約150カ国・5万人超の従業員情報のデータガバナンスを徹底するには? グローバル人事戦略の要に人事情報データベースの一元化を推進するLIXIL

グローバル人事戦略の基盤となる人事情報の一元化に着手

「実は人事情報データベースの整備は今回が初めてではなく、15年末から19年にかけてリージョンごとに推進したことがあります。ただし、データガバナンスを徹底していなかったこともあり、データの粒度や質がリージョンごとにばらばらだったり、中には各国それぞれの言語で入力されていて、どこにどういう人材がいるかといったことを把握できるようなデータベースにはなっていませんでした」と鈴木氏は当時の課題を説明する。

「20年に経営層から、人材をグローバルに一括で管理していきたいという方針が示されたことを受けて、改めてプロジェクトをスタートさせました」(鈴木氏)

最初に行われたのは、ソリューションの選定だ。「LIXILのグローバル人事戦略の基盤としてふさわしいかどうか、という観点で検討を進めた結果、それまで各リージョンで使っていたSAP社の『SAP SuccessFactors』(エスエーピー・サクセスファクターズ)というクラウドベースの人事システムが最善と判断しました」と鈴木氏は説明する。SAP SuccessFactorsはニーズに合わせて様々なモジュールを導入しながら機能を強化できることや、デファクトスタンダードになっていることなども評価したという。

SAP社の「SAP SuccessFactors」を中核としたインテリジェント・エンタープライズHRの実現イメージ。LIXILが取り組んだ人事情報データベースの整備は、図の中心にあるグローバル人材プラットフォームに相当する

各国の協力を得るために。繰り返し行われたタフな交渉

LIXIL
Human Resources部門 HR Digital部 Digital Strategy & Developmentチーム リーダー

野田 一貴

実務においては各リージョンの協力を得ることから始めた。野田一貴氏は次のように振り返る。

「各リージョンの担当者との頻繁なリモートミーティングを通じて、グローバル人事戦略を進めるには人事情報の一元化とデータベースの再構築が必要であることを、繰り返し説明しました。時にはぶつかることもあり、理解してもらうまでに3カ月ほどの時間を要しましたが、逆に密な関係が構築できたと考えています」

旧データベースの情報を新データベースに移すには、新たに定めたデータのガバナンス(入力すべき情報の粒度、フォーマット、言語など)を徹底する必要があった。そのときの苦労を担当のYang Rainy氏は振り返る。

「5リージョンにまたがるおよそ150カ国、15カ国以上にある海外拠点それぞれの事情や要望を踏まえながらも、最終的には日本本社で定めたデータガバナンスに従ってもらうように理解を得ました。各ローカルとのコミュニケーションはとても重要で、今でも定期的なミーティングを開催するとともに、データの確認を行っています」

LIXIL
Human Resources部門 HR Digital部 リーダー
AMS & Enhancing Functionチーム リーダー

Yang Rainy(ヤン・レイニー)氏

システム面では、コストがかかり将来の足かせにもなり得るカスタマイズ(アドオン開発)は行わず、業務をシステムに合わせる、いわゆる「フィット・ツー・スタンダード(Fit to Standard)」のアプローチに基づいて、SAP SuccessFactorsの機能をそのまま利用した。

また、SAP SuccessFactorsだけでは対応できない機能については、サードパーティー製のノーコードツールを使ってアプリケーションを開発し、補完する形を取った。「例えば、有期雇用の従業員と契約を更新する際には書面を取り交わす必要があります。ノーコードツールでそうした業務フローを組んでおき、その結果をSAP SuccessFactorsに入れて管理するようにしました」(鈴木氏)。

HR部門には、すでに数十本のノーコードアプリが利用されているという。Fit to Standardとノーコードツールの組み合わせは、極めて理にかなっていると言えそうだ。

2023年1月に人事情報データベースの構築を完了

20年から始まったLIXILの人事情報データベースの構築と整備は、ひとまず23年1月に完了した。グローバル人事戦略の一環として、人材の見える化の第一歩を踏み出した形だ。

「デジタル化の成功の秘訣は、短期間にすべてを望まないことだと思っています。すべての機能を最初から搭載したソリューションもある中で、SAP SuccessFactorsは当社のニーズに応じて機能を拡張できる点がメリットで、今回は人事情報の一元化のみに焦点を合わせました。今後はSAP SuccessFactorsの機能をさらに活用しながら、グローバル人事戦略の遂行をバックアップしていきたいと考えています」と鈴木氏は展望する。

具体的には25年頃までに、従業員のタレント評価管理、報酬管理の統合も図っていく計画である。

HR部門内にHR関連のデジタル推進チームを置いたこと。各リージョンに理解してもらうとともにデータガバナンスを徹底したこと。カスタマイズは行わずノーコードツールで機能を補完したこと。すべてを一気に進めるのではなく人事情報データベースから着手し、その改善に適切なソリューションを利用したこと。そして何よりも、よりどころとなるグローバル人事戦略をしっかりと定めていたことなど、同社の取り組みはグローバル経営を目指す企業にとって参考になるだろう。

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