―日本企業における競争力の現状をどう捉えていますか?
倉本 日本は、過去50年以上にわたり、労働生産性(就業1時間当たりの付加価値)においてG7中で最下位が続いています。2021年はOECD加盟38カ国中29位と、1970年以降で最も低い順位となりました。
マクロの観点では、円安で輸出産業は好調ですが、原材料を輸入に頼る企業は苦戦を強いられています。そして、高齢化による労働力人口減少に伴う人材不足が深刻化しています。米国では、AIによる解雇が話題になっていますが、マッキンゼーの調査では、日本では2030年までは、高齢化による労働力人口減少の影響がAIや自動化による生産性向上の効果を上回り、労働人口不足が続くとしています(注)。
さらに、高齢化社会に伴いビジネスを支えてきたベテランが前線から退いていき、組織から知見が失われていく。これらの人的資本の課題は、ビジネス最前線に立つ営業組織でも顕著です。限られた営業リソースでいかに収益向上を図るか。営業の抜本的改革が、今こそ求められています。
(注)『The future of work in Japan ポスト・コロナにおける「New Normal」の加速とその意味合い』(マッキンゼー、2020年5月)
Xactly株式会社
代表取締役社長
福眞 総一郎氏
福眞 ミクロの観点でポイントとなるのが、企業のトップライン(売上高)と賃金の動向です。アメリカは物価が高くなるのと同時にトップラインを伸ばし賃金も上昇。結果として経済がまわり、競争力も維持されています。一方で日本は「失われた30年」の長期停滞に陥り、企業が稼ぐ力を発揮できないまま、賃金の伸び率は欧米の1/10程度。経済低迷で国際的な競争力が低下する「負のスパイラル」から、なかなか抜け出せない状況が続いています。言わずもがな、トップラインを伸ばす直接的な役割を担うのは、企業の営業活動です。Xactlyはその営業のパフォーマンスを最大化するSaaSプラットフォームを提供し、世界中で企業を支援していますが、究極的には「営業一人ひとりの生産性とモチベーションの向上できる仕組みをどう作るのか」、ここに突破口があると考えています。
―客観的視点でグローバルと比較した場合、日本の営業生産性はどう低いのでしょうか?
倉本 マッキンゼーでは、営業生産性を測る指標の1つとして営業ROI(投資利益率)という考え方を導入しています。営業コスト※1を投資、粗利をリターンと捉え、営業パフォーマンスを数値化(粗利÷営業コスト=営業ROI)。数字が大きいほど稼ぐ力があるということです。営業ROIのグローバル比較※1では、対象10業種すべてで日本が低い結果となりました。営業ROIが1.4では、営業コストと粗利があまり変わらないので、営業の価値が問われかねないレベルです。また営業1人当たりの売上高に関して、グローバルは日本の2~3倍稼いでいるケースもあります。
※1 グローバルは各業界売上上位30~50社、日本は上位15~25社における2015~2019年の5年間の平均。当分析における営業コストは公開されている「販売および一般管理費」を指すが、本来は営業に関わるコストのみを抽出するため、日本企業は2.0~3.0程度、グローバル企業は3.0~5.0となることが多い(出所:S&P Capital Global)
グローバル比較において、調査対象の10業種すべてで日本はグローバルよりも営業ROIが低い結果となった
福眞 2021年8月にXactly日本法人を設立し、日本企業のトップや営業部門とお話しする機会が増えています。グローバルと日本企業との営業生産性の“差”は、私も日々実感しています。日本企業の営業1人当たりの売上高が低い要因は、目標設定の仕方の違いも1つあると考えています。グローバルは営業一人ひとりに目標を設定、それに対し日本では組織やチームで共通目標を設定するケースが多い。共通目標に向かって取り組む場合、「誰かが何とかしてくれる」といった気持ちが生まれやすい。目標達成の際に、皆で一体となってやり遂げた喜びは得難い経験だとしても、個人に対する適切な評価や、モチベーション向上にはつながりにくい面があります。
倉本 日本企業で営業の業務時間サーベイを実施すると、社内対応の時間がグローバルの先進企業に比べて圧倒的に多いことが多いです。その内訳は、社内会議への出席、営業日報・週報・月次報告、稟議書作成、上司が経営会議で発表するための資料作成など、営業として顧客に価値を届けることに直接つながらない業務が非常に多い。これは営業個人の判断ではなく、経営陣が、社内資料や会議を減らしていく判断をしなければ、なくなりません。
日本企業の営業担当者は、社内業務や資料作成に実に全体の70%以上の時間を費やしていた
福眞 当社のお客様事例では、従来、営業会議用の資料作成に営業マネージャーが月8時間も要しているケースがありました。管理職の人数が多いほど、かかる時間も比例していきます。
倉本 営業業務の中で資料作成が50%以上も占めていることも課題でしょう。欧州の先進企業では、提案書作成の専門部隊が存在し、動画やクラウド上でのデモ紹介など効果の高いプレゼンテーション資料を短時間で作成しています。営業部隊は、顧客の状況に合わせた変更やより効果的なメッセージングだけに時間を使うわけです。更に、今後はChatGPTを始めとする生成AIの活用で、効率化がさらに進むでしょう。
福眞 営業マネジメントも時間の有効活用が求められます。多くの部下を担当している場合、1人ですべての案件を日々チェックするのは困難です。案件全体の管理はAIの支援も活用して、優先順位の高い案件を人手できめ細かくサポートする。これからはAIの活用もポイントになります。
―CRMやSFAを導入しただけでは営業改革につながりません。理由はどこにあるとお考えですか?
倉本 多くの日本企業でSFAやCRMが受注登録ツールになってしまっているのが見受けられます。本来は、受注後ではなく、進行中の商談の進捗を記録し、商談全体を見える化し、上司がアドバイスしやすくするためのリード管理のツールです。また、上級管理職がCRMを扱えず、部下にデータ出力やとりまとめ、それを説明させるための会議を設けているケースがありますが、これが営業部隊の資料作成を増やし、営業効率性を下げています。私が日本企業の営業プロセス改善プロジェクトに携わる際は、上層部の方に「まずCRMを毎日見てください。必要な情報はほぼ、そこにあります」とお話しし、CRMの使い方をコーチングさせて頂いております。日々の営業会議も、特別な資料は一切つくらず、全てCRMを見ながら、またはそこから自動出力されるレポートだけを用いて、営業員にアドバイスをしていく。こうしてマネジメントが直接CRMに関わることで、営業員も入力に意味を感じ、入力率も上がり、見える化が進む、という好循環を生み出せます。
CRMを使いこなせている組織では、多くの企業が頭を悩ましている「提案営業」「ソリューション営業」が出来ている営業、出来てない営業を見分けることが可能になります。「提案営業」が出来ている営業員は、営業プロセス初期の時期のリードが多く、受注に向けて案件数は少なくなります。一方、顧客の購買から案件をもらうばかりの営業は、営業プロセス初期のリードが極端に少なく、受注直前から増え始めるのです。「提案営業」が出来ている営業員ほど、安定的により高い利益を会社にもたらします。
福眞 CRMやSFAにデータを入力することが目的化しがちなのが原因の一つだと思っています。大事なのは営業成果をあげることや営業目標を達成することが目的で、そのためにデータを入れるという動機付けを作らなければいけません。この観点から効果的なアプローチが「フォーキャスト管理」です。フォーキャストとは、特定期間における売上の予測のことですが、この予測を精度高く行い、目標を達成するために目標と予測のギャップを見出し、そのギャップを埋める対策を講じていくというのがフォーキャスト管理という手法です。ただ、日本企業の多くでは、フォーキャストそのものを、営業マネージャーが勘と経験で行っているのをよく見ます。これではフォーキャストはどうしても曖昧になるので、結局そこから効果的なコーチングやマネジメントが施せないという結果になっています。
倉本 私が過去に経験した事例でも、勘と経験によるフォーキャストをやめて全て自動化したところ、予測がより正確になった上に、末端の営業から鉛筆なめなめして予測を行う時間が不要になったため、大幅に効率性が改善したケースがありました。
福眞 フォーキャスト管理の概念が営業管理手法に定着している欧米の企業では、フォーキャスト管理を行うために専用のテクノロジーを活用する企業が増えています。実際に、第3者の評価として、フォーキャスト管理のテクノロジーを活用することで、目標達成率10%向上、商談受注率2.3倍といった成果を実現できると言われています。また、営業担当に負荷がかからない点も重要です。CRMからデータを収集し、機械学習により変化する情報の分析・可視化を行い、営業担当、マネージャー、経営陣にレポートを提供。数字を取りまとめてレポートする工数も削減にも寄与できるため、営業ROIの観点では大きな効果をもたらすと言えるでしょう。
ツールを活用することで、営業担当に負荷をかけることなく、データドリブンによるフォーキャストを実現。着実な成果が得られる
―成果をあげるには営業のやる気にも左右されると思いますが、日本企業におけるモチベーション向上のための報酬制度についてはどのように考えていますでしょうか?
倉本 マッキンゼーは戦略策定が有名ですが、2010年以降は、クライアント企業と一緒に数年かけて戦略の実行、展開を支援する改革プロジェクトが主流になってきています。私も、多くのクライアント企業との営業改革プロジェクトで、実際に売上や利益を上げることに携わってきました。その中では、改革へのモチベーションを上げるための報酬制度の設計は、一つの重要なポイントになります。日本では、これまでグローバル事例と異なり、個人への金銭的なインセンティブによる効果は疑問視されてきました。日本人は「和」を重視し、自分の成果も同僚の協力あって初めて可能になったと考えるので、一人だけが金銭的な報酬をもらうことを嫌がるというのが主な理由です。しかし今は、日本でも若い世代を中心に、個人への金銭的インセンティブに対する抵抗感がなくなってきていると感じています。大事なのは評価基準を明確にし、それに基づいて報酬を受けることが他の従業員にも納得感のあるような制度設計を行うことです。
福眞 2022年末に、Xactlyで日本企業の営業担当2000人にインセンティブに関するアンケートを実施しました。その結果、インセンティブ報酬があれば、約6割の人が「営業目標を達成した後も積極的に営業活動に取り組む」という興味深い結果が明らかになっています。一方で、日本企業の現在の報酬制度では、営業目標達成後はいくら頑張ってもあまり報酬には影響しないという結果も出ています。これでは、トップラインの伸長にはあまり期待できません。
また、若い世代ほどインセンティブ報酬を望んでいるということや、インセンティブ報酬があれば転職を前向きに考えるという結果も明らかになっています。これらの声を踏まえると、これからの企業経営を担う若い世代、そして優秀な営業人材を確保する観点でもインセンティブ報酬の導入は検討すべきアプローチだと考えています。
若い世代の営業担当者ほどインセンティブ報酬を望んでいることが明らかに
―営業生産性向上に取り組む日本企業にメッセージをお願いします。
倉本 私は過去に海外での改革プロジェクトに携わったこともありますが、諸外国の営業担当と比較しても、日本企業の営業担当一人ひとりは真面目で能力の高い人が多い。にも関わらず、社内向け報告書作成などに能力を生かしているとしたら、本当にもったいない。営業担当は、お客様の業績向上に貢献するために、自身の能力を最大限に営業活動に発揮できるようにすべきです。営業マネージャーはそのための環境を整備することに注力し、マネジメントにおいてはデータに基づき、適切なコーチングをタイムリーに行って、組織としての成果の最大化を図っていく。強い営業組織に生まれ変わるためには、トップの強い意志と営業組織全体のマインドチェンジと必要な仕組み作りが必要です。
福眞 日本はこれから益々営業人口が減少すると言われる中、それでもトップラインを伸ばすためには、営業一人ひとりの生産性向上は避けては通れません。ポイントは、営業一人ひとりへの目標設定と、その目標達成を後押しするためのフォーキャスト管理を徹底すること。さらに、目標達成に対するインセンティブを制度として組み込むことです。この成長と分配の収益向上サイクルを回すことができれば、企業が持続的に稼ぐ力を手にすることができると確信しています。
Xactly株式会社
https://xactly.co.jp/