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パートナーシップを強化し、脱炭素に貢献

気候変動がもたらす危機をどう防ぐのか――。COP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で真剣な議論が交わされた。脱炭素は喫緊の課題となっている。国、そして企業はそれをどう受け止め、どのようなビジネスモデルを構築していけばいいのか。ドイツのグローバル企業であるシーメンスは2020年6月にエネルギー関連事業を分社化し、新たな一歩を踏み出した。日本法人の舵取りを任されたシーメンス・エナジーの代表取締役社長兼CEOの大築康彦氏に日本での事業展開について話を聞いた。

好調に業績を伸ばす
バイオマス向け発電

2020年6月にシーメンス・エナジーの日本法人が発足しました。分社化にはどのような経緯があったのでしょうか。

大築シーメンスは巨大なコングロマリット(多業種間にまたがる複合企業)で、多くの事業を抱えています。ただ、事業によって変化のスピードに大きな違いが生じるようになってきたため、より適切な経営判断を行うために分社化へと舵を切りました。

大築康彦氏
シーメンス・エナジー株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
大築康彦氏

 2015年に医療機器事業を分社化したのを皮切りに、2019年には鉄道事業を、そして2020年にエネルギー事業を分社化し、本体はファクトリーオートメーション(FA)や、あらゆるものがネットにつながるIoTといったデジタル事業に特化する形態に移行しました。シーメンス・エナジーは、発電、送電、オイル・ガス事業を受け継ぎ、風力発電のシーメンス・ガメサを子会社に持つエネルギー関連事業を統括する企業となり、それに合わせて日本法人も設立されました。

日本法人はどの領域に注力していくのでしょうか。

大築これまでは大型の火力発電所や事業所に設置する自家発電タービンの営業やメンテナンスサービスを展開してきましたが、直近で注力しているのはバイオマス向けの蒸気タービンです。ここ3年で累計800MW(メガワット)以上の蒸気タービンをご採用いただきました。

 バイオマス向けの蒸気タービンの強みはエネルギー効率の高さです。より少ないバイオマス燃料でより多く発電できる製品を選定して日本の発電プロジェクトに提供してきましたし、バイオマス発電の分野は今後も注力していきたいと考えています。

 また、産業用ガスタービンコジェネレーションも注力分野の1つです。石炭から天然ガス、将来は水素への燃料転換に対応できる発電設備として注目されています。

パートナーシップで
グリーン水素を製造

現在の課題はどんなところにあるのでしょうか。

大築日本で安心して利用してもらうためのポイントとなるのが、サービス体制の充実です。何かトラブルが生じたときに、日本にある部品で直せるという体制が整っていることが大事になります。

 特に重視しているのが人の採用と育成です。日本法人で働く社員のうちの60%がサービス・メンテナンスの担当で、コロナ禍の前からバイオマス案件が急に伸びてきたこともあり、人材の採用を進めてきました。

 技術者のトレーニング派遣も含め、欧州各国で培ったノウハウを日本法人に取り入れながら、サービス・メンテナンス要員を拡充・強化して日本の現場を支えていきます。

 発電設備もデジタル化が進んでいて、デジタルで遠隔からメンテナンスできるようになり、効率的な運用や予兆検知ができるようになっています。ハードウェアである製品を熟知していることに加え、ソフトウェアの力もあるという両面を持っていることが私たちの強みです。

日本でも脱炭素が喫緊の課題になっています。これにはどのように取り組んでいるのでしょうか。

大築1社の努力だけで脱炭素社会を実現することはできません。しかし日本には優れた技術を持つ企業が数多くあり、タッグを組むことが重要だと考えています。

 脱炭素の実現には再生可能エネルギーの拡大やグリーン水素の活用が不可欠です。すべての産業がグリーン水素を使うようになれば、脱炭素を実現することができます。

 そのコアとなるのはグリーン水素を製造する技術であり、私たちはそこに注力しています。2021年8月に、山梨県と東レ、東京電力をはじめとした7社とパートナーシップを組み、再生エネルギーで発電した電力から水素を製造するプロジェクトが、新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)のプロジェクトに採択されました。

 また、2021年6月には三菱電機とフロンガスを使わない真空バルブによる送電関連装置の共同開発の覚書を締結しました。温室効果が高いSF6(六フッ化硫黄)ガスの代わりに、地球温暖化係数がゼロのドライエアを使用するものです。そのほかにも、脱炭素社会の実現に向けて様々な業種の日本企業とのパートナーシップを積極的に推進しているところです。

東レの「炭化水素系電解質膜」を実装したシーメンス・エナジー水電解装置「Elyzer」でグリーン水素サプライチェーンの構築を目指す。
東レの「炭化水素系電解質膜」を実装したシーメンス・エナジー水電解装置「Elyzer」でグリーン水素サプライチェーンの構築を目指す。

日本のパートナーと組んで
付加価値を提供

脱炭素の取り組みは欧州が先行しています。日本法人はシーメンス・エナジーとどのように連携していくのでしょうか。

大築確かに欧州では太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー割合が伸長しています。しかし、グローバルと日本では方向性や置かれた環境に違いもあります。グローバルで成功しているポートフォリオの中から日本市場に合った製品を選び、日本のパートナーと組んでお客様に付加価値を提供していくことを基本に考えています。

 日本の国土は狭く、大規模な太陽光発電所を建設できるような土地も限られています。そこで脱炭素を実現するには、その土地でつくることができる再生可能エネルギーをバランスよく組み合わせることが重要になります。小さな国土でのカーボンニュートラルのモデルをつくることができれば、他のアジア諸国にそのモデル自体を輸出することもできます。脱炭素は20年、30年という年月をかけて実現することですから、多くの取り組みにおいてパイロットプロジェクトの段階から関わっていきたいと考えています。

 洋上風力発電についても日本では様々なプロジェクトが行われています。利害調整の難しさなど課題は山積していますが、大きな可能性があります。海岸から離れた洋上風力発電所で水素を製造して運搬するといったアイデアも含めて様々な角度から検討を進めています。

日本の企業とどのように脱炭素を実現するのでしょうか。

大築シーメンス・エナジーは世界中の脱炭素プロジェクトに関わっています。各国の成功事例を紹介することを足がかりにして、多くの日本企業様とCO2削減の議論を進めています。

 脱炭素の流れを加速するには、ハードウェアのコストが下がることも重要ですが、そのためにはマスプロダクションできるスケールが必要です。それが回り始めるようになるにはもう少し時間が必要でしょう。今回NEDOに採用されたプロジェクトはそのための第一歩です。その先の展開を広げていくための試金石と位置づけています。

「2030年までが勝負です。皆さんと一緒になって日本モデルをつくるお手伝いをしていきたいと考えています」
「2030年までが勝負です。皆さんと一緒になって日本モデルをつくるお手伝いをしていきたいと考えています」

制約なく議論を広げて
日本モデルをつくりたい

日本市場に向けてメッセージをお願いします。

大築今は転換期です。エネルギー業界が大きく変わるタイミングで、プレーヤーの顔ぶれも変わってきます。制約を設けることなく議論していく必要があります。

 社会のデジタル化が進むにつれ電気の重要度はさらに上がっています。そして、CO2削減も“マスト”として社会から要求されています。シーメンス・エナジーはこれからも脱炭素に向けた技術を進化させ、ソリューションとして提供していきます。日本法人としてそれを活用して社会への貢献を目指しています。

 脱炭素に向けて乗り越えるべきハードルも多いですが、勇気を持って変わっていかなければなりません。2030年までが勝負です。皆さんと一緒になって日本モデルをつくるお手伝いをしていきたいと考えています。

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