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行動変容を促すKDDIのジョブ型人事制度

ジェネラリストからジョブ型人材の育成へ

石田 IBMの調査機関であるIBM Institute for Business Value(IBV)が2020年に公表した緊急リポートで、CEO(最高経営責任者)の約7割が「今の仕事にも新しいスキルが必要となる」と回答しています。デジタルによる変革にて事業そのものが大きく変わったことにより、求められるスキルも変化し、今までの延長線上では対応できなくなるという危機感の表れです。

石田秀樹氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング
タレント・トランスフォーメーション事業部 事業部長・パートナー
石田秀樹

 一方、“Skills is the new currency”と言われるように、スキルが通貨と同じように流通する時代になってきたことも見逃せません。そのためにはスキルの見える化が必要ですし、個人としてはあえて見せるという視点を持つことが求められるようになっています。

 今回、KDDI様が構築されたタレントマネジメントシステムには、こうした時代に積極的に対応していこうという狙いがあると感じています。御社が人事制度を見直し、キャリアを意識した自律的な人材マネジメントを支える新たなシステム構築に踏み出した背景にはどのような変化があったのでしょうか。

白岩 当社はもともと広範囲にわたる知識や経験を持つ「ジェネラリスト」の育成に取り組んできました。しかし、世の中ではジョブ型人財が注目されるようになり、実際にジョブによって人財が流動しています。以前から組織としてジョブ型人事に移行する必要性を感じていました。

 昨今のコロナ禍で働き方が変化したことも後押しとなり、2020年8月1日に「KDDI版ジョブ型人事制度」を導入し、それに対応したタレントマネジメントシステムの構築に取り組んできました。

白岩徹氏

KDDI株式会社
執行役員
コーポレート統括本部 人事本部長
白岩徹

 従業員の意識は一朝一夕に変えられるものではありませんが、今回構築したクロスキャリア(タレントマネジメントシステム)を活用することでジョブ型へのシフトを促していきます。“自分のキャリアは自分でつくる”ことがベースです。

社外でも通用する30の専門領域を設定

白岩 ジョブ型といっても専門性だけ高ければいいというものではありません。当社には従業員が持つべき考え方・価値観・行動規範を示した「KDDIフィロソフィ」があり、従業員には謙虚さや助け合う心といった人間性を持つべきだという教育をしています。一匹おおかみ的な人財を育成するわけではないのです。

 全従業員に共通したファンダメンタル(基礎的事項)なスキルと、DX(デジタル変革)人財に求められるような部門ごとに必要となるスキルを併せて人財育成に取り組む「KDDIユニバーシティ構想」を進めているところです。

石田秀樹氏

「自身の成長を促進する学びのトリガーがあることで、独り善がりではない、他の職務でも流通できるようなスキルを身につけることができるのではないでしょうか」

石田 今後のキャリアを自身の価値基準だけで思考すると的外れになってしまうこともありますから、ユニバーシティのような機関は大いに意味があると思います。様々な仕事が存在し、自身との関わりが分かるとキャリアを自分ごと化できますが、眼前の仕事に没頭してしまっている状態だと視野が広がりません。眼前の仕事以外に、自身の成長を促進する学びのトリガーがあることで、独り善がりではない、他の職務でも流通できるようなスキルを身につけることができるのではないでしょうか。仕事を整理する際に社外の視点(マーケットニーズ)も取り入れると全体に奥行きが出てくるはずです。

白岩 今回、ジョブをデータサイエンティストから営業、法務、人事など30の領域に整理しました。これらの領域は社外でも通用するものです。社内でも社外でも通用するスキルを身につけることは人財の流動性を高めることになりますが、その流れは止められませんし、ジョブを整理しておくことは当社に入社してくれる人財を増やすためにも有効です。

 従業員一人ひとりを見ると、まだ「キャリア」に対する意識は希薄ですが、人生100年時代では自分のキャリアを自分でつくることが求められます。それを後押しするのが人事の責務だと考えています。

自主性を尊重したキャリア形成の支援

石田 今回の制度改定・新システムの運用では、あえて「目標」という言葉は使わずに「ゴールセッティング」という言葉を用いたり、業績などの数値化した指標以外に、個人のキャリア形成のためのゴールを設定するなど、貴社ならではのこだわりをとても感じます。また、キャリアの目指す姿や過去の経験については、公開するか非公開にするかということを本人が選択できるようになっています。こうしたことからも従業員一人ひとりの自主性を重んじていることが理解できます。

白岩 システムの名称を「クロスキャリア」としたのは、単なるタレントマネジメントシステムではないという思いからです。今までは期初に期末の達成目標を立てて管理していく目標管理型の人事システムでした。

白岩徹氏

「人財マッチングが成立して社内の人財流動化につながれば、一人ひとりがタレントであることを意識するカルチャーに変わっていくはずです」

 しかし、変化の速い時代にあって、期初の目標はすぐ形骸化してしまい、期中に書き換えることもありました。そこで今回のシステムでは1on1などの対話のデータを入力できるなど、日々変わる目標に対して、スピード感を持って運用できる仕組みにしました。

 また、自分のスキルをオープンにしてアピールできる“仕掛け”をつくるなど、個々人の“Will”を引き出してキャリアを意識させるアプローチを取り入れました。キャリアポータルもつくり、そこには参考となるロールモデルも閲覧できるようになっています。

 当社の事業は、通信キャリア以外の様々な分野に広がり、中途採用にも力を入れていますし、社内副業制度もあります。クロスキャリアの中で事業部門を超えた人財マッチングが成立して社内の人財流動化につながれば、一人ひとりがタレントであることを意識するカルチャーに変わっていくはずです。

中期経営計画とも連動させてスキルアップを促す

石田 今回、自身のキャリアについて自主性を持って運用する新しい人事制度を支える新たな基盤としてのタレントマネジメントシステム導入に関する構想をお伺いし、様々な業界で実績あるSAP社のタレントマネジメントシステムをベースとすることをお勧めしました。今回のシステム構築プロジェクトのご評価についてはいかがでしょうか。

白岩 豊富な導入経験と人事システムの知見を持った日本IBMに寄り添っていただき、無理なお願いにも対応してもらいました。密なコミュニケーションとお互いの信頼により、予定通りのスケジュールでプロジェクトを進めることができ、新システム稼働後に上がってきた各部門のオーダーにも一緒に対応してもらっているので大変助かっています。

白岩徹氏

 構想から約1年半かけてキャリアを意識させる仕掛けを盛り込み、何度も説明会を実施してきましたが、今年4月に稼働したばかりなので成果はこれからです。今後はスキル開示の意思表明を促し、来年度には本格的に活用が広まるものと期待しています。

石田 IBMには、LinkedIn(リンクトイン)のような社員台帳があり、社内の労働市場化に貢献しています。人材の適材適所、適時適量を実現するために人事部門が従業員の人材マネジメントに関する情報を全て収集するには限界があります。クロスキャリアのような仕組みだけではなく、“仕掛け”を用意することはとても有益になります。

白岩 これから次の中期経営計画を策定することになりますが、そこでは求めるスキルを明確にし、クロスキャリアと連動させていきます。

石田 非連続の変化が常態化している昨今、「会社目線」で管理・監督する人財マネジメントを改め、自主性を持った「従業員目線」にて、自身を磨く機会を創出していくことが重要になると思います。IBMでの経験も貴社にお役立ていただけるように引き続きご支援させてください。

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