「時代の変化」こそが「最大の好機」にDXで加速する信託銀行変革の未来図「時代の変化」こそが「最大の好機」にDXで加速する信託銀行変革の未来図

パーパス(企業の存在意義)の定義から始まる変革への道

長崎 少子高齢化の進展、気候変動リスクの高まり、デジタル化など、現代は歴史の転換期であり、社会・経済構造が大きく変わろうとしています。貴社が置かれている状況をどう認識されているのでしょうか。

大山 価値観が多様化し、不確実性が増す中、多彩な機能を持つ信託銀行として、当社が果たす社会的な役割は広がっていると感じています。歴史的にみると、信託銀行は第一次世界大戦後の好景気のもと、財産管理、資産運用の高まりという社会ニーズに対応するため設立された経緯があります。以降、貸付信託、年金信託など時代の要請に応じて新商品、サービスを提供してきた当社の歩みは「挑戦と開拓」の歴史でもあり、現在は、蓄えた力を存分に発揮できる時代の到来だと考えています。

長崎 貴社は自らのパーパス、存在意義を「信託の力で新たな価値を創造し、お客さまや社会の豊かな未来を花開かせる」と定義し、変革を進めています。その背景、具体的な取り組みについて教えてください。

大山 パーパスは「当社はなぜ社会に存在する価値があるのか」を定義するものです。日本の長年の構造問題でもある「貯蓄から投資」「貯蓄から資産形成」において、資金の好循環を実現し、成長を後押しするのが、我々のパーパスだととらえています。

長崎 資金循環が滞る根本的な原因はどこにあるのでしょうか。

大山 日本の場合、家計・企業・政府の三者間で、奇妙な三すくみの停滞均衡があり、それが資金循環を滞らせる構造的な問題となっています。この停滞から脱却するには、家計・企業・政府が一斉に動き出す状況をつくらなければいけない。今、その絶好の機会が到来していると考えています。それは脱炭素社会の実現に向けた動きです。産業界が求める資金は巨額で、それは同時に、低金利での運用難に直面している投資家、老後に向けた資産形成ニーズが高まる家計に、投資機会を提供することにつながります。この双方のニーズをマッチングさせることが我々の思いです。

事業ポートフォリオ強化のエンジンがDX

長崎 確かに、脱炭素への取り組みをきっかけに家計、企業、政府の資金がまわり、投資機会が広がるような環境が構築されれば、大きな可能性を感じます。

大山 資金・資本・資産の好循環を促し、新たな市場、投資機会を創出する。その好循環サイクルでハブの役割を果たし、自らも成長するのが当社の目指す姿です。具体的には、政策株式(持ち合い株)を1兆4000億円削減することで投資余力を生み出し、2030年までに脱炭素、インフラ関係など社会にポジティブなインパクトを与えるエクイティ投資を5,000億円行います。これを呼び水に、機関投資家や金融法人などの投資家に2兆円の投資機会を提供することで、投資が投資を生む、投資の力で資金を動かす、そんな好循環を実現していきたいと考えています。

長崎 脱炭素に関しては我々も大きな可能性を感じています。創業者ジェフ・ベゾスは、パリ協定より10年前倒しで脱炭素を実現すると掲げ、具体的な目標を設定していますが、1社でできることには限界があります。ファンドを設立し、志を同じくする企業と脱炭素に取り組むエコシステムづくりを始めたところです。

大山 おっしゃる通り、資金循環の流れを変える取り組みも1社でできるわけではなく、ネットワークを広げ、エコシステムを構築しながら進めていきたいと思います。

長崎 変革を起こすには、まず自身が変わらなければいけないといわれますが、貴社は事業ポートフォリオの強化を掲げるとともに、DXの推進に注力しています。事業ポートフォリオの強化の狙い、DXの位置付けについてお聞かせください。

大山 伝統的な銀行業務、信託業務を通じて、コアのお客様のロイヤルティを高めるベストパートナー戦略がメイン戦略ですが、既存モデルの深掘りだけではいつか頭打ちになります。既存事業に軸足を置きながら新領域を開拓する必要があるものの、新事業は小規模、不確実、非効率ともとらえられ、イノベーションのジレンマに陥りかねない。この課題をどうクリアするか。我々が考えたのは、複数事業がシナジーを発揮できる領域への事業横断・融合による展開です。例えば、プライベートバンク、企業への職域営業など、複数の事業資産、ノウハウを再構築し、新たな領域で競争優位を創り上げてきました。事業横断でのビジネス展開には、事業間での “擦り合わせ”が付加価値の源泉となります。ほかに真似できないビジネスモデルだと自負していますが、デジタル技術によってこの“擦り合わせ”の方法が変わってきています。

イノベーションの創出は「横のデジタル化」から

長崎 大山社長が思うデジタルの本質とはどういうものでしょうか。

大山 異質なものを結びつけ、イノベーションを起こす手段だと思います。DXには、業務効率を上げる「縦のデジタル化(デジタライゼーション)」と、事業・チャネルの壁を乗り越えて、イノベーションを創出する「横のデジタル化」の2つの側面があります。当社のDX戦略の本質は、事業横断で行う「横のデジタル化」にあります。例えば、当社では個人のお客様において「資産形成層」は有望なマーケットと考えていますが、「資産形成層」へのアクセスを個人を担当する事業内でだけで展開するのではなく、年金を担当する事業が行っている年金ビジネスと横断的に取組む戦略を立てました。これまでは、企業年金のお取引を頂いている従業員の方を個人取引化するにはアクセスでは限界がありましたが、「アプリ」というデジタル技術を活用することで、事業の壁を乗り越えて個人取引化することが可能となります。

長崎 デジタルの活用によって、富裕層、大企業が中心だった取引が、資産形成層、若い世代にも広げられるというわけですね。

大山 おっしゃる通りです。サービスごとの提案ではなく、資産形成も、住宅ローンも、年金もトータルに考え、お客様のライフサイクルを軸に設計されたプラットフォームとすることで、今まで以上に寄り添ったコンサルティングが可能になります。その手段として大きな意味を持つのが、事業を横断し、異質なものを結び付ける「横のデジタル」。私が構造改革キーワードとして「3脱(脱政策株式、脱タテ割り主義、脱店舗中心主義)」を掲げるのには、こうした背景があります。

長崎 縦のデジタル化、横のデジタル化というお話は、DXの本質を語る上で興味深いですね。事業間の擦り合わせをテクノロジー活用による横のデジタルで加速させれば、プラットフォームにより幅広い顧客層にアプローチできるはずで、大きな可能性を感じます。

AWSの協力を得て、現場の機運が変わっていると実感

大山 このようにBtoCで幅広いリテール事業を展開する場合、巨大プラットフォーマーが出現したら、ビジネスのアーキテクチャを一瞬でひっくり返される可能性もあります。持続的イノベーションがメインテーマでも、破壊的イノベーションにも備え、自らディスラプターになる、攻めのオプションは持っておかないといけません。そのため、先進AWSとのパートナー関係には大きな意味があります。

長崎 新しいことにチャレンジする場合、新しいスキル、ノウハウが必要になりますが、既存社員のリスキリング(新しいスキルの習得)と外部からの採用、どうバランスを取っていかれるのでしょうか。

大山 リスキリングはこれからの経営課題ですが、AWSに協力していただきながら、AWSを使いこなす人材、クラウドベースで思考できる人材の育成が進んでいる実感があります。今後は、デジタル戦略子会社のトラストベース株式会社に人を送り込み、オンプレではなくアジャイルでの開発を現場で学ばせていこうと考えています。

長崎 アメリカでは、デジタルシフトに際してスタッフのリスキリングを進め、大きく成長した事例が数多くあります。この領域では当社にも知見が豊富にあるため、イノベーション創出につながる組織改革をご支援していきたいと考えています。

大山 既に資格取得に関してはAWSからサポートをしてもらっており、データサイエンス領域でも、AWSの機能を活用しながら大きく進化しています。現場の社員にも、アジャイル開発、DevOps(開発部門と運用部門が連携して進めるソフトウエア開発手法)を進める機運が高まってきました。これまでは環境構築に時間がかかっていましたが、AWSが下支えしてくれたことで、現場はアプリケーション開発、UXに注力できるようになったという声も聞いています。業務の高度化にスピード感を出してくれる存在だと感じています。

長崎 ありがとうございます。アマゾン自体、失敗を恐れずチャレンジを繰り返してきたからこそ現在の成長があり、その知見と経験を開示して、プログラムとして提供し、フィードバックをいただき、ブラッシュアップする。そのサイクルを高速でまわすことで、スピード、判断、組織設計など、いろんな形でお客様に価値を感じていただき、共に成長できる存在でありたいと思っています。

大山 テクノロジーだけでなく、DIP(Digital Innovation Program:イノベーションに向けたアプローチを学ぶプログラム)など、イノベーション創出を幅広く支援してくれる取り組みも特徴的ですね。テクノロジーの進化を常にキャッチアップするのは大変ですが、社員からは「分からないことがあってもAWSはすぐに対応してくれる」「イノベーションに向かって伴走してもらっている感覚があり心強い」という声もあり、良いパートナー関係を構築できていると思います。

ビジョンを、腹落ちするストーリーとして伝える力が必要

長崎 イノベーションを起こすには、テクノロジーはもちろんですが、会社がどこに向かって進み、どんな価値を提供しようとしているのか、全社員で共有する必要があります。リーダーシップに関する部分ですが、大山社長はどういうリーダーでありたいとお考えでしょうか。また、社員への浸透というところで具体的な施策があれば教えてださい。

大山 中学校時代からバスケットボールをやっていたため「チームで勝つ」が私の信条。会社も同じで、みんなのスキル、経験、思いを結集して、チームで戦うところに会社組織の醍醐味があると思います。その際重要なのはワクワクドキドキするような「未来の姿」を見せることが出来るか、そうした「ビジョン構築力」が大切だと考えています。そして「それを実現出来る」と思わせるための、客観的・論理的なストーリーで裏打ちされた仮説の提示力も必要です。人類が経験したことのない課題に直面する今、リスクを取らないことが最大のリスクであり、試行錯誤をするうちにリスクは低下していくはずです。ビジョンを示し、人を動かす。それには、お題目としてのビジョンではなく、みんなが腹落ちするストーリーとして自分の言葉で語る力が必要であり、そんなリーダーでいたいと思っています。

長崎 アマゾンには「毎日が常にDay One」、つまり毎日が最初の一歩を踏み出す日だ、というカルチャーがあります。初日のワクワク感、高揚感を全員が持ち続けるには、トップのビジョンメイクと、それを伝える、大山社長がおっしゃった提示力が必要です。同じカルチャーをお持ちなのだと感じました。

大山 冒頭のパーパスの定義、資金の好循環という変革を起こすには、すべての従業員の共感が必要です。そのため、コロナ禍を逆手に取り、約12000人の社員とオンラインミーティングを開催しました。1回1時間で、約500人が参加し、合計26回。そこで私が考えていることを伝え、質問をチャットで寄せてもらい、双方向でやり取りしたのです。入社間もない社員と直接触れ合う機会はあまりないのですが、オンラインであれば全員に思いを届けられるし、入社したばかりの社員の質問にも答えていきました。終わってみると大きな手応えを感じました。

長崎 新たな「挑戦と開拓」を行う、トップのコミットメントの重要さが感じられるエピソードですね。みなさんの思いに応えられるよう、これからもDXパートナーとして伴走しながら、共に成長していきたい。その思いを新たにしました。本日はありがとうございました。