積水化学工業
デジタル変革推進部
ビジネスプロセス変革グループ
デジタルソリューション推進室長
部長
高原 徹 氏
小関 販売、生産、会計、人事、顧客管理など様々な領域の中で、DXの第一歩として選択したのが、なぜ購買だったのでしょうか?
高原 積水化学は2030年にグループ売上高2兆円、営業利益率10%以上と、“業容倍増”を目指しています。その実現に向けたDXとして最初に検討したのは、自前で構築してきた基幹システムを、ERPパッケージに刷新することでした。2019年に試算した結果、莫大な費用がかかることが分かりました。いかに経営負担を軽減するか。そこで新たな投資を生み出す「稼ぐDX」を、デジタル戦略に組み込むことにしたのです。焦点を当てたのは、購買でした。積水化学は国内だけで年間数百億円規模の間接材を購買しており、5%削減できればDX推進の原資として十分使えます。
小関 売上をあげるためのDXに目が向きがちですが、多くのコストを要する支出をターゲットにするという発想は、どこから生まれてきたのでしょうか?
Coupa
代表取締役社長
小関 貴志 氏
高原 従来、積水化学において間接材購買は、システム化が遅れており、業務は紙中心でした。部門ごとに割り当てられた予算の範囲内に収めることばかりが重視され、少額のものは承認も不要でした。ところで私は米国の積水化学グループ企業で購買部長を担当していたこともあります。業務では日本の本社にPL(損益計算書)を提出するのですが、そこでは何十億円の支出と、ただ数行記載するだけでした。間接材購買における本質的な課題は、国内外問わず「何を、どこに、どれだけ使っているか」を統合管理できていないことです。これまでの経験から、コスト面だけでなくガバナンスも含めて、デジタル化による間接材購買のメリットが大きいことは肌で感じていました。
小関 欧米では、購買に関する取引データを管理し支出の最適化を図るBSM(Business Spend Management:ビジネス支出管理)が浸透しています。国内でも関心が高まっているBSMに、高原さんはいち早く着目されました。
高原 多くの欧米企業がBSMを導入していることは、当社の購買DXを進めるうえで根拠の1つとなりました。
莫大な投資を要するDX。購買改革に先行着手することで、DX投資に向けた原資を生み出していく
小関 2019年当時、Coupaは後発のため日本国内ではまだ知名度も低く、実績も多くありませんでした。高原さんはサプライチェーンのスペシャリストです。海外事業会社におけるERP導入の指揮を執った経験もおありです。豊富な知見をお持ちの高原さんが、あえてCoupa採用に至った決め手をお聞かせいただけますか?
高原 グローバルで購買改革を実現するために、Coupaを含む3社を検討しました。まず基本条件はグローバルスタンダードです。その上で大きく4点、Coupa採用の理由があります。1つ目は、積水化学の購買改革で取り組んでいく見える化、カタログ購買、比較購買などに関して優れた技術を有していること。2つ目は、SaaSならではの進化のスピード。3つ目はERPや会計システムをはじめとする周辺システムとのスムーズな連携。4つ目が豊富な成功事例。数千を超えるCoupaユーザーの匿名化された取引データが蓄積、活用して支出業務の改善提案をしてくれるCoupa独自のコミュニティの存在もポイントとなりました。
小関 Coupa導入に対して「ERPを導入してから」「ERPとセットで」との考えを持つお客様もいらっしゃいます。購買DXにより原資を生み出し、DXを推進していくというアプローチは、理に適っていると思います。
高原 ERPの導入を始めると情報システム部門がかかりっきりになり、購買DXに取り組むリソースが失われるという点も、購買DXに先行着手した理由の1つです。購買DXへの取り組みが数年間遅れると、その分コスト削減の機会が無くなります。当社はCoupa導入後に、ERP導入を進めています。短期間で効果が出ることもポイントですね。
小関 Coupa導入を小規模工場からスタートし、効果を確認しながら少しずつ全体へと展開していく方法もあります。高原さんが大規模工場をモデル工場としたのは、どのような理由でしょうか?
高原 グローバルを含めた全社目標として、2028年までに間接材購買費5%削減、業務工数25%削減を定めました。目標実現が可能であることを示すため、最初の1年で高いコスト削減効果を出したかったというのが、第一の理由です。もう一つ、大規模工場では多種類の間接材を扱っており網羅性があるため、「あの工場でできるなら、うちの工場でも適用可能だろう」と横展開しやすい点も重要でした。
小関 Coupaを導入すると、購買担当はあらかじめ金額が決められたカタログを使って発注することになります。サプライヤーはCoupaサプライヤーポータル(CSP)を通じて発注書の受け取りや、請求書の作成ができます。Coupa上で購買に関する取引が完結します。企業として利益も出ている中で、購買のやり方を変えることに、現場から反発はありませんでしたか?
高原 拠点ごとの努力により価格などが個別最適化されている状態で新たにカタログ購買を進めていくことに対する反発は少なからずありました。しかし、デジタル化により購買業務の工数を大幅に削減できること、個別に取り組んでいた価格交渉を集約、全社でカタログして取り組むことでの手間を減らし少額の購買も承認を必要とするといったルール改正でガバナンス強化を図ることなど、Coupa導入の意義を丁寧に説明し理解してもらいました。
小関 実際に効果が出始めると、前向きな心理が働いたりしませんか?
高原 製造部門から「使いやすい」との評価が購買部門に聞こえてきたことで、「本当に効果がある」との認識が広がりました。製造部門はカタログ購買により見積もりをとる必要がなくなり、購買部門を介さず取引が行えるためスピーディな調達が可能です。またカタログ購買により、購買部門は書類確認など紙ベースの煩雑な業務から解放されました。Coupa 導入は2020年に10か月で構築し、1年間のモデル工場での効果検証後、その成果をもって2022年5月から全社展開を進めています。現在(2023年7月)、全50社のうち24社への展開を完了しました。
2028年までに間接材購買費5%削減、業務工数25%削減を目指す。1年間で、モデル工場で成果を出し全50拠点へ展開を予定
小関 Coupa導入により短期間で具体的にどのような効果があらわれたのでしょうか。
高原 モデルとした3つの工場は、1年で間接材のカタログ購買領域でコスト削減10%を達成。重要なポイントは、単発プロジェクトによる効果ではなく、定着により効果継続・さらなる改善が見込めるという点です。全社展開を進める中で、24社においてカタログ購買率は平均40%。カタログ購買を全社方針としたことで、モデル工場と同様にカタログ領域での間接材購買費10%削減を実現しました。Coupa導入をきっかけに、購買意識の改革につながっているのではないかと考えています。
小関 システムを導入しただけでは、業務プロセスは改善されません。Coupa導入の効果を最大化するためにも、現場の意識改革と協力は重要ですね。
高原 今後、カタログ購買率を50%に伸ばしていきます。購買業務の効率化をさらに進めることで、“業容倍増”によって間接材購買業務の負担が増しても、対応が可能になると思います。
小関 購買DXでは、紙から電子取引へのシフトが必要です。そのためには、取引先のサプライヤーの協力が求められます。サプライヤーも電子取引により請求書送付などの手間を解消できますが、業務のやり方が変わります。スムーズに協力は得られましたか?
高原 1つの工場で300~500のサプライヤーと取引関係にあります。Coupa導入当初、「お願いのレター」を送ることでサプライヤー全体の80%の企業とは電子取引となりました。残りの20%は、紙ベースの作業が発生するため、工場の賛同も得て「2024年4月に、積水化学のすべての取引を電子化します」と電子化宣言を行いました。どうしても電子取引ができない企業には、Coupaの機能を使ってメールベースの電子取引も検討中です。
小関 カタログ購買の次は、比較購買ですね。個別最適ではなく、全体最適の観点で間接材を購入することでさらなるコスト削減が図れます。
高原 Coupaで各サプライヤーの情報共有が可能です。例えば、九州工場が関西工場と取り引きのあるサプライヤーを採用するなどの動きも出てきています。また、毎月Coupaのデータに基づくレポートの提供も開始。同じ消耗品を、各工場によって異なる複数社から購買している現状と、それによって生じる価格差も一目瞭然です。今後、工場ごとに管理されていた契約を、データとしてCoupaに集約、分析し比較購買に活用していきます。2024年度に集中購買組織も設立。「積水化学さんが全社で集中購買を行うなら、別の見積もりを準備しますよ」といったお話もいただいています。
契約情報をCoupaに集約・分析し比較購買に活用。2024年度には集中購買組織も設立される
小関 購買DXは、サプライヤーにとってビジネスチャンス拡大の機会ともなりますね。価格だけでなく、ダイバーシティ、ESG(環境・社会・ガバナンス)など社会的評価軸でサプライヤーを選択することも必要な時代です。社会性に関しては、どうお考えですか?
高原 集中購買推進とセットで、社会的評価軸も必要になると考えています。環境はもとより、海外では児童労働などの社会問題にも配慮すべきです。しかし、当社による情報収集には限界があります。
小関 Coupaサプライヤーポータルには、950万社のサプライヤーが登録しています。またCoupaコミュニティではサプライヤーの評価も行っています。外部の評価会社も加え、信憑性の高いサプライヤー情報の提供が可能です。
高原 今後、購買改革のグローバル展開に着手します。物理的距離があるため、見えない部分も多くあります。すべての従業員の購買の透明性確保と適正な購買を実現するために、AIが不適切な支出やポリシーに抵触しそうな支出を自動検知してくれるCoupaのSpend Guardにも期待しています。
高原 当社と同様に予算だけで間接材購買費を管理している企業は、短期間で結果が出ると思います。またアナログから電子取引へと、間接材購買のデジタル化がサプライヤーの協力を得ながら一気に進むことも重要なポイントです。さらにコストに加え、ESGなどの観点からリスク管理、統制を見直すことで、持続的成長を支える次世代の経営基盤を構築できます。
いま多くの企業がDXに取り組まれていますが、取り組みの成果やDXの成功体験を得るには時間がかかると思います。その点において購買DXは、比較的早期に効果を感じやすいテーマではないかとも考えています。
今後、積水化学では“業容倍増”に向けてDX原資のさらなる確保と業務効率化を目指し、Coupaを活用した購買改革を推進していきます。
小原 DXに取り組む上で、購買DXが理想的なスタートポイントであることは、積水化学の取り組みにより実証されたと考えています。高原さんのお話にもあったように、間接材購買はデジタル化により、短期間で、なおかつ高い確率で効果が出る領域です。積水化学の成功モデルは「どこからDXに着手すべきか」「DXの原資をどうするか」、悩んでいる企業にはヒントになると思います。購買DXは単なる業務効率化の枠を超え、DXの推進力となります。

| 本社 | 米国(2021年Coupa日本法人設立) |
| 創業 | 2006年 |
| 事業 | 企業のビジネス支出、サプライチェーン、財務業務の最適化を実現するBSMプラットフォームの提供 |
| ミッション | 顧客企業へ「定量化できる価値」をサービスとして提供すること (=Value as a Service)を経営理念とし、 組織の支出から得られる価値を最大化する |
| ビジョン | 顧客企業のCPO(Chief Procurement Officer)、CSCO(Chief Supply Chain Officer)、調達・購買部門、サプライチェーン部門を、BSMを通じて支援する |