2020年代という新時代の端緒に世界を襲った新型コロナウイルスは、人々を死の恐怖に陥れるだけでなく、生産活動の停滞やグローバルサプライチェーンの寸断によって、製造業全体に大きなダメージを与えた。
中でも深刻な危機に直面している業種の1つが自動車業界だ。新型コロナウイルスの感染拡大後、世界の主要自動車メーカーが発表または修正した2020年度業績予想は、その大部分が大幅減益、あるいは最終赤字という、極めて悲観的な見通しである。
さらに国や自治体の自粛要請によって、販売チャネルであるディーラー(販売代理店)は営業停止を余儀なくされ、自粛解除後も、感染を恐れて顧客が来店をためらう動きが続いている。こうした販売機会の喪失も、自動車メーカーの業績に急ブレーキをかけているようだ。
そうした中、一部のディーラーは、客が来店しなくても、欲しいクルマを選んで購入できる新たなサービスを開始している。スマートフォンやタブレット端末を使ってディーラーの営業担当者とビデオチャットを行い、営業担当者が店内に置いてあるクルマを案内するというサービスだ。リモート消費という新しいスタイルは、食品・日用品や衣料だけでなく、自動車の購入にも着実に及んでいる。
「そもそも、『モノからコトへ』という価値観の大きな変化とともに、自動車の購入スタイルはここ数年、劇的に変わっていました。新型コロナウイルスが引き起こした消費者の意識や行動の変化は、その動きに拍車をかけることになるでしょう」
そう語るのは、自動車業界をはじめとする世界中の様々な企業に対して、顧客体験を飛躍的に改善するクラウド型ビジネスプラットフォームやSaaSを提供するServiceNow Japanの神田祐樹氏である。
神田氏によると、「モノからコトへ」のパラダイムシフトによって、自動車業界を取り巻く市場環境はここ数年、「クルマが売れない(販売台数の落ち込み)」「クルマの買い方が変わった(消費者行動の劇的変化)」「顧客との付き合い方が変わった(デジタル需要の増加)」という3つの点で大きく変わっているという。
クルマが売れなくなったのは、よく言われる若者のクルマ離れや、EV(電気自動車)シフトによる新たな競争相手の台頭とともに、シェアリングをはじめとするモビリティー(移動手段)のサービス化(いわゆるMaaS)が進んだからである。こうした変化は新型コロナウイルス感染拡大の何年も前から起こっていたが、今後ますます加速することは間違いない。
では、そうした急激な構造変化の中で、日本の自動車産業が生き残るためにはどうすればいいのか。神田氏は、「クルマの買い方や、顧客との付き合い方の変化に対応し、モノ(クルマ)ではなく、コト(サービス)の価値によって顧客体験や顧客満足を高めることが大切です」と語る。
先ほど紹介したディーラーのリモート営業は、感染リスクを抑えながら顧客が求めるクルマを提案するという点で、これからの新しい買い方、顧客との付き合い方に対応したものと言えるが、「顧客との接点や接客方法を変えるだけでは、十分な顧客満足は得られません。複雑化するお客様リクエストに迅速かつ適切に対応できるサービスの質を兼ね備えることが何よりも重要なのです」と神田氏は提言する。