日立建機、東京海上日動システムズ、東京エレクトロン 各社が見出した「三社三様」の
DX戦略の「勝ち筋」とは

日立建機 業務部門とIT部門を真のワンチームへ
顧客視点のアジャイル開発の秘訣とは?

10営業日で60プロダクトアップデートをリリース

日立建機株式会社
グローバル営業本部
DNA開発推進部長(Dealer Network Acceleration)
猪瀬 聡志

 日立建機はグローバル市場に対し、建設機械の設計・製造・販売を行っている企業だ。建設機械のトラブルは顧客の損失につながるため、単に製品を提供するだけではなく、世界各地で活動するディーラー(販売代理店)による継続的なメンテナンスや、問題発生時の迅速な対応が欠かせない。

 このようなビジネスモデルの中で、インターネットを活用したディーラーネットワークを1997年に構築していたのが、猪瀬 聡志氏だ。2013年には、遠隔監視で建設機械を見守るサービスソリューション「ConSite」の開発を推進。その後もさらに、ディーラーネットワークの拡充に取り組んできた。

 しかしその中で、様々な「憂うべき状況」も経験してきたという。「私自身は30年間実務側だった人間なので、本格的な開発はどうしてもIT部門の協力が必要です。しかしIT部門の担当者曰く、開発以外の部分に力をそがれており、実質的な開発時間は10~15%程度しかないと言うのです。またシステム更新や新規作成は、毎年12月までに計画し、審議や予算化なども含め3年待ちという状況でした。このままでは、お客様に貢献できるシステムを迅速に実現するといったことは、不可能だと感じていました」。

 開発効率とアジリティーを高め、その後のスケールも行いやすい環境をどう実現するか。この問いに対して猪瀬氏が出した答えが、事業部とIT部門が「ワンチーム」となり、事業部主導でアプリ開発をアジャイルに行える組織の立ち上げだった。そのために2021年には「DNA(Dealer Network Acceleration)プロジェクト」をスタートさせている。

 「まず着手したのは『顧客の関心事』からスタートし、その実現のために何をするかという『バックキャスティング』の考え方を、プロジェクトメンバーや経営層に理解してもらうことでした。そのために寸劇仕立てで『なぜDXを行うのか』を説明する5分間のコンテンツを作成。またミッション達成の最終像や、カスタマージャーニーマップも明確にしました。このようなことを週次の企画・構想ミーティングを通じて進めていき、2021年第4クオーターに臨時予算を獲得、2022年から実際の開発を開始しています」

 その開発環境・リリース環境としては、OpenShiftなどのオープンソース製品を活用。当初はほとんどの開発者が「OpenShiftを見たことも触ったこともない」状態だったが、現在では6チームに編成された43人のメンバーが、10営業日で60プロダクトアップデートをリリースするといった、極めてアジャイルな活動を展開している。また臨時予算でスタートしたDNAプロジェクトも、2023年には恒久組織化されている。

PAGE TOP

変革を後押しした「サムライRed Hat」

 この取り組みで注目したいのが、「顧客セントリックな視点」で業務部門とIT部門の壁を突破したことだ。つまり、参加メンバーや経営層の意識を変革しながら、DXで重要となるアジャイルな開発・リリースを実現してきたのである。そこで重要な役割を果たしているのが、Red Hatの日本法人だという。

 「最初はOpenShiftのチュートリアルを触り、わずか数秒でサーバーが立ち上がる様や、それらのスケールのしやすさ、ROSA(Red Hat OpenShift Service on AWS)の可用性の高さなどに衝撃を受けました。そこでRed Hatと二人三脚でDNAプロジェクトを進めることにしたのですが、そこでさらに大きな衝撃を受けることになったのです。それは、彼らがゴールにしているのが製品の提供・活用ではなく、我々の成功だということです。また、オープンソースを使うことの本質や、スクラム開発が開発のゲームチェンジャーであるといったことも、実に深く理解していました」

 猪瀬氏はRed Hat日本法人のことを、敬意を込めて「サムライRed Hat」と呼ぶ。「彼らは『日本から世界をより素晴らしく変えられる』と信じてやまない人たちであり、日本が世界と対等に戦えるチャンスをもたらす存在です。サムライRed Hatは私たちにとって、スクラムとアジャイルの先生であると同時に審判でもあります。化け物級の知識量がある上、一切の甘えや忖度がないのです。その一方で、困った局面では常に日立建機の視点で解決策を考え、Red Hat以外の提案を行うことも少なくありません」。

 このような先生・審判の存在は、DXを「自分事にする」という文化の醸成に、大きな貢献を果たしている。DNAプロジェクトが壁にぶつかり、誰もが沈黙してしまう中でも、必ず誰かが「私がやります」と発言し、このような「立ち上がろうとする人」を応援・評価する空気ができあがったという。

 DNAプロジェクトの最大の成果は、このような「自己組織化できている組織構造」の実現だ。そこではマネジメントから現場までの距離が近く、マネジメントがチームを信頼して環境や支援を与え、チームメンバーがその信頼に応えている。

 アジャイルやスクラムといった開発手法を採用するだけではなく、その本質をしっかりと理解した上で意識変革を進めること。これはDXを大きく前進させる上で、重要な「勝ち筋」になる可能性が高いといえるだろう。

PAGE TOP

東京海上日動システムズ 会社の垣根を越えたイノベーションのしかけ
取り組みに見える専門人材育成の方法

結果を早く知るがアジャイルの本質

東京海上日動システムズ株式会社
エグゼクティブオフィサー
デジタルイノベーション本部長
村野 剛太

東京海上日動システムズ株式会社
デジタルイノベーション本部 本部長代理
兼 デジタルイノベーション開発部長
吉田 和史

 アジャイルが、なぜDXのゲームチェンジャーになるのか。それはビジネス開発・リリースのスピードを極限まで高めることで、競争上の優位性を確保しやすくなるからだ。この「スピード」について、「3種類のスピードを意識する必要があります」と語るのは、東京海上日動システムズの村野 剛太氏だ。「一般的には『判断・決定するスピード』と、それを『形にするスピード』の2つのスピードが議論されることが多いようですが、アジャイルではもう1つ重要なスピードがあります。それは『結果を知るスピード』です」。

 その順序も「判断・決定するスピード」と「形にするスピード」の前に、「結果を知るスピード」を置くべきだと村野氏は指摘する。あらかじめ結果が分かっていれば、判断・決定の精度が高まり、それを形にする際にも不要な機能や必要性が不明な機能の開発を省略でき、完成までの期間をさらに短縮できるからだ。そして「結果を知るスピード」を重視したビジネス開発手法こそが、アジャイルなのだという。

 東京海上日動システムズは東京海上グループのDXを強力に後押しするため、このアジャイルに対して本気で取り組んでいる。素早く容易に行動し、方向転換するというカルチャーを醸成するために、予算オペレーションの仕組みすら変えた。また「LACE」という、アジャイル開発の推進組織も設置。この名称は「Lean Agile Center of Excellence」を略したものだ。

 「スクラムチームは、ビジネス部門のプロダクトオーナーとデベロッパーのほか、スクラムマスターやアーキテクト、デザイナーといった専門家集団で構成されます。いかに専門家集団であっても解決が困難な課題が発生すことはあり、それを経験豊富なコンサルタント・マネジメント層で支援するのがLACEの役割です」(村野氏)

 LACEは、アジャイル開発の支援チームであると同時に、その最高意思決定機関でもある。パートナー各社と東京海上日動システムズのマネージャーが参加し、毎週LACE会議を開催、各チームの課題を可視化し、スクラムチーム内で解決が難しい課題について、その判断・解決も直接行っているという。金融領域の1つである保険はミッションクリティカルなビジネスであり、これと自立・自律を重んじるスクラムチームを両立するには、高度なマネジメントが不可欠だからだ。

 2019年に50人程度の規模で開発組織を立ち上げた後、僅か4年後の2023年8月には、約400人に上るアジャイル開発体制を確立。このメンバーが東京海上日動のビジネス部門・DX部門の約100人と協業し、アジャイル開発を推進している。このようなDXニーズに応える開発体制の急激なスケール拡大を支えるのは、独自の育成手法だったという。

PAGE TOP

会社の垣根を越えて若手を育成

 「急激なスケール拡大に対して、社内だけでは開発体制を賄えず、パートナー社とスクラムチームを組み内製開発することにしました。当社メンバーは若手中心で技術面含め育成課題が山積し、パートナーも急速な拡大に対して適切な要員投入が次第に困難となっていました。またアジャイルに関する“方言”が各社に存在し、会社間の意思疎通も困難でした」と振り返るのは同社の吉田 和史氏。社内はもちろんのこと、社外から参画するメンバーに関しても、育成が急務となっていたという。

 そこで取り組み始めたのが、スクラムマスターやアーキテクト、デザイナーなどロール別のメンバー育成である。毎週月曜日の13~17時を学びの時間に設定、13~15時はロール別の活動、15~17時は全体に関する学びの時間とし、チーム全体の共通認識を作り上げながら、それぞれの役割に必要な知識やスキルが磨かれていった。

 中でも特に重視したのが「スクラムマスター」の育成だ。「開発手法としてはスクラムを採用していますが、スクラムの成功はスクラムマスターの知見や行動に大きく依存します。適切な行動でスクラムを成功に導いてもらうには、専門性を磨き上げる必要があるのです。そこでRed Hatのコーチングのもと、必要なコンピテンシーを明確化した上で、半年間の育成プログラムを新規で構築し実践しました」(吉田氏)。

 ここで注目したいのは、このような人材育成の取り組みが、スクラムマスター育成を含め会社の垣根を越えて行われていることだ。4~9月に各社で研修を受けた新入社員に対し、10月から合同でクラウド開発研修・スクラム開発研修を行っている。研修カリキュラムは東京海上日動システムズの若手社員が企画・実施。ここでもRed Hatのメンバーが支援に入っている。

 11月からはスクラム開発の実践をスタート。新人だけで構成された5~8人のスクラムチームによって、実際にリリースする「本物のプロダクト」の開発が進められていく。「テックリード」による技術面の常時サポートや、パートナー各社と東京海上日動システムズの管理職が毎週課題や成長度合いを共有する「保護者会」は用意されているものの、アジャイルや開発に関する悩みは基本的に、全てチーム内で解決しているという。

 事業部門のDX支援を行う組織や、顧客のDXを支援するIT企業にとって、専門性の高い人材の育成は、最も悩ましい課題の1つだ。その突破口を作る方法として、東京海上日動システムズのアプローチは、示唆に富んだものだといえそうだ。

PAGE TOP

東京エレクトロンデータ連携の基盤となるハブを構築
レガシーからの脱却を果たした仕組みとは?

モノリシックからモジュラー型へ

東京エレクトロン株式会社
IT UNIT IT戦略部 部長代理
柿 良幸

 ここまでは「カルチャーチェンジ」「人材育成のアプローチ」が勝ち筋となった事例だったが、システム構成の見直しという「テクノロジー面での取り組み」が成功の突破口になった事例もある。その1つが東京エレクトロンのケースだ。

 同社は半導体製造装置事業をビジネスの柱としており、半導体製造装置メーカーの売上額では世界第4位にランクインしている企業。半導体製造には複数のプロセスがあり、それぞれに専用機器が必要になるが、東京エレクトロンはそのほとんどで世界1~2位のシェアを持っている。装置出荷台数は世界No.1であり、売上高も2027年には3兆円突破を狙う。

 IT部門が果たすべき役割について「お客様とエンドユーザーのエクスペリエンスに焦点を当て、社員が安心して活動できるITソリューションと環境を提供することです」と説明するのは、同社の柿 良幸氏だ。しかし以前の基幹システムは、巨大なメインフレームやERPの周りにサテライトシステムを配置するといったモノリシックな構成になっていたため、新たなビジネスニーズに迅速かつ柔軟に対応することが難しかったという。

 この問題を解決するために取り組んだのが、レガシーの思想を引きずった「1:1ベースのバッチインターフェース」からの脱却だった。よりリアルタイム性の高い「イベントドリブン型」へと変革するとともに、多様なデータニーズに対して柔軟に対応できる形へと、システム全体のあり方を大きく変えることにしたわけだ。

 「まずコアとなるERPをコンパクトにし、『Fit to Standard』の考え方に基づいてアドオンやカスタマイズを極力排除しました。その上で、どの会社にも共通するコモディティなITサービスはSaaSを積極的に活用し、必要に応じてプラグ&プレイできるようにしています。さらにその周りには、データ連携機能を提供するデータインテグレーションレイヤーを配置。その周りに、業務特化型のアプリケーションや、業務担当者が市民開発したアドホックなアプリケーションを配置できるようにしています」(柿氏)

 このような「モジュラー化」を進めた結果、社内システム全体の中核はERPではなく、データ連携基盤を提供する「ハブプラットフォーム」になっていった。これを実現するために活用したのが「Red Hat Integration」である。

※東京エレクトロンによる推定値

PAGE TOP

REST APIで基幹データの利用が可能

 ハブプラットフォームを利用したデータ連携の方法は、おおよそ次の通りだ。

 まずRed Hat Integrationに、基幹系データへのアクセスを可能にするREST APIを用意。CRMやカスタマーポータルといったフロントエンドで基幹データが必要になった場合には、このREST APIを呼び出して必要なデータをリクエストする。要求されたデータは、Red Hat IntegrationからERPに対してCDSビューを呼び出すことで取得。これによって、ERPの中身を知らない開発者やユーザーでも、簡単に必要なデータを利用できるようになった。

 「このようなAPI管理の実装によって、市民開発のための制限・制約をコントロールできるようになり、マイクロアプリケーションを早く作って試し、だめなら捨ててやり直す、といったことも簡単になりました。またモノリシック化を抑制することで、機能配置の自由度も向上しています」(柿氏)

 効果をもたらしているのは市民開発に対してだけではない。周辺システムとERPに間にハブプラットフォームを挟み込むことで、ERPの処理量のコントロールや、周辺システムのバッチ処理の効率化も可能になったという。

 「例えば輸出管理判定業務では、特定の時間帯に大量の伝票更新が発生し、その結果、判定処理が数時間にわたり滞留する、という問題がありました。その解決に道を開いたのが、優先順位を意識したディスパッチをRed Hat Integrationで行う、というアプローチです。これによってERPに複雑なロジックを配置することなく、緊急処理枠を常時キープした状態で、総流量のコントロールが可能になりました。また周辺システムのバッチ処置では、微妙に異なる膨大な数のフォーマットへの対応が問題になっていましたが、これもRed Hat Integrationで自動調整できるようになりました」と柿氏は語る

 製造業ではERPのほかに、生産管理を行うMESや、資材調達管理を行うMRP、倉庫在庫管理を行うWMSといった基幹システムも欠かせない。Red Hat Integrationは、これらの間のマスターデータのリアルタイム連携でも、重要な役割を担っているという。

 このようなハブプラットフォームがあれば、業務ニーズを満たすためのカスタム開発が容易になり、データ活用も促進される。その結果、業務プロセスの生産性向上とデータ駆動経営が実現され、企業競争力をさらに高めることも可能になるわけだ。

 以上、「三社三様」の「DXの勝ち筋」を紹介してきた。もちろん成功要因は、ここで紹介したものだけではない。物事の成功や失敗は、様々な要因が絡み合った結果だからである。しかしそれぞれの成功事例で最も重要なエッセンスを抽出することは、今後の戦略・戦術を考える上で大きな意味持つといえるだろう。ここで紹介した「勝ち筋」が、参考になれば幸いである。

PAGE TOP

関連リンク

お問い合わせ

レッドハット株式会社
URL:https://www.redhat.com/ja/global/japan
TEL:03-4590-7472
E-mai:sales-jp@redhat.com