提言1

日本企業の立ち位置を理解せよ〜今こそ成功モデルに学べ〜

1 2

成塚 日本企業のDXの現状をどう見ていますか。

松本 今、DXは第3波に突入しています。第1波の主役は、「アタッカー」と呼ばれる企業でした。異業種へ参入し、デジタルの力で業界の常識を変革し、自らがプラットフォーマーとなってビジネスを展開する。その代表例が、GAFAです。例えば、米アップルはiPhoneで携帯電話を情報端末に変え、iTunesで音楽の流通を変革しました。米アマゾン・ドットコムは小売業を変え、米テスラは自動車のデジタル化を進めています。

第2波の主役は、オーナー企業。日本でも、ソフトバンクや楽天グループなどがGAFAのプラットフォーマー戦略に倣い、いち早くビジネスを展開しています。創業者が強い危機感を持ち、トップダウンで組織を動かす。こうした企業がDXで他社に先行しています。

そしていま突入した第3波。主役は、多くの一般企業です。かなりの企業がすでに動き始めており、時間との戦いでもあります。

成塚 GAFAのようなユニコーン企業に目が行きがちですが、本来、デジタル技術の活用による価値の多くは、既存事業の変革にありますね。

松本 まさにその通りです。マッキンゼーの推定では、デジタルで生み出される価値の7割は既存事業の変革により生み出され、残りの3割が新規のディスラプティブなビジネス創造から生まれることがわかっています。すでにデジタル化への遅れが顕著な日系企業のとるべき戦略的立ち位置は、出遅れによるアドバンテージ(後進性の利益)の最大化です。

成塚 デジタル先進国で成功しているモデルを学び、スピード感をもってDXを進める戦略ですね。「IT部門と事業部門の共通言語がない」「組織内人材をアジャイル型に育成する」「階級型組織に対するネットワーク型の導入」、これらは解決しづらいDXを阻む課題と言われます。ですが、デジタル先進国に目を向けると、実は多くのベストプラクティスが存在します。ただ、多くの日本企業の経営層は知らない。時間との戦いを制する一つの鍵は、ベストプラクティスの活用にあると思います。

松本 拓也[マツモト タクヤ]氏

マッキンゼー・アンド・カンパニージャパン
マッキンゼー・デジタル パートナー

早稲田大学商学部卒業。アクセンチュアのマネージング・ディレクターを経て現在に至る。DXの基盤となるクラウドネイティブ化、エンタープライズ・アーキテクチャの導入、IT組織のガバナンス改革、サイバーセキュリティ対策など、テクノロジーのモダナイゼーションを梃とした企業変革に関して深い知見と経験を有する。

提言2

DX推進を阻害する日本特有のハンディキャップ〜デジタル変革は「従来の」企業変革より難しい〜

成塚 クラウド導入率、データの利活用、アジャイル採用、様々な面で課題を耳にします。DXにおける日本企業の壁はどの辺にあるとお考えですか。

松本 驚くべき数字があります。マッキンゼーが約1,200社を対象に行った調査によれば、日本企業のDXは全体の16%程度しか成功していません。特に、製造、エネルギーなどのトラディショナルな業界での成功率は4~11%です。

日本企業でDXが成功したケースはわずか16%。トラディショナルな業界はさらに低い
出所:『マッキンゼー緊急提言 デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ』(2020年9月)

企業の変革全般での成功率が30%程度と言われるなか、DXの成功はそのおよそ半分です。DXにおける障壁は何か。ここでもう1つ興味深い調査データがあります。

DXを阻む高い壁は「組織」「人材」「文化」によるものが大きいことがわかる
出所:『マッキンゼー緊急提言 デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ』(2020年9月)

当社が実施した2,135名の経営者へのインタビュー結果では、その主な課題は技術的なものではなく、経営者のコミットメントや理解度、企業文化やデジタル人材の不足といった、人・組織にまつわる要因が上位にあがってきました。

成塚 興味深いデータですね。Apptioは、テクノロジーの経営資源と投資ニーズを統合的にマネジメントし、IT価値最大化を実践するご支援をしています。CIOと話す機会も多いですが、多くの悩みは「組織」「人材」「文化」に集約されます。IT部門と事業部門が同床異夢、デジタル人材不足、ITに関する知識不足・理解不足など、DXを阻む高い壁は簡単に変えられないものが多い。根が深いと感じます。

松本 デジタル変革は、これまでのIT投資とは根本的に異なり、事業コアやビジネスモデルそのものを変革する必要があります。競争優位性構築に向けたヒト・モノ・カネのリソース配分の変更、そして実行に向けた組織・スキルの構築が必要で、経営者にも強い覚悟が求められます。また、DXを進めるうえで、日本企業には4つの足かせがあると考えます。

1つ目の足かせは、経営陣のDXのとらえ方がばらばらで、戦略の方向性が定まらないこと。2つ目は、デジタル人材不足。3つ目は、現場を中心にDXに抵抗する人が出てきて、経営との間に断絶が起きていること。4つ目は、レガシーなITシステムが足を引っ張っていることです。これらの足かせを外していかないと、日本のDXは進まないでしょう。

成塚 確かに、経営とIT部門、ビジネス部門の間に断絶が見られる企業は、DXがうまく進んでいない印象があります。経営陣にITの知識がない。IT部門はビジネスのことを知らず、ビジネス部門はITのことを知らない。これでは難しいですね。

若手社員がデジタルを理解しているので、まずは彼らを中心に社内のカルチャーを変えていく必要性を感じています。

成塚 歩[ナリヅカ アユム]氏

Apptio株式会社
代表取締役社長

慶應義塾大学卒業後、日本総合研究所に入社。システムエンジニア、法人営業を経て2008年に日本マイクロソフトに転職。12年間にわたりエンタープライズ向けにビジネスを展開。直近ではSmart Storeのイニシアティブを立ち上げ、日本の小売業界向けのDXを支援。業務執行役員 流通サービス営業統括本部長を務めた後、2020年より現職。

松本 カルチャーを作る責任は、経営者にあります。DXは失敗がつきものですから、失敗を恐れずスピードを重視して進めなければなりません。アイデアを早く実行し、早く失敗して、早く正解にたどり着く。このサイクルを生かすにあたり、失敗が許されない古いカルチャーはDXの大きな障害になります。

提言3

障壁を克服するDX戦略の立て方〜高い目標設定が社員を変える。社内人材のリスキルを急げ〜

成塚 日本企業がDXを成功させるには、何が必要でしょうか。

松本 マッキンゼーでは、DXを成功に導くための6要素をまとめています。

まず大事なことは、経営者がしっかりとした戦略ロードマップを立てることです。それには定量的で全社員が理解しやすく、進捗を可視化できるような目標が必要です。目標が明確になれば、優先度も決めやすくなります。全体が1つの方向に向かっていけるので、部門間の対立や縦割り組織の弊害も解消しやすくなります。

私は「なるべく高い目標を決めましょう」とよく言っています。

マッキンゼーが提言する「全社的なDXを成功に導くための6要素」
出所:『マッキンゼー緊急提言 デジタル革命の本質:日本のリーダーへのメッセージ』(2020年9月)

成塚 高い目標ですか。例えばどのような。

松本 1つの事例として、第2波に分類されるニトリホールディングスがあります。いまの店舗数は722店、売上高は7169億円(いずれも2021年2月現在)ですが、同社は「2032年に3000店舗、売上高3兆円」という目標を掲げました。現状の4倍です。

この高い目標があるからこそ、全従業員が「いまの延長線上では無理。変革が必要だ」と考えるようになります。同社はブロックチェーン技術によって家具の配送を変革するなど、複数のDXを成功させています。

成塚 確かに高い目標です。そのレベルで明確な目標を作れば、戦術や優先度も決めやすくなりますね。さきほど「DXを進めるための人材不足」というお話がありましたが。

松本 はい。IT人材というと、データサイエンティストやUXデザイナーなどを想起するかもしれません。アイデアやアルゴリズムを考える人はもちろん大事ですが、本当に企業が増やさなければいけないのは、「デジタルで何ができるか」と「自社のビジネス」を共に理解している人材です。

そういう人材は社外にはいませんので、自社の若手社員を中心に、これから中堅やリーダーになっていく人を選抜し、その人たちにITのリテラシーやデジタル技術を学んでもらうのが一番の近道です。拙著『マッキンゼーが解き明かす 生き残るためのDX』(日本経済新聞出版社)では、「次世代リーダー」と表現しました。

成塚 戦略や計画、アイデアを出すチームには多様性が必要ですが、DXの実行メンバーには多様性は問いません。プランニングの段階では多様性が有効に働きますが、実行段階では逆に足かせになるという専門家もいます。実行部隊の核になる人は、社内の人材をリスキルして育てるべきですね。

松本 はい。ITを覚えたいとか、起業家精神を持っているような人材がベストでしょう。

提言4

DX戦略を実行する戦術〜デジタルの意思決定を加速・高度化させるTBMを使え〜

松本 DXで何をすればよいかとよく聞かれます。私がまず言うのは、DXのために何かを発明する必要はないということです。先進企業の成功事例を学び、模倣しながら、自社に合うものを取り入れていく姿勢が重要です。

また、世の中には様々なメソッドがありますから、それをうまく活用することも重要です。最近注目が集まっているTBM(Technology Business Management)もその1つですね。

成塚 TBMは米国の「TBM Council」というNPO法人を中心に開発しているメソッドで、1万1000人ほどの企業のIT責任者が参加しています。特徴は3つ。「ITコストの構造変革の実現」「経営とITの距離を縮め、断絶をなくすこと」「限られたIT予算を適切に再配置すること」です。Apptioの事業領域は、まさにこのTBMを活用し、継続的なビジネスインパクトをもたらす事業経営を支援することです。

Apptioは、企業がTBMというメソッドの実装と自走するための支援を行う
出所:Apptio資料をもとに作成

経営トップがITに対して正しい意思決定を下せる環境を作ることが大きな目的です。そのために、TBMでは既存のあらゆるITシステムの投資対効果(ROI)を徹底的に可視化します。

松本 新たなIT投資についてはROIを検討するが、決定後は放置してしまうケースが少なくありません。新旧大小を含め、あらゆるIT投資のROIを可視化しなければ、比較も検討もできません。

世界のエクセレントカンパニーがIT投資で試行錯誤してきたベストプラクティスを共有するものがTBMです。ファイナンスの意味合いでIT部門、事業部門の共通言語化を図り、組織全体でのデジタルの意思決定を加速・高度化させる。一言でいうと、事業部門とIT部門の距離を縮めるベストプラクティス、それがTBMの特徴です。

ITコストを可視化することで、IT部門と事業部門の距離が縮まり、経営者が意思決定できる基盤ができる
出所:Apptio資料をもとに作成

成塚 Fortune 100 企業の65%が、すでにTBMを実現するツールを導入し、ITシステムのROIを可視化しています。経営陣が意思決定できる基盤を作り、ITコストの最適化を進めます。

こうした成功事例やメソッドを多く知りたいというお声を多くいただき、2021年10月には、Apptio主催のセミナーをオンラインで開催予定です。IT投資の最適化に必要な考え方や手法を学びたいという方は、是非ご参加いただければと思います(本編文末に詳細)。

成塚氏は「意思決定を加速・高度化させるには共通理解、共通言語が必要で、それを担うのがTBMです」と語る

Fortune 100 企業の65%が、TBMのコンセプトで社内のあらゆるIT投資のROIを可視化。IT施策の意思決定をデータに基づいて実行している 出所:Apptio資料より引用

松本 新型コロナウイルスにより、新たな消費行動や働き方、価値観が定着するニューノーマルな時代に突入しました。DXへ舵を切り、業界におけるポジションを上げられるかが勝負になります。第3波では、多くの日本企業がDXに参加していきます。DX時代を生き抜くために、今から次世代リーダーを育て、10年先を見据えて動くことが重要です。

成塚 そのためには経営部門こそ、テクノロジーの問題を自分ごととして考えていく必要があります。もちろんIT部門に丸投げでは通用しないでしょう。かつて、MRPを輸入してJIT(ジャストインタイム)が作り出されたように、日本人はメソッドを学び、日本独自のやり方に変化させることは得意であると考えます。TBMというベストプラクティスから、まさにそういった事例が多く生まれてほしいと考えています。経営層、事業部門、IT部門が相互に納得できる事業環境の構築支援を通し、Apptioは日本企業のデジタル革命の推進を支援してまいります。本日はありがとうございました。

(左)最前線で活躍するお二人の熱いDX論は記念撮影が終わった後も続いた
(右)本書では、松本氏をはじめマッキンゼーの企業文化変革×デジタルのプロが、成功するDXを解説している

Seminar information

IT投資の可視化・経営資源の統合マネジメントのベストプラクティスを集約した日本で初めてのオンラインカンファレンス「Japan TBM Summit 21」を10月21日(木)9:00-12:10に開催。
国内外の経営陣、テクノロジーリーダーの知見、TBMメソドロジーを紹介します。

1 2

お問い合わせ

Apptio

https://www.apptio.com/ja/