目指すのは「事業コンシェルジュ」顧客の変革を支援するために自身の進化を加速目指すのは「事業コンシェルジュ」顧客の変革を支援するために自身の進化を加速

企業のライフサイクルを通じて成長をお手伝いしたい

長崎 弥生は既に業務ソフト分野の開拓者であり成功者です。その貴社が「事業コンシェルジュ」への進化を目指すという。ぜひお考えをお聞かせください。

岡本 当社のお客様は従業員数でいえば5人から20人くらいの中小企業や個人事業主など。法人、個人を問わず小規模の事業者がメインです。スモールビジネスとも呼ばれていますが、多くの事業者が新型コロナウイルスの感染拡大によって大きなダメージを受けています。状況は改善してきてはいますが、ほとんどのお客様にとって、現在が重大な危機であることは変わっていません。

 しかし、危機という文字は、危険を示す一方で機会も示しています。現在は対応を間違えると事業の存続が危ぶまれるピンチであると同時に組織や事業のあり方を見直す大きな機会でもあるはず。ならば我々は、お客様の変革をお手伝いしていきたい。そのためには自分自身が進化しなければならない。そうした考えが背景となっています。

長崎 会計ソフトの提供だけでは支援が十分ではないということでしょうか。

岡本 あえて言えば、会計ソフトを使うことを楽しんでいるお客様はいません。やりがいを感じているのはあくまでも自身の事業であり、事業の成長です。つまり、お客様が求めているのは会計ソフトの提供ではなく、事業を構成する業務の効率化やサポート、さらに言えば事業そのものの支援です。そう考えると、我々にできることは、ほかにもたくさんあります。それらを含めてお客様の成長をサポートしていく。そう考えて「事業コンシェルジュ」への進化を掲げています。

長崎 具体的には、どのような進化を考えていますか。

岡本 起業時の情報提供、資金調達にかかわるご案内など、事業活動をトータルにサポートしていきたいと考えています。例えば、事業継承などは社会問題として注目されている領域です。せっかく事業を立ち上げたのに起業者の代だけで終わりにするのはもったいない。リタイアを決意した人から起業意欲のある若い世代へ、バトンを渡すスキームを構築できないかと思っています。

長崎 生まれてから次の世代につなぐまで。まさに企業のライフサイクル全体をコンシェルジュとして支えるというわけですね。

岡本 今はまだ理想を掲げて走り出した段階ですが、そう進化していきたいと考えています。

チャレンジすることの意義を率先して示す

長崎 現在のビジネス環境において、変革の重要な役割を果たすのがデジタルです。多くの企業がデジタルによる変革、つまりDXに取り組んでいます。貴社はもともとデジタル領域の会社ですが、デジタルやDXの位置づけと具体的な取り組みについてお聞かせください。

岡本 正直なところをいえば「DX」という言葉はあまり好きではありません。「このソフトを使ってDX!!」というように、とてもデジタルによる変革とはいえない場面でも軽く扱われたりしている気がするからです。私が思うデジタルによる変革は「ものごとのあり方を根底から問い直し、できなかったことをデジタルの力でできるようにすること」です。

 このような機会をいただいたから言うわけではありませんが、私がDXの代表例としていつも挙げているのがアマゾンです。アマゾンはいったい何業なのか? もはや小売り業というのはふさわしくないし、クラウドの会社と断言するのも難しい。即答できる人はあまりいません。あえていうなら「アマゾン業」であり、それは「ものごとのあり方を根底から問い直し、できなかったことをデジタルの力でできるようにすること」を繰り返してきたから実現できたものでしょう。

長崎 ありがとうございます。とにかくお客様の役に立つことを考えるのがアマゾンです。業種や業態でチャレンジすべきことを定義していません。お客様の役に立つことが分かっていたら、それがどんな難しいことでも挑戦します。その試行錯誤の中で、苦しいときも続けていれば必ず光が見えてくることを体験として共有しているからこそ、新しいことにチャレンジし続けられるのかもしれません。

岡本 アマゾンのスケール感とスピード感には、正直、驚かされ続けています。もちろん、我々も挑戦しています。例えば、我々は会計ビッグデータとAIを活用して金融機関に与信サービスを提供するアルトアというベンチャーを設立しました。多くの金融機関がデジタルを活用して顧客向けの新サービスを開発しようとしていますが、与信の領域は、まだデジタルを活用することに対する抵抗が根強くあります。融資における意思決定は、まだ人の経験が重視されているからです。それに対してアルトアは、会計データを基にAIが判断を行う与信エンジンを提供します。会計データは事業者の活動を詳細に記録したデータ。申請時点のものではなく継続的事業の状況を評価できる上、改ざんなどが難しく、信頼を評価するのに最適なデータの1つとなります。ですから、このエンジンを使っていただけば、金融機関様は融資の申込に対して適切な条件を提示できます。

 人間が経験値でやってきたことをデータとAIに置き換える。この変革こそがDXなのではないでしょうか。アルトアによるパラダイムシフトは、約4年が経って、ようやく手応えを感じ始めています。見方によっては、4年もかかったと思われるかもしれませんが、このエンジンがスモールビジネスのお客様を支える重要な融資インフラになると我々は確信しています。

長崎 アルトアも弥生同様に岡本さんが代表を務めておられますね。

岡本 はい。弊社のソフトウエア事業は一定の評価をいただいていると思います。そのフィールド内であれば、確実に成果を上げられることも分かっています。しかし、そこにあぐらをかいていると、いずれ立ちゆかなくなる。だからこそ、新しいチャレンジによる進化が必要と考えているわけですが、当然、その道は険しい。ともすれば、簡単に成功する道を選択しがちです。ですから、信念と覚悟を持ってチャレンジしていくこと、進化を目指すことを社員に伝えたい。そう考えて、アルトアの事業を私自身がリードしています。

長崎 成功体験は自信をもたらしてくれるなど、よい面もありますが、一方、そこにとらわれすぎてしまうと停滞を招く場合もあります。新しいチャレンジはすぐに成果としてあらわれることが少なく、確かに厳しいものです。だからこそトップのリーダーシップが重要ですね。

デジタルによる社会変革にも貢献していきたい

岡本 もう1つ、近年、時間をかけて行っている取り組みに社会的な仕組みのデジタル化に関する提言があります。複数の企業トップと共同で行政に働きかけ、確定申告、年末調整、社会保険など、社会の多くの人がかかわる仕組みのデジタル化を促進し、利便性や社会全体の効率を高めるのが目的です。

 代表的なのが、毎年12月に事業者が大変な思いをしている年末調整です。年末調整は戦後、社会の仕組みが急変する中できあがったもので、かつては合理性があったものの現在の社会の中ではあまりにも非効率です。かつ本来は国が行うべき手続きを、事業者に負担させているという側面もあり、改善が必要だと訴えています。解決の力になるのがデジタルです。以前なら、年末の一時期のためだけに超大規模システムを構築しておくことはムダが大きすぎると指摘されたかもしれませんが、今なら、その時期にだけクラウドを使ってシステムを立ち上げればよい。申請書だって紙ではなくデータとして収集することが可能です。納税者数、テクノロジーなどの前提条件の変化を見極め、社会のあり方も変えるべき。今なら行政による年末調整の一括処理は現実的に可能だと提言しています。

長崎 冒頭で危険と機会のお話がありましたが機会につながる話ですね。コロナ禍は社会に大きなダメージを与えていますが、一方でデジタルシフトが加速したという声も多い。デジタル庁も創設され、社会的な機運が高まっている今こそ、そのような変革を推進していきたいですね。

岡本 国全体を巻き込む大きな取り組みであり、時間はかかるかもしれませんが、やり遂げたいですね。それにはAWSのようなプラットフォームが絶対に必要になります。

長崎 ぜひ一緒に社会の仕組みを劇的に変えるような事業にチャレンジしたいと思います。

顧客と社会の変革を加速させる弥生とAWSのパートナーシップ

長崎 先日、我々が提供しているトレーニングプログラムに参加いただきました。

岡本 先ほど、まずは私自身が進化に向けた姿勢を示すという話をしましたが、ボトムアップの動きも活発化してきています。その1つがAWSのトレーニングプログラムへの参加です。これは我々が参加を求めたり、強制したりしたのではなく、現場の社員からの意思表示に応じて決めた施策です。

長崎 参加いただいたのは、AWSを利用する開発者を支援する「DevAx」というチームが提供しているプログラムで、AWS上でのクラウドネイティブアプリケーションの設計、移行、プロトタイプ、運用について8週間の体験をしていただきます。 最後はワークショップ/ハッカソンとなっており、非常に実践的な内容です。実は日本の企業向けに実施したのは弥生 様が初めて。120人という参加者もグローバルの中でトップクラスの多さです。貴社の社員の方々の意識の高さに驚かされました。

岡本 詳細はまだお話できませんが、現在、当社はこれまでにない新しいサービスの開発に挑んでいます。この新サービスが事業コンシェルジュを実現し、実践していくための重要な基盤になると位置付けています。この開発を加速させるには社員の意識変革、そして、デジタルスキルの向上が欠かせません。AWSには、単にクラウドサービスを提供いただくのではなく、今回のトレーニングプログラムのように、我々の進化を包括的にサポートしてほしいと期待しています。

長崎 弥生という強力なブランドに安住せず、さらに進化させようとしている姿勢は見ていてとてもワクワクします。同時にお客様の事業コンシェルジュとなるために、まず自分たちが変わらなければいけないという意思を強く感じます。

岡本 繰り返しになりますが、現在が危機的な状況だとしても、目標を明確にして、継続的な取り組みを続ければ、大きく成長する機会になります。リモートワークがあたり前の時代となり、小規模な事業者でも、インターネットを通じて全国にサービスを届けられる時代ですし、サーバーにしばられず、ウェブサイトですぐにサービスを立ち上げることもできます。機会は目の前にあるのです。既に我々のお客様の多くが、そうしたチャレンジを始めている。それに後れを取らぬよう、我々も変革と進化を進めなければなりません。

 また、先ほど述べたようにデジタルによる変革の代表例がアマゾン。その存在がとても良い刺激になっています。その姿勢や取り組み、考え方からも学ぶことは多く、今後もパートナーとして良い 関係を継続していきたいと考えています。

長崎 事業コンシェルジュと近いかもしれませんが、弊社もテクノロジーを提供するだけではなく、新しいビジネスを創造し、お客様の成長を支える長期的なパートナーで在りたい と思っています。御社の高い志を共有する伴走者として選ばれ続けるように、我々も進化していくつもりです。