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「2025年の崖」レポート作成者・経済産業省和泉憲明氏が語る DXを成功させた先にある日本企業の明るい未来

経済産業省が発表した「DX推進指標」について企業の自己診断を可能にするサイトを情報処理推進機構(IPA)が開設して半年。診断結果を回収、分析した結果から見えてきた、3つの重要ポイントとは。「DXレポート」作成をはじめ担当官としてDX推進をけん引する和泉憲明氏と、「DX推進指標」の策定にも携わった日本オラクルの小守雅年氏が、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を巡る現状と目指すべき姿について語り合った。

「DXレポート」に込めた
日本企業が目指すべき姿

村瀬 氏
経済産業省
商務情報政策局 情報産業課
ソフトウェア産業戦略企画官
博士(工学)
和泉 憲明
静岡大学情報学部 助手、産業技術総合研究所(産総研)サイバーアシスト研究センター研究員、産総研情報技術研究部門・上級主任研究員などを経て2017年8月より現職。「DXレポート」の作成をけん引した。

小守執行役員(以下、小守) 先年、経済産業省が取りまとめた「DXレポート」が公開され、企業の間で大きな反響を呼び、今も参考にされています。レポートでは、日本企業がDXの必然性を理解しながらも、取り組みが進んでいないという状況について指摘がなされていますね。

和泉氏(以下、和泉) はい。我々が企業の皆さんにぜひとも訴えたいのは、DXとはデジタルによる「変革(Transformation)」であり、それは「工夫(Modify)」や「改善(Change)」といったものとは全く異なるものです。変革はいわば「全く違うものに変わること」を意味します。さらには、そうした変革を決して一過性のものとすることなく、ビジネスの環境変動に合わせて常に変化を続けているということ、そのことがDXのポイントなのです。

 柔軟性をベースにした変革の継続により競争力を維持している企業の姿が「デジタルエンタープライズ」であり、それこそがDX推進によって企業が目指すべきゴールなのです。欧米各国の企業による大胆な変革を目指した攻めのIT投資とは対照的に、日本では現行のビジネスモデル維持のための守りのIT投資。それはなぜなのか、そのギャップを明らかにしようというのがDXレポートに関わった我々の問題意識でした。

小守 レポートでは「2025年の崖」という表現を用いて企業におけるITシステム活用の現状についての警鐘を鳴らしていますね。

和泉 企業のIT環境を巡っては、ネオダマ(ネットワーク、オープンシステム、ダウンサイジング、マルチメディア)やIT革命といったムーブメントが定期的に発生しており、DXはその一つであると多くの経営者が解釈しているかもしれません。実際、DXというキーワードの下、レガシー刷新や、AI・IoTなどのデジタル技術、あるいはアジャイルやデザインシンキングといった新たなパラダイムなど、テクノロジーに関する喧伝が活発になっています。しかし、これらは、あくまで、道具に関する議論であって、ビジネスが中心のものではありません。

 言い換えると、既存のITシステムやレガシー資産の運用管理を効率化するためだけにIT投資のほとんどの部分を費やしてしまっていても、そのことが問題だという自覚症状はなくなってしまうようです。結果として、現状のビジネスを維持することに努めてしまうことになります。このことは、ある意味、IT環境に関する生活習慣病と言えるのではと考えました。運動習慣がないものの、贅沢な食事の支出ができていれば、その日常になんら問題はないかもしれません。しかし、駆け足くらいの運動であっても、突発的な必要性が発生してしまうと突然死のリスクにさらされてしまいます。

 確かに、ビジネスが堅調に推移しているなら、現状の経営は適正なものであり、あえて運動や食事の適正化を目指した変革は必要がない。そう考える経営者は多いでしょう。ところが、いざビジネス環境の変動に対応しなければならない局面に臨むことになると、既存の業務と密結合したITシステムでは競争力を発揮することができず、場合によっては会社が突然死を迎えかねない。そうしたリスクを「崖」という言葉で表現し、その実態を分析したわけです。

IT投資が増える理由/用途

IT投資が増える理由/用途
企業のIT投資の動機に関わる日米比較。米国企業が「攻めのIT投資」に軸足を置いているのに対し、日本企業は業務効率化やコスト削減に主眼を置く「守りのIT投資」から脱しきれていない。