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【ニューノーマル時代の金融DX】急がれるビジネスモデル変革、百十四銀行が目指すデジタルシフトとは

ニューノーマル時代の金融DX

経費率の改善、デジタルニーズへの迅速な対応などの経営課題を抱え、さらにコロナ禍による経済環境の激変に直面している金融機関。このような課題解決が急務だ。では、そのカギを握るデジタルトランスフォーメーション(DX)をどのように推進し、ビジネスモデル変革を成し遂げることができるか――。香川県高松市を拠点とする百十四銀行におけるデジタルシフトの取り組みからそのヒントを考察する。

総合コンサルティング・グループを目指す、
百十四銀行のDX戦略

 不確実性が増していく中で、あらゆる業界・企業でDXが求められている。金融機関も例外ではない。今後も持続的成長が可能な収益性と経営の健全性を確保するためには、高い経費率の改善、デジタルサービスへの対応、コンプライアンスとセキュリティーの確保、経済再生に向けた責任の遂行など、抜本的な改革による課題解決が急務となっている。

 現地現物主義、現行品質至上主義、自前主義などにみられる従来の商習慣や体質から脱却し、「フルデジタル化」「事業の選択と集中」「外部サービス活用」に舵を切ったビジネスモデル変革を推進していく必要がある。

(図)金融機関のビジネスモデル変革

 このような変革に向け、グループを挙げてチャレンジしているのが、香川県高松市に本店を構える百十四銀行である。「トライ☆ミライ!」をスローガンに掲げる新中期経営計画(2020年4月~2023年3月)のもと、「当行ならではの新たな価値提供を通じて、お客さま・地域の未来を共創する総合コンサルティング・グループを目指す」とする。

 ITを活用した業務効率化と人材の戦略的配置によって競争優位性を確立するとともに、金融の枠にとらわれない質の高いコンサルティングを通じて顧客や地域社会との共通の価値創造に取り組み、地域の様々な課題を解決する「地域のプラットフォーマー」となることが、百十四グループが志向するDXのコンセプトである。

非対面のダイレクトチャネルへの
注力と店舗のデジタル化

大平 正芳 氏
株式会社百十四銀行
執行役員 事務統括部長
大平 正芳

 百十四銀行がデジタル化への取り組みを本格化させたのは、経済産業省が発表したレポートがきっかけとなり、DXの重要性に対する認識が急速に広まった約2年前のことだ。RPAやグループウェアなどのITツールを導入し、行内業務の効率化を進めてきた。そして現在はその仕組みやノウハウをグループ各社に広げている過程にある。

 そして最優先課題として注力しているのが、ネットを活用した非対面の取引チャネルの拡充である。インターネットバンキングの「114ダイレクト」や「一生通帳 by Moneytree」と連携して家計管理をスマート化する「百十四銀行アプリ」など、積極的な投資を行っている。

 百十四銀行 執行役員 事務統括部長の大平正芳氏は、「店舗統合で最寄り店舗が遠くなったお客様の利便性を維持することに加え、普段は仕事などで来店できないお客様でもお取引が可能となるような、新たなカスタマー・エクスペリエンス(顧客体験価値)を提供したいと考えています」とその狙いを語る。

地方銀行で初の試みとなる
デジタル手続アプリをリリース

 そうした中で百十四銀行が2020年8月31日からサービス提供を開始したのが、「114デジタル手続アプリ」という新たなスマートフォンアプリである。「利用できないキャッシュカードの再発行」「紛失・盗難によるキャッシュカード・通帳の喪失手続(利用停止・再発行)」「住所・電話番号の変更」の3つの手続きを一括してサポートするもので、地方銀行では初となる試みだ。

「114デジタル手続アプリ」のトップ画面
「114デジタル手続アプリ」のトップ画面

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、人々の生活様式や企業の業務形態は、不要不急の移動や多人数の濃厚接触を回避すべくリモートを主体とした新常態(ニューノーマル)に移行。そうした中で銀行には、安定した金融サービスを継続的に提供するとともに、顧客の利便性を高め社会の変化に対応した新しいデジタルサービスを迅速に拡充することが求められている。

 114デジタル手続アプリは、そうしたニューノーマルに対応して銀行のあるべき姿を見据えたDX戦略の新たな一手として位置づけられているのである。

 さらに、114デジタル手続アプリは必ずしも非対面のみを想定したチャネルではない。若干のカスタマイズを加えることで店舗における接客サポートツールとしても活用することが可能だ。「まずは非対面を対象として開発したチャネルやアプリを、店舗や営業、コンサルティングなどの対面を基本とする様々なビジネスシーンにも横展開して活用していくことにより、重複投資を最小限に抑えつつ、地域のプラットフォーマーとしての活動を強化していきます」と大平氏は強調する。

アプリ開発のスピードアップを実現した
デジタルサービス・プラットフォーム

利部 智 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
金融サービス事業部 金融プラットフォーム・ソリューション
パートナー
利部 智

 DXを推進していくうえでのもう1つの重要ポイントは“スピード感”だが、百十四銀行は114デジタル手続アプリを約5カ月という短期間かつ低コストで構築し、サービスを開始している。なぜこれが可能だったのだろうか。

 百十四銀行は現在、三菱UFJ銀行の勘定系および情報系の基幹システムをベースに構築したシステムを共同利用する地方銀行の広域連携「Chance地銀共同化」に参加している。この共同化システムの開発・運用を担っている日本IBMが、新たに開発したデジタルサービス基盤「Digital Service Platform」(以下、DSP)を、Chance 地銀共同化行として初めて採用したことが大きな契機となった。

 日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 金融サービス事業部 金融プラットフォーム・ソリューションの利部智氏は、「DSPの主要機能の1つが業務マイクロサービスと呼ばれるもので、利用者認証を含め金融機関で用いられる汎用的な取引機能をサービス部品として提供します。Chance地銀共同化行はAPI経由でこれらの業務マイクロサービスを利用するとともに、外部のFinTechサービスと連携することも可能で、金融機関に課せられる強固なセキュリティーを担保しつつ、銀行ごとの独自戦略に基づいたスマートフォンアプリを展開していただけます」と説明する。

 実際、百十四銀行はこの業務マイクロサービスを非常に高く評価しており、「当行として今後アプリを通じてお客様に提供したいと考えている手続きや取引のほぼすべてが、標準で準備されていることに驚きました」と大平氏は語る。

笠井 克明 氏
株式会社地銀ITソリューション(RBITS)
企画本部 本部長
笠井 克明

 さらに、日本IBMと連携して114デジタル手続アプリの構築にあたった地銀ITソリューション(RBITS) 企画本部 本部長の笠井克明氏は、「アプリの規模の拡張や変更を最小単位で実施できるDSPのメリットを生かすことで、百十四銀行様の要件に柔軟にお応えするアジャイルな開発を実践してきました」と語る。こうして114デジタル手続アプリは、前述したような短期間でのリリースを実現した。

 百十四銀行 事務統括部 事務管理グループ部長補佐の平尾正久氏は、「DSPを活用したアプリ開発は、肌感覚として構築期間を従来の約30%短縮し、コストについても約40%削減するという実感を持っています。これにより今後のアプリ展開にも大きな弾みがつくと考えています」と期待を寄せている。

(図)金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)

非対面デジタルチャネルへの移行で
事務工数を年間5%以上削減していく

平尾 正久 氏
株式会社百十四銀行
事務統括部 事務管理グループ部長補佐
平尾 正久

 114デジタル手続アプリは当初の想定を大きく上回る、約2倍のペースで利用を拡大している。これを受けて大平氏は、「店頭で行われている定型的な取引を非対面のデジタルチャネルに移行していくための確かな手応えを得ることができました」と語り、114デジタル手続アプリのさらなる拡充を進めていく意向を示す。

 すでに学校関係の授業料や諸経費の口座振替受付を可能とする機能開発を進めており、2020年度内にもリリースを予定しているという。また、これらのデジタル手続きを充実させていくことで窓口の事務負担を減らし、DXの最終目標であるコンサルティング力の強化に向けて人員のシフトを進めていく考えだ。

 具体的には2019年度比で年5%以上の事務工数の削減を続けていく計画で、百十四銀行は抜本的な構造改革に向けた取り組みを加速させている。

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