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「働き方改革」で成果を上げる秘訣とは?

オフィス用品からIT機器全般まで幅広く提供し、企業の情報化、業務効率化を支援している大塚商会。同社は「働き方改革」が叫ばれる以前からその取り組みを実践し、大きな成果を上げてきた。その結果、従業員数をそれほど増やさずに売上アップを実現させている。では、労働生産性を上げる「働き方改革」とはどのようなものか。大塚商会の経営改革をリードしてきた代表取締役社長の大塚裕司氏と、研究者の立場から健康経営を提唱する慶應義塾大学教授の島津明人氏の対談。前編では、大塚商会の取り組みを通して働き方改革で成果を上げる秘訣について考えたい。

企業の体力を強化し、実残業制度導入を断行

大塚裕司氏
株式会社大塚商会
代表取締役社長
大塚裕司

―大塚商会では働き方改革にどう取り組んできたのでしょうか。

大塚 2007年の営業部門への実残業制度の導入のほか、役職定年制の廃止、定年延長など、以前から働き方改革には積極的に取り組んできました。なかでも大きかったのは、実残業制度です。これにより労働時間が可視化され、働き方が変わりました。実残業制度に移行すると、人件費が年間20億円程度増えることが予想されていましたが、それでも断行できたのは1993年から取り組んできた「大戦略プロジェクト」で生産性が大きく向上し、企業としての体力がついてきたところだったからです。

―大戦略プロジェクトとはどのようなプロジェクトだったのでしょうか。

大塚 私は創業者である父と意見が合わず、1990年に一度退職して約2年後に会社に復帰しました。退職した1990年の売上は1612億9900万円で経常利益は70億2800万円でしたが、復帰した1992年の経常利益は5億3000万円と大幅に減っていました。これを改善するために1993年の秋に10人程度の社員たちと経営体質を強化するためのプロジェクトを立ち上げました。それが、大戦略プロジェクトです。

―どのようなことを目指したのでしょうか。

大塚 企業会計原則通りに企業運営を行うということです。仕入れと販売、回収をしっかりとやって例外は認めないという姿勢です。柱にしたのは「センター化」と「出荷基準による売上の自動計上」です。エリア拠点ごとに保有していた在庫をセンターに集中させて、営業現場に委ねられていた計上基準を、出荷を基準とした計上に変更することで、ムダのない、企業会計原則通りで、現場まかせにしない、均一したマネジメント体制を確立しました。それを実現するために基幹システムをリニューアルして情報系システムと連動させました。

科学的手法を用いた営業活動を確立

島津明人氏
慶應義塾大学
総合政策学部 教授 博士(文学)
島津明人

―大戦略プロジェクトで成果は上がったのでしょうか。

大塚 新しい社内システムである「大戦略システム」は1998年4月から本稼働しましたが、同年7月には資金繰りがよくなり、100億円のキャッシュフローが生まれました。6月が営業の締めで、毎年7月には銀行から借り入れをしていたのに、逆に資金が余る状態にまで改善され、2000年7月には東証1部に上場できました。

 次に取り組んだのが、データに基づく科学的なアプローチで顧客満足と効率的営業を同時に実現する営業支援ツール、SPR( Sales Process Re-engineering )の開発です。顧客情報に裏付けられた営業活動を行うことにより、商談に至る打率と成約に至る打率を上げるのが狙いです。

 こうした科学的な手法の延長線上で働き方を見直しました。日通システムの勤次郎などを活用して労働時間を可視化し、残業を事前申請制にすることで働き方の見直しを促しました。結果として、従業員を増やすことなく業績を拡大できました。2019年の売上は2009年の約2倍ですが、社員数は7.3%しか増えていません。

島津 可視化は大事ですね。可視化ができると予測ができる。そうなると対処もできるようになります。可視化は予測可能性と対処可能性を高める効果が期待できます。

大塚 確かに、社員は工夫して働くようになりました。1人当たりの営業利益は約3.5倍に増えています。

労働時間の可視化は行動変容につながる

―心理学的に見て大塚商会の取り組みをどう評価されますか。

島津 実に人間の生理や心理に基づいた経営をされています。働き方が変わってきたのは、実労働時間が可視化されたことが行動変容につながったからです。人間は知識を持つことで意識が変わり、それから行動が変わると言われています。

大塚 勤務状況を可視化して残業を許可制にしたことで残業は大幅に減りました。夜8時すぎまで働いていたら集中力が落ちてきます。仕事の質も低下しますし、翌朝またやり直すようなことになったら会社にとっても損失です。

島津 長時間働いていると“疲労借金”がたまってきます。これが実は企業に大きな損失をもたらすことになります。今、健康経営の研究で注目されているのは、出社はしていても本来の力が発揮できていないプレゼンティーイズムによる損失です。

大塚 私もそれは感じています。幸せに働いていれば、業績も上がってくるものです。

島津 そのベースになるのが、公正に評価することです。正しい評価は働く人のモチベーションを高めます。反対にメンタルヘルス面でダメージを与えるのは、努力と報酬が不均衡な状態になっていることです。頑張ったら報われるようになっていることが大事なんですね。

大塚 確かにそうだと思います。中途採用に応募してくれた人に理由を聞くと「今の職場は頑張っても報われない」という人が多いですね。客観的なデータに基づいて正しく評価することが、働き方改革の第一歩です。

※後編は日経ビジネスの4/20号(4/17発売)掲載

(図)「働き方改革」&「健康経営」の勤次郎Enterpriseシリーズ(実現コンセプト)
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