三澤:ところで、NECは永続的な顧客関係性の維持強化のため、マーケティングとカスタマーサクセス、製品開発の3つをリンクさせながら企業活動に取り組んでいるとうかがっています。詳しく教えていただけますか。
榎本:営業・マーケティングとカスタマーサクセスをつなぐ「インフィニティループ」という考え方は一般的ですが、NECはさらにR&D/製品開発をつないだ三連のインフィニティループを目指すべき企業活動像として描いています(図参照)。
真ん中のオレンジの部分が、CXへの出発点であるアカウント戦略やテリトリー戦略です。ここから左側に回って、緑色の部分ではお客様の潜在的な需要に対して何らかの働きかけをしていく。これがマーケティング・営業の部分です。
そして、NECのソリューションを導入いただいたお客様には、その目的があるはずですから、カスタマーサクセスの環の中において導入から運用・活用までを支援します。
さらに、利用状況を測定して、本当にお客様が使うべき使われ方ができているか、製品として正しく使ってもらえているのかということに青い環(製品開発)の中で対応します。この部分では、当該製品の改良はもちろんですが、次の製品企画にもつないでいきます。
この3連を、しっかりとしたデジタルマーケティング基盤の上で回していくわけです。
三澤:日本オラクルも、営業、マーケティングからサポートサービスに至るまで、全く同じ考え方でやっています。
いずれにしても、お客様のデータを取得するときに、ただ単に自分のところの営業や宣伝広告に活用するという考え方だけではなく、データを取得させていただいて、お客様にも良い経験を提供できるようにしていきたい。自分たちのメリットだけでなく、お客様にも良い体験をどう提供できるかというウィンウィンの形でデータを取得するという考え方が必要だと思います。
また、お客様から取得させていただいたデータは、営業・マーケティングだけではなく、インフィニティループを通じてポストセールスや製品開発に役立てていくことも必要です。ポストマーケティングも含めた包括支援ができるかというところが重要で、そのときにそれぞれのプロセスごとにデータがばらばらに存在しているというのでは、より良いCXを提供することは難しいでしょう。
三澤:NECでは、デジタルマーケティング基盤としてオラクルのCDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)である「Oracle Unity」(オラクル・ユニティ)をご活用いただいています。当社のCDPを選んでいただいた理由についてお聞かせください。
榎本:もともと社内にCDPはあったのですが、長年運用してきてライフサイクルの限界があることと、マーケティングに求められるPDCAサイクルが圧倒的に速くなってきている中で、処理速度が追いついていないことに課題を感じていました。
刷新に当たっては、自分たちで仕様を考えて作るのではなく、グローバル基準のベストプラクティスの中から選ぶことにしました。独自性を訴求するよりも、世界で使われている最大公約数のものに自分たちを合わせることが5年先、10年先のためにも大事だという基本的な考え方があるからです。NECはこれを「フィット・トゥ・スタンダード」と言っています。
三澤:おっしゃるように、「Oracle Unity」をはじめとする当社の製品はグローバルで展開しているので、GDPRなどの法規制にもしっかり対応しています。
もう一つ、データを集める際には、ただ大きな箱があればいいわけではなく、どこに何を格納するのかという引き出しを設けなければなりません。いわゆる「データモデル」のことですが、オラクルのCDPはグローバルに提供しているため、これをお客様にイチから設計していただく必要はなく、製造や金融などのデータモデルをあらかじめ用意しています。
榎本:「Oracle Unity」の採用に当たっては、最初にデータモデルを見せてほしいとお願いしました。実際のテーブルをどのように定義しているのか、全部読みました。データモデルの持ち方が製品やサポートするサービスの思想を表していると考えているからです。思想に対するシンパシーを感じられたので、安心して導入を決めました。
三澤:榎本さんはCDPの選定に当たって、特にデータモデルがライフサイクルに基づいて設計されているのかどうかということをチェックされたとうかがいました。
榎本:その通りです。過去から未来へ向けて、お客様をしっかりとフォローアップできる仕組みになっているかどうかというのは、重要な選定ポイントでした。例えば、お客様が転職しても人間同士としての信頼関係はビジネスの中で続くわけですから。
三澤:CDPもそうですが、もともとオラクルの製品群で大切にしているのはシングル・ソース・オブ・トゥルース(Single Source of Truth、信頼できる唯一の情報源)です。ある個人のライフサイクルを見たときに、その人の一生涯だけではなく、さらにその先もデータは存在し続ける可能性があるわけですが、そのすべてをシングルデータとして提供できる。それこそがオラクルならではの価値だと思っています。
三澤:最後にNECにおける今後のCDPの活用についてお聞かせください。
榎本:導入プロジェクト自体がまだ進行中なので、まだ、様々なところにお客様のデータが散在しています。例えば、お客様がセミナーに参加された後のアンケートとか、そういうものが今も統合し切れていませんし、これからも発生していきます。
ですから、まずはいかに広く、あまねくお客様に関するデータを統合するか。それを優先してインターフェイスを作り、様々な約束事を決めてCDPの上に載せていきたい。2022年4月までには、今のNECのビジネスと、それにまつわるお客様とのやり取りの中で発生するデータがぱっと判別できる状態にしていきたいと思っています。
三澤:データ利活用の主な目的はCX向上だと思いますが、その好事例としてよく紹介させていただいているのがF1のレッドブル・レーシング・ホンダです。バックエンドにオラクルのクラウドとCXソリューションを採用していただいていますが、クラウドを使ってレースの状況をリアルタイムに把握し、そのデータをウェブで公開しているのです。F1のファン層にオプトインしてもらい、データを見ながら様々なデータを体験してもらえるようにしているのです。まさにウィンウィンの関係です。こういうことがいとも簡単にできるという点でも、クラウドのパワーはすごいと思いますね。
榎本:マーケティング部門はオラクルのサービスを使わせてもらう立場ですが、一方でNECとオラクルは長年にわたる協業パートナーでもあり、たくさんのビジネスを生み出しています。
我々がCDPを使い倒してリアルタイムのマーケティングを実践していることを事業部門が実感できれば、お客様にもより良い提案ができるのではないかと思います。
三澤:最後に日本のエンタープライズ企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるにはどうすれば良いのか。ひと言アドバイスをお願いします。
榎本:まずは、小さく生んで大きく育てることではないでしょうか。テクノロジーの進歩は速く、ちょっと前まではできなかったことが簡単にできるようになっています。「Oracle Unity」のようなグローバルスタンダードのプラットフォームを駆使することで、上昇気流に乗ることができるはずです。
三澤:ありがとうございます。社会が変化し、とくに情報の取り扱いに関する慎重な動きが広がっている中で、真面目に考えなければならないのは、自社の中でちゃんとしたお客様のデータを整えること。これは誰かに委託する類のものではないのです。委託するマーケティングは使えなくなる時代がやって来ると思います。
しかも、お客様のデータなので自分たちである程度管理しなければなりません。責任を問われることになります。どのようにお客様のデータを自社できちんと整えるのか。縦割りで整えるのではなく、全社のプラットフォームとして整えるのが重要だと思います。
そこに蓄えられたデータを使って、いかに効率的にお客様とのつながりを作っていくか。そこでウィンウィンの関係を忘れないようにすることが重要だと思います。