社シフト
営業部
リーダー
新妻 宗人 氏

 選定の決め手となったのは大きく3つあった。1つ目は工事不要で導入できることだ。すでに導入されているタブレットPCで運用が可能であり、コストを抑えることができた。「クラウドサービスなので、初期費用が抑えられることもメリットでした」と大島氏。セキュリティ面でも富士通が提供するクラウドサービスが勤給解決の基盤になっているという点が安心材料になったという。

 2つ目は「カメレオンコード」というシフトが独自に開発した画像認識技術だ。タブレットPCのカメラで読み取ることができるカラーバーコードで、カラープリンターで手軽に作成できる。

 3つ目は出退勤だけでなく、休暇の管理にも対応できる拡張性だ。教員は1時間単位で休暇を取ることができ、約40もの休暇の種類がある。勤給解決は追加の費用なしでそれに対応できた。

 シフト 営業部 リーダーの新妻宗人氏は「お客様がカスタマイズ不要で対応できたのは勤給解決だけだったと伺っており、その点を評価していただいたのは嬉しい限りです」と話す。

2段階に分けて導入し墨田区全校の約1000名の教職員が利用

 勤給解決の導入は2段階で行われた。まず平成30年11月から小学校1校と中学校1校をモデル校として常勤の教職員全員を対象に導入した。「トライアルでは出退勤管理機能だけを使用し、管理職からは簡単に時間管理ができるようになったと好評でした」(大島氏)。

 この結果を受けて翌年4月から墨田区が管轄する全校約1000名の教職員に対象を広げて出退勤管理を行い、モデル校の2校には次のステップである休暇管理機能の試行を開始した。現在では全校の休暇管理も勤給解決で行っている。

墨田区立押上小学校
副校長
藤井 洋子 氏

 墨田区立押上小学校 副校長の藤井洋子氏は「当初はハンコの出勤簿と勤給解決を併用していて、教職員が不慣れなこともあり打刻忘れも発生していました。何十枚もある出勤簿をめくって自分の欄を探す必要もなくなり、今は一瞬で打刻が済むのでとても楽になりました。時間管理もしっかり行えています」と評価する。

 ただし、休暇管理については課題も表面化した。現在はシステムと紙との両方で申請することになっているが、システムと紙では運用方法が異なるため、混乱が発生してしまっていたのである。休暇を取得するとき、今までは紙の管理簿に記入をしていたところを、システムへの入力という方法に移行したことで、教職員が戸惑う場面がありました」(藤井氏)。

墨田区立押上小学校

一人ひとりに対応した働き方改革の実現へ

 「思いがけず、勤給解決によって働く時間を意識するようになりました」と藤井氏は語る。システムによって勤務時間を管理することは、働くことを「見える化」するとともに、管理者の意識改革にもつながる。「2020年4月から9月の在校時間の集計データを各校長に示したところ“こんなに在校時間が長かったのか”と驚かれました。システムを使ったことで現場のトップの気づきを促せたことは、今までとの大きな違いです」(大島氏)。

 「勤給解決」の導入で紙の出勤簿にハンコを押す手間がなくなった。「カメレオンコード」をタブレットPCのカメラで読み取るだけ

 次のフェーズは各職員が自分のデータを見て一人ひとりが自分の働き方を意識して見直すことだ。自分がどれだけ働いているかをデータで可視化することで、業務上の課題を再認識すれば解決の道も自ずと開けてくる。大島氏は「効率化できるところはないか、役割分担を変えられないか、など具体的な行動につながることを期待しています」と語る。

 管理職である藤井氏は「教員と一言に言っても、立場は様々です。子育て中の人は自宅で教材研究をしていて、勤怠管理のデータ上では残業が見えづらい。状況を理解したうえで残業時間を分析することで、一人ひとりに対応した働き方を考えることができます。システムの力を借りて客観的に見られるようになったことの意義は大きいですね」と話す。

 園児や児童、生徒を相手にする教員はテレワークにシフトすることは難しい。それでも勤務時間を様々な方法で客観的に把握できるようになっている環境があることは大きな意味がある。withコロナ/afterコロナの時代の働き方改革は、働く人の意識を変えることが大前提となる。今、教育現場もそこに向けて動き出している。

ユーザー紹介
  • 墨田区教育委員会
  • 所在地東京都墨田区吾妻橋一丁目23番20号
  • 概要墨田区教育委員会は、次代を担う、すみだの子どもたちが、豊かな社会生活を送っていくための確かな学力・体力・人間性を身に付け、健やかに成長することを目指している。学校(園)、家庭、地域と連携し、各教育施策に取り組んでいる。
  • URLhttps://www.city.sumida.lg.jp/kosodate_kyouiku/kyouiku/kyoikuiinkai/
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