不正発生のメカニズムを知ろう
――企業における「不正」にはさまざまな見方があると思います。どう定義したらよいでしょうか。
辻 企業における不正を考えるポイントは大きく3つあります。「業務上の立場を利用すること」「悪いと分かっていて行うこと」「本来得るはずだった利益が失われること」です。この3つがそろった状態が「不正」と定義できます。
これに対して不祥事は、企業価値を傷つけるもの全般を指します。誤発注やシステムトラブルなど、意図的かどうかは関係なく、企業価値を損ねるスキャンダルです。不正は大きく見るとこの不祥事の1つに含まれます。
不正はなかなか見つけにくいものですが、企業の利益を個人が詐取してしまう横領などは、企業としてのガバナンスが問われる不正です。株主からは責任を追及されますし、従業員の士気の低下につながります。
――不正はなぜ起こるとお考えですか。不正が起きるメカニズムのようなものはあるのでしょうか。
辻 不正の発生原因を研究したものとして有名な「不正のトライアングル理論」があります。お金に困っているとか、遊ぶお金が欲しいといった「動機」、内部統制や監視が緩いとか、業務の中身を自分しか知らないといった「機会」、皆もやっているから構わないといった「正当化」。この3つがそろうと不正が起こり得るのです。
逆に言えば、この3つがそろわないようにすることが不正を防ぐうえで重要になります。
――経費精算の不正という点では、どんな人が不正をしやすいと思われますか。
辻 まず考えられるのは、接待交際費や出張費、交通費、物品購入費などの経費をたくさん使う現場で仕事をしている人です。立て替えたお金を精算するときに不正を行うという手口が最も不正がやりやすく、外回りなどを行う営業の人が行う不正が多くなります。
今年3月にコンカー協力のもと日本CFO協会が実施した『経費管理と不正リスクに関する実態調査』では、「経費精算の不正を見つけたことがある」と答えた人が約6割に上りました。多いのは出張費、交際接待費、近隣交通費、物品購入費です。
――経費不正が起こるパターンというものはあるのでしょうか。
辻 最初はホテルの宿泊費に飲み物代を上乗せすると行った少額の不正から始まり、それが通るとより高額なものも費用に含めるといった形で、エスカレートして大胆になっていきます。ついにはカラ出張の出張費を申請し、それが海外出張にまでなってしまったり、交際接待費の場合は私的に利用する金額が多額になったりしていきます。