IT投資のベストプラクティスを集約し言語化
TBMメソドロジーの共有とともに課題や知見を共有

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なぜ、IT投資最適化のメソドロジーであるTBM(Technology Business Management)があらゆる業界のCIOから高く支持されるのか。企業が生き残りをかけてDXを推進する上で、テクノロジーに関する経営資源(ヒト・モノ・カネ)と投資ニーズを統合的にマネジメントする「ITファイナンスマネジメント」の高度化が、欠かせないことが背景にある。

「TBM Council Japan Round Table 2021.12」において、会員企業のあるCIOは「管理会計上のITリソースを見る観点は非常に多角的になっています。しかし、IT部門にとって会計の言葉でIT投資を考え、理解するのは難しい。IT投資に関するベストプラクティスを模索する中、言語化されたものがないことに気づきました」と話し、こう続ける。「TBMはベストプラクティスを集約し言語化するとともに、TBM Council Japan Round Tableという場で、事例が公開されていないITファイナンスマネジメントについて、TBMを実践している各社がどう取り組んでいるのか、お話を聞ける情報ソースとしても価値があります」

「TBM Council Japan Round Table 2021.12」は、1.「Apptio」のビジネスアップデート、2.米国で開催された「TBM Conference 2021」の紹介、3.資生堂によるTBM実践事例の紹介、4.CIOセッション/ITリーダーセッションと、計4つのプログラムで進められた。

Apptio株式会社
代表取締役社長
成塚 歩 氏

TBMを実現するSaaSソリューションの「Apptio」は、Fortune100のうち65%の導入実績を有し、契約継続率も98%だ。1番目のテーマであるApptioのビジネスアップデートでは、Apptio代表取締役社長の成塚歩氏から、2020年4月にApptioの日本法人成立後、1年間に様々な業界をリードする日本企業10社と契約し、日本のユーザー企業が全13社になったと報告があった。また、2021年10月に実施した国内初のTBMに関するイベントである「Japan TBM Summit 21」に名立たる総合コンサルティング会社やクラウドベンダー、ITベンダーが、協賛企業になったことが成功につながったと付け加えた。

成塚氏は、2022年の「TBM Council Japan」の活動についても言及した。「TBM Council Japanのビジョンとして、『TBMメソドロジーの共有』と『現場リーダーの知見の融合』から、企業のIT部門の底上げを実現し、日本経済へ貢献することを掲げています。2022年には、TBM Council Japan Round Tableを年3回開催します。またJapan TBM Summit 2022も9月に実施する予定です。さらに、TBMに関するレポート、トレーニング動画、グローバルでTBMを運営しているCIOによる取り組みの紹介などを会員の皆さんと共有していきます」

TBM Council Japanの活動は、Round Tableを中心にトレーニングや情報共有のコンテンツが豊富だ

Apptio株式会社
RVP Business Operations, Japan
Ken Haniu 氏

2番目のテーマである米国で開催された「TBM Conference 2021」については、米国Apptio本社からKen Haniu氏がオンラインで紹介した。

「TBM Conference 2021は、2021年10月に3日間かけてオンラインで実施されました。“Futureproof Your Innovation”をテーマに、149のセッションを用意しました。全世界からの参加者は2,121人でしたが、Japan TBM Summitの第1回目でも1,000人近くの登録があったことに驚きました。日本においてTBMのプレゼンスが上がっているのを感じます。TBM Conference 2021はオープンなイベントですが、その中には会員向けのイベントもあります。今年はテキサス州のホテルで、会員のCIO同士が自由に会話する場をつくりました。TBM Conference 2022では、ぜひTBM Council Japan会員のみなさんにも、会員向けイベントに参加いただけたらと願っています」(Haniu氏)

第1フェーズの目的は年度予算計画の精緻化
今後コストを分解し、ベースラインの明確化を図る

本Round Tableはクローズドであるため、事例紹介も具体的かつ実践的なものとなる。3番目のテーマとして資生堂のTBM実践事例が紹介された。

企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」のもと、約120の国と地域でビジネスを展開するグローバルビューティーカンパニーの資生堂。化粧品事業をはじめとするビューティービジネスは、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い2020年の売上が対前年比約18%減少し営業利益率も下がった。

株式会社資生堂
エグゼクティブオフィサー
チーフインフォメーションテクノロジーオフィサー
資生堂インタラクティブビューティー株式会社
代表取締役社長(兼)
高野 篤典 氏

資生堂の中期経営計画「WIN2023(2021年〜2023年)」では、2021年を変革と次への準備の年と定義し、大胆な構造改革を実施。WIN2023のスタートに向けて、コロナ禍で表出したIT投資の課題解決が急務になっていたと、資生堂のCITO(Chief Information Technology Officer)である高野篤典氏は振り返る。

「コロナ禍で売上が下がっていく中、ITコストの削減を求められました。すでに動いている案件を止めるわけにもいかず、固定費を掘り下げて見ようとしたときに優先順位も含めて不明瞭なものも多く、タイムリーに対応するためにいくつもハードルがありました。ITに関する予算と実績のズレや、海外リージョンのITコストの状況が見えにくいことも課題として浮き彫りになりました。根本的な課題は、海外リージョン、プロジェクト、工場などに対しITガバナンスが不十分だったという点です。ITガバナンスの強化とともに、IT投資の最適化を図り、ビジネスへの貢献を可視化したうえで投資判断を行う仕組みに進化することが必要でした」(高野氏)

2020年にApptio日本法人の設立準備を進める成塚氏と話す機会があった高野氏は、「TBMに関するお話は非常に共感できる内容でした。IT投資の様々な課題を解決し営業利益率の向上に貢献するべく、2020年10月にTBM導入に関してPoC(概念実証)を実施しました」と話す。

2020年10月から12月にかけて行った「Apptio」を使ったPoCにより、標準機能で“やりたいこと”の70%はできることを確認し導入に踏み切ったと、資生堂インタラクティブビューティーの飯尾理佳氏は話す。「プロジェクトマネージャーがITBM(IT Business Management)を使ってプロジェクトに関する情報を入力し、その中でファイナンス情報の基礎データをApptioで受けて、SAPにインプットするものをオフィシャルデータとします。また、各プロジェクトで発生した費用の支払いはフロント系ツールを使って行い、そのデータをSAPで管理し、実績としてApptioが管理します」

資生堂インタラクティブビューティー株式会社
IT本部 改革推進グループ グループマネージャー
株式会社資生堂
グローバルIT戦略部 戦略グループ(兼)
飯尾 理佳氏

2021年3月から第1フェーズとして、年度予算計画の精緻化を目的に要件定義を実施し、同年7月に実装。現在グローバルチャージを自動計算し、SAPにデータを提供する機能をつくる第2フェーズに入っているという。「資生堂はグローバルでITコストが存在するため共通言語が必要。共通言語にあたるのがApptioと考えています。今後、IT予算全体におけるベースライン(システム保守・運用費)の明確化を図るため、TBMに則ってコストを分解し、最適化を図ることで利益に貢献していきます。また、Apptioの豊富なレポート機能を使って、様々な勘定科目からIT投資を視覚的に分析し、考察できる仕組みの実現にも取り組んでいきます」(飯尾氏)

「ローマは一日にしてならず」と飯尾氏は話しこう続ける。「生みの苦しみはあります。ただデータを入力しただけでは、Apptioで魔法は起きません。データの粒度やルールの定義など、真剣にデータと向き合うことが必要です。当たり前のことをきちんと行うのが、実は大変です」。

TBM Council Japan会員の
CFOやITリーダーが活発に意見交換

4番目のテーマであるCIO/ITリーダーによるセッションは、会員同士が情報や意見交換を行う貴重な場となった。他社がIT投資最適化にどう取り組んでいるのか。今回、成塚氏をファシリテーターに、各業界を代表する大手企業のCIOが参加したセッションに同席した。

「ベンチマークで他社と比較できれば
有効な判断材料の1つになる」

成塚 CIOのみなさんは、この場でどういう情報を共有し、自社の課題解決に役立てたいとお考えでしょうか。まずはITファイナンスマネジメントの課題についてお聞きしたいと思います。

A氏 まず、経営陣からよく指摘を受けるのは、IT部門がコストセンターになっているということです。IT部門が現状から脱却し、プロフィットセンターへとシフトするためには、利益に対する貢献度を明確にデータとして提示することが求められます。なぜこれだけIT投資が必要なのか、ロジカルに説明するための武器としてApptioを導入しました。IT投資に対するリターンを示すことができれば、次の投資に対する根拠の1つとなります。

B氏 同じ認識です。根本的な課題として、経営陣からIT部門が信頼されていません。ITリソースの中で、お金に関するマネジメントの高度化が遅れていることが大きな要因です。営業部門やマーケティング部門は予実分析ではなく、予測と予測を繰り返す「予予分析」を行っています。一方、多くのIT部門では、予測を実施する場合にExcelデータを収集・分析するところから始めますから、3カ月に1度が精一杯で、なおかつ現場に大きな負担をかけています。

C氏 経営からの信頼という点でもう1つあります。管理会計上、ITリソースで見るべき観点が多角的になっています。こうした状況では、IT投資判断における指標やデータを示すのが難しいと思います。また様々なサービスが関わるプラットフォームや業務システムの共通基盤において、いかにIT投資を行い、利益を上げていく連動性を表現していくのかという課題もあります。これは難易度が高いと考えます。

B氏 そうですね。数字を多角的に見るべきシーンが増えていると私も感じています。問題は、経営から質問されたときに、その場で数字を出せないことです。一週間後、一カ月後に報告する頃には、既に状況が変化しています。ビジネスのスピードに応え、アジャイル的にITを活用するためには、数字をすぐに提示できる状況にしておくことが必要です。

成塚 即時性という観点では、Apptioは多角的に構造化したかたちでデータを管理しており、経営からの質問に対しすぐに必要なデータを提示できます。投資対効果の指標に関して、他社と共有できる部分はありますか?

C氏 具体的な情報はあまりオープンにできませんが、競争に影響しない領域、例えばクラウドにいくら投資しているかはお伝えできるかもしれません。ただし、クラウドのコンポーネントに何が含まれているかは、各社で異なります。何をどのように比較するかは、議論のテーマになると思います。

A氏 確かに、システムの中身や用途の異なるものは、ベンチマークの意味がないと思います。ただしコーポレートITにおいて、全体予算の中でどれくらいの比率で投資しているかを、各企業の特性を考慮した上で比較するのは学びもあるかと思います。

D氏 当社もこの10年でIT投資が大きく膨らんでいます。一方で、ITが十分にビジネスに貢献できていないと感じており、IT投資最適化の取り組みの強化が急務です。ストレージコストなど、ITユニットコストの可視化に関してベンチマーク的に他社と比較できれば、有効な判断材料の1つにはならないでしょうか。

B氏 お話を聞いていて思いましたが、IT投資に対する絶対評価は現状難しいでしょう。ならば、経営や事業部門に対し説得力を持つ情報は、相対評価だろうと思います。全体予算の中で、クラウドとオンプレミスの比率、イノベーションの比率、セキュリティの比率などについて、Apptioを使って前提条件を極力合わせ、「こういう前提条件では何%」などとオープンにできるものを互いに持ち寄るのが良いのではないでしょうか。そうすることで、絶対評価では説明が難しい場合でも「相対評価では、当社はトップクラスです」と説明できます。

「経営への説得力ではTCOも重要だが
正当性をもってROIを説明できるかがポイントとなる」

成塚 冒頭で「IT部門はコストセンターとみなされている」という話がありました。DX推進など、前年対比を超えてIT投資を行わなければならない現在、経営に対する説得や納得のポイントは何になるとお考えですか?

C氏 会社全体のPL(損益計算書)で捉えることが重要だと思います。例えば、テレワークの導入によりオフィスに要していたコストを大幅に削減できるといった視点です。ITコストが全体予算の3%だとしたら、残りの97%に対するインパクトこそが、その“3%”を出す理由になります。TCOも重要ですが、ROI(投資利益率)をどう正当性をもって説明できるかがポイントです。

A氏 重要な視点だと思います。他に挙げるならば、例えばデジタル化によるマーケティング改革において、コンバージョンレートの向上などROIを定義し可視化することで、投資対効果が見えるようになります。それにより、マーケティングに要するIT投資が適正化されるといったことでしょうか。

D氏 当社もIT投資コストは増える一方です。「この投資でビジネスに貢献していく」といった、IT部門とビジネス部門が同じ考えのもとでIT投資計画を立てることができれば、経営に対する説得力や、最適化への道も開けるのではないでしょうか。

C氏 難しいのは、例えばAIに対する投資です。AIにより自動化が進んで人件費や工数が削減できる、これは分かりやすいと思います。しかし、AIで新しい価値を生み出す取り組みに関してはやってみないと分からないので、戦略的な投資判断となります。

B氏 もう1つ、IT予算を“既得権益化”している事業部門に対し、いかに最適化を進めるかも重要だと思います。一般的に、事業部門はバッファをもたせた予算を提示するケースが多いです。当然、予算と実績の間にズレが生じます。しかし、IT部門だけで事業部門を説得するのは容易ではありません。IT投資の最適化を図るTBMは、CIOとCFOが共同作業するテーマであるという視点がとても重要です。IT部門とファイナンス部門が、Apptioという共通言語を使って互いに向き合い意見交換することで、IT投資最適化に向けて大きく前進すると考えています。ROIの観点からIT投資を説明する際にも、財務部門との連携は大切です。今回、CFOに相談しオブザーバーとして財務担当者にもオンラインで参加してもらっています。TBM Council Japan Round Tableに年に一度、CFOや財務担当にも参加してもらうというのはどうでしょうか?

成塚 貴重なご意見、ありがとうございます。米国のTBM Councilでは、ファイナンス担当も多く参加しています。ぜひ、日本でもCFOや財務担当が参加する機会を設けたいと思います。今回、みなさんのお話から、IT部門の信頼がすべての土台になるということを改めて認識しました。そしてIT部門における信頼を醸成するためには、ROIを含めてデータに基づいた説明が必要になることも分かりました。次回は、ベンチマークなどについて具体的に議論していきたいと思います。

CIO/ITリーダーの面々が交わす熱を帯びた議論は、日没後も続いた

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