顧客接点のデジタル化で急増する問い合わせ パンク寸前の機器を救った「カインズのコンタクトセンター改革」
顧客接点のデジタル化で急増する問い合わせ パンク寸前の機器を救った「カインズのコンタクトセンター改革」
顧客接点のデジタル化で急増する問い合わせ パンク寸前の機器を救った「カインズのコンタクトセンター改革」

従来の小売業とは一線を画すデジタル戦略を推進し、「IT小売企業」を目指す企業がある。ホームセンター大手のカインズだ。デジタル技術の積極的な活用を進める同社では、デジタル戦略の一環としてコンタクトセンターを刷新、CRMシステムとクラウドCTIが連携した新しいシステムを構築した。同社の「コンタクトセンター改革」に込められた狙いとは・・・?

デジタル戦略を強力に推進するカインズ

 実店舗とECサイトという2つの販売チャネルを「オムニチャネル」に融合し、顧客ロイヤリティを高める ―― これが小売業でよく見られるデジタル戦略だ。EC市場が急速に拡大するなか、実店舗だけでなくECサイトにも販路を広げることが狙いだが、どうしてもECサイトに片寄ったデジタル戦略になることは否めない。

 そうしたなか、実店舗を持つ強みを最大限に活用し、実店舗に来店する顧客も含めたCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)向上を目指すのが、小売・流通サービス業大手ベイシアグループでホームセンター事業を展開するカインズだ。

 同社は2019年7月に「デジタル戦略本部」を設置、全国225の実店舗に最新デジタル技術を導入するとともに、従来から運営してきたECサイトやモバイルアプリなどのデジタルチャネルと掛け合わせて「IT小売企業」となる取り組みを進めている。現在までに売場案内ロボットや経路案内サイネージ、従業員用の売場・在庫検索アプリを導入したほか、ECサイトやモバイルアプリで注文した商品を近隣店舗内や駐車場に設置されたロッカーで受け取れる取り置きサービス「CAINZ PickUp」(カインズピックアップ)を開始するなど、まさにオムニチャネルの手本となるデジタル施策を次々と展開。コロナ禍における非接触・非対面という顧客ニーズに応えるサービスとしても好評を博している。

 こうした実店舗とECサイトをつなぐデジタル技術の導入と時を同じくして、カインズは顧客との重要な接点となるコンタクトセンターの改善にも着手した。具体的には、Salesforce.comが提供するCRMシステム「Salesforce Service Cloud」と、Amazon Web Services(AWS)が提供する「Amazon Connect」を導入することで、サービスレベル向上と業務効率化を両立させるコンタクトセンターを実現したのだ。この陣頭指揮をとったデジタル戦略本部長の池照直樹氏に、同社が進めた「コンタクトセンター改革」について聞いた。

CRMシステム導入から始まったコンタクトセンター改革

写真:池照 直樹氏

株式会社カインズ
デジタル戦略本部長
池照 直樹

 カインズは延べ1200万人、実質約800万人の会員を抱えており、コンタクトセンターには会員を中心に商品の在庫確認やクレームなど、さまざまな問い合わせが寄せられる。だが、以前のコンタクトセンターは小規模で、オペレーターの応対業務もほとんど手動で行われていたという。池照氏は「問い合わせ1件当たりの応対時間が長くかかるなど“対応力”が弱く、サービスレベルの面でも課題を抱えていた」と当時を振り返る。

 そこでカインズでは、デジタル戦略本部を設置する前の2019年春ごろからコンタクトセンター改革に向けた取り組みを開始したという。

 「最初に着手したのが、CRMシステムを導入することでした。従来のコンタクトセンターでは、コール履歴をExcelで管理しながら会員情報のデータベースを手作業で検索・照合するといった煩雑なオペレーションで対応していました。ところが、ECサイトやモバイルアプリ、ECサイトと実店舗を連携させた店舗取り置きサービスの利用者が増えるにつれて問い合わせ数が急増し、従来のやり方では対応し切れなくなりました。そこで新たにCRMシステムを導入することにしたのです」

 カインズがCRMシステムとして選んだのは、Salesforce.comが提供する「Salesforce Service Cloud」だ。まずは、ここに顧客のコール履歴や会員情報などを集約し、次にCRMシステムと連携して動作するCTI(Computer Telephony Integration)システムを導入することにした。

 「それまで電話システムはPBXを使っていましたが、それではCRMシステムを効率良く運用することができません。そこでCRMシステムから直接、電話のオペレーションができるCTIシステムを導入することにしました」

写真:カインズ店舗

関東地方を中心に225店舗の
ホームセンターを展開するカインズ

Salesforceと高度に連携するAmazon Connectを採用

 CTIシステムを導入するにあたり、池照氏はまず、世界的にシェアの高いソリューションの導入も検討したそうだ。しかし、とくにコスト面でカインズのニーズとかけ離れていたため、早々に候補から外したという。

 「カインズのコンタクトセンターは当時、30~40人のオペレーターで対応している小規模なものでした。ここに多額の投資を行ってCTIシステムを導入することはできません。そこで導入候補をクラウドベースのCTIシステムに絞り込み、最終的にSalesforce Service Cloudと高度に連携して動作するAmazon Connectを選定することにしました」

 AWSとSalesforce.comの両社は長年にわたって強力なアライアンス関係にあり、Amazon ConnectはSalesforce Service Cloudからシームレスに利用できるようになっている。この連携性の高さに加え、クラウドサービスのAmazon Connectならば素早く立ち上げることができる。実際にカインズでは、Amazon Connectの導入を検討してからテスト稼働開始の2019年6月まで、約2カ月しかかからなかったという。

 「当社ではシステム基盤の一部をAWS上に構築するなど従来からAWSの利用実績があり、スケーラビリティの高さや従量課金のコストメリットを十分に理解していたことも、Amazon Connectを導入する決め手となりました」

 カインズでは、CRMシステムに顧客データ基盤を構築するという作業を7~8カ月かけて進め、その一環としてAmazon Connectの導入を済ませた。ちなみに、Amazon Connectでは大がかりなカスタマイズは実施せず、できる限り標準機能のまま利用している。

 こうして新しいコンタクトセンターシステムが本番稼働を迎えたのは2020年3月のことだった。

 「新しいシステムが稼働してさまざまな情報が蓄積されるようになったことで、コンタクトセンターの業務効率が向上し、応対時間も短縮するなどの効果が得られています。例えばオンラインショップに関する問い合わせでは、1年前と比べてクロージングまでの応対時間が平均2.8分ほど削減できました」

写真:画面キャプチャ

Salesforce Service Cloudからシームレスに
Amazon Connectを利用

コンタクトセンターの“対応力”を高める取り組みに注力

 カインズのコンタクトセンターでAmazon ConnectとSalesforce Service Cloudによる新しいシステムが稼働してから丸1年が経過した。この間、カインズではオペレーターだけでなく、問い合わせ内容のエスカレーション先となる担当スタッフの“対応力”を高める取り組みも行ってきた。例えば顧客体験向上とオペレーション改善を目的に「コールフロー」を設定・活用している。

 「現在はCRMシステムに蓄積した情報をオペレーターのクオリティ管理やパフォーマンス管理にも活用しています。通話内容の録音データを無作為に抽出して、やり取りの内容や声色を分析し、顧客応対の問題点をあぶり出して改善していくという取り組みを継続しています。これによりオペレーターや担当スタッフのスキル向上、サービスレベルの均等化が図られつつあります」

 こうした取り組みとともにカインズが進めているのが、コンタクトセンターのマルチチャネル化だ。現在は電話とホームページのWebフォームからの問い合わせが中心だが、ここにチャットやSNSなどの追加を予定しているという。

 「チャットについてはシナリオスクリプトを用意してチャットボットが応対したり、場合によってはAIを使ってエスカレーション先をコントロールしたりといった仕組みの導入を検討しています。また問い合わせのセルフサービス化を推進するため、FAQサイトの構築も進めています。ここには『よくある質問と答え』だけでなく、当社が社内で利用している教育マテリアルやオウンドメディアのコンテンツも盛り込む予定です。こうした拡張が容易にできるところも、Amazon ConnectとSalesforce Service Cloudを組み合わせた成果だと感じています」

 カインズは今後もマルチチャネル化を進め、コンタクトセンターにおける業務効率とサービスレベルのさらなる向上を目指しているという。カインズの事例は中小規模のコンタクトセンターを運営する小売・流通サービス業の企業にとって、大いに参考となるのではないだろうか。

写真:画面キャプチャ

カインズが設定・活用する「コールフロー」の例