
パーソルホールディングス株式会社
代表取締役社長 CEO
和田 孝雄氏
長崎2023年5月に「パーソルグループ中期経営計画2026」を発表されました。まずパーソルグループの成り立ちと、目指している姿について教えてください。
和田グループの中核企業およびサービスの1つであるパーソルテンプスタッフの設立は1973年。当時は社会に出てはたらく女性がまだ少ない時代でした。働きたい女性はもちろんですが、性別や置かれた環境に関係なく、すべての人が生き生きと働ける世の中をつくりたい。創業者(篠原 欣子)の強い想いが出発点となり、働き手を求める企業との最適なマッチングを支援することから事業がスタートしました。現在に至るまで、時代の要請に合わせて業容を拡大してきていますが、創業当時の理念(雇用の創造、人々の成長、社会貢献)は、今も企業文化として脈々と受け継がれています。
私たちが大切にしているのはグループビジョンである「はたらいて、笑おう。」を実現する社会です。そして“はたらくWell-being”。はたらくことを通して、幸せや満足感を実感できることです。そうすれば個人も社会も、もっと多様で豊かになれるはず。そんな思いを込め、これを柱にグループシナジーを発揮するため、中期経営計画では「人的資本」「テクノロジー」「ラーニング」の3つを事業成長のエンジンと定義しています(図1)。
図1 「パーソルグループ中期経営計画2026」の全体像
3つの重点施策を事業成長のエンジンとし、各SBUの事業変革を推進。テクノロジードリブンの人材サービス企業へ転換を図り、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」を目指す
グループの屋台骨を支える人材派遣事業、成長分野であるBPO事業、IT関連の請負・派遣事業、人材紹介事業に積極的な投資を行い、2030年には1つの通過点として100万人のより良い“はたらく機会”を創出することを目標に掲げています。これにより、一人ひとりの可能性と選択肢を広げる「“はたらくWell-being”創造カンパニー」を目指しています。
長崎創業当初からの理念は、今、重要視されている「ダイバーシティ&インクルージョン」の考えに通じるものがありますね。それをベースにしつつ「テクノロジードリブンの人材サービス企業」を経営の方向性として定めています。この狙いを教えてください。
和田働きたい人、それを求める企業との最適なマッチングを支援するためには、お客様一人ひとりと向き合うことが欠かせません。また、昨今の社会環境の変化は激しく、働き方やお客様のニーズも多様化しています。
ここにテクノロジーを活用し、人とテクノロジーでシナジーを発揮すれば、コンサルタントの創意工夫がもっと広がり、深みのあるご提案が可能になるのではないか。そう思ったのがテクノロジードリブンを推進することになったきっかけです。そのためにテクノロジー人材拡充を進めており、採用に加えてリスキリングとアップスキリングの両面からグループ社員の育成にも注力しています(図2)。
図2 テクノロジー人材に関する取り組み
非テクノロジー人材はアップスキリングによってテクノロジー活用人材に育てる。テクノロジー活用人材はリスキリングによってコアテクノロジー人材に育てる。これによってグループ全体のテクノロジー人材が厚みを増す
長崎おっしゃる通り、テクノロジーは導入しただけでは活用は進まず、それ以外の要素も非常に重要です。アマゾンでも、パーパスやビジョン、さらにはカルチャーの醸成や新サービスを生み出すメカニズムを大事にしています。パーソルグループも大前提として、ビジネスでの価値創造を目指している。その姿勢には大いに共感しています。
和田当グループは人材紹介、人材派遣など事業セグメントごとに編成した「SBU(Strategic Business Unit)」という組織の集合体です。テクノロジー人材の採用と育成で、以前から開発の内製化を進めていましたが、そのころはテクノロジーやデータ活用のレベルはSBUごとに濃淡がありました。SBU間の連携も十分ではなかったため、データのスケールメリットも発揮しにくい環境でした。現在は、既にクラウドシフトが完了しているSBUに加え、オンプレミス環境が残っている一部SBUの既存システムについても基幹システムや周辺システムのモダン化を進めています。この取り組みもAWSのサポートを受けながら、内製化で進めています。
長崎私たちも共に変革の道を歩めることをうれしく思います。テクノロジードリブンの実現に向け、どのような取り組みを推進されているのですか。
和田グループのテクノロジー実装を推進する「CoE(Center of Excellence)組織」を編成しました。ここがSBU全体のハブになり、グループのテクノロジー人材・組織の育成と拡充、事業・サービスにおけるテクノロジーの実装・活用することで開発のスピードが上がり、データ活用も促進され、好循環が回り始めています。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
代表執行役員社長
長崎 忠雄氏
長崎テクノロジードリブンを標榜するお客様は増えていますが、掛け声だけではなかなかうまくいきません。その点、パーソルグループは和田社長自らがクラウドをはじめとするテクノロジーの価値を深く理解し、変革の意思と方向性を明確に打ち出しています。社内で人材を育て、内製化も実現しました。これが大きな原動力になっていますね。
和田私たちは2016年以来、着実にクラウドの活用を進め、開発文化もクラウドネイティブなものに変えてきました。
必要なのは、グループビジョン実現に向けた、スピーディーな変革への取り組みです。その点AWSは、変革の知見と経験を豊富に持つ。これがAWSをパートナーに選ぶ一番の決め手になりました。
テクノロジードリブンな組織に変えていくためには、柔軟性・拡張性が高いインフラが必要だし、開発スピードも上げ、変化にも機敏に対応できなければならない。事業の特性上、お客様の情報資産を数多くお預かりしているため、セキュリティや安定性・信頼性も欠かせない。要件を満たす最適なインフラが結果的にクラウドでありAWSだったというわけです。
長崎アマゾンが最も大切しているのは、お客様の成功です。クラウドを単に使ってもらうことが一番の目的ではない。お客様と成功を共にし、WIN・WINの関係を築く。その中で私たちも成長したいと考えています。そこをご評価いただいたのは、本当にうれしいですね。
和田もう1つ、印象的だったのは、長崎社長に以前ご紹介いただいた、ウクライナのPrivatBankの事例です。ミッションクリティカルな銀行システムのクラウドマイグレーションを、わずか45日で完遂したと伺って衝撃を受けました。
戦時下という特殊な状況も影響しているとは思いますが、経営トップがクラウド移行を最優先で行う方針を打ち出したこと、そしてAWSがその方針に寄り添い、しっかりサポートしたことが成功要因だと思います。この話を伺った時、AWSとなら新たな領域にもチャレンジしていけると確信しました。
長崎変わることに不安や恐怖は付きものです。そこをしっかり担保することが大切です。3年後、5年後のお客様のビジネスを考え、そこから逆算してやるべきことを提案していく。AWSは単にお客様からいただたいた要望を形にするだけではありません。時には激しくディスカッションすることもありますが、それが本当の意味でのお客様主義だと私たちは考えています。
そうして膝をつき合わせていけば、できないと思ったことも“できる”に変えていける。アマゾンにはそういう文化があり、お客様とのビジネスでこれを実践しています。
長崎変革の成果も着実に上がっていますね。AWS上でWebアプリ「Genie(ジーニー)」を内製開発し、企業情報化協会のIT賞(マネジメント領域)を受賞されたと聞きました。
和田ありがとうございます。Genieはパーソルグループ内に複数存在していた営業社員向け情報管理システムを一元化し、営業社員の情報収集プロセスを効率化する社内向けWebアプリです。グループ内にある200以上の商材と5000人を超える営業社員をつなぎ、グループ横断の営業活動の活性化にも寄与します。これまで縦割りに近かったSBUの営業社員同士が密につながるようになりました。
例えば、人材派遣事業の営業社員がお客様の人材紹介の需要を掘り起こし、それを人材紹介事業の営業社員に引き継いで成約につなげる。そんなビジネスが可能です。グループでのクロスセル効果が高まり、クロスセル売り上げは156%成長しました。またアジャイル開発により、年間100件の機能改善を実現しました。こうしたことが今回の受賞理由です。
グループ営業支援Webアプリケーション「Genie」画面イメージ
長崎グループ内のどの会社の営業に話を持っていってもワンストップで対応してもらえる。お客様のメリットも大きいですね。
和田その通りです。営業社員の利用率が上がるほどにお客様へ提供できる情報量・質も向上するので、今後も内製化のメリットを活かしながら継続的にGenieの機能を改善し、より使いやすいシステムにしていきます。
お客様目線の取り組みとしては、今後さらにアップスキルやリスキリング支援も重要になると見ています。トレンドでいうと生成AIは、お題を与えればプログラムのコードやレポートを自動で書いてくれますし、今後さらにビジネス利用が広がって行くと思います。そのため求職者にも生成AIを使いこなすスキルをもった人材が求められるようになり、マッチングのハードルも上がっていく可能性があります。トレンドも取り入れながらパーソルグループ全体で個人のキャリアに伴走し、日本の大きな課題となっているデジタル人材の育成にも貢献していけたらと考えています。
長崎教育によって、働く選択肢と可能性が大きく広がります。まさに「“はたらくWell-being”創造カンパニー」にふさわしい取り組みですね。今、生成AIのお話が出ましたが、AIのビジネス活用にはどのような可能性を感じていますか。
和田人材サービスとAI/生成AIの親和性は非常に高いのではないかと感じています。例えば、求職者がカウンセラーとの面談の前にAIと事前面談し、AIが質問や確認する項目を提案して本番の面談をより有意義なものにできるとかは考えられますね。
また、求人企業が生成AIを使い募集広告の文面を考えたり、求職者が応募書類を自動作成したりと、大幅に簡略化できるプロセスもたくさんあります。人の仕事がAIに奪われる可能性も指摘されていますが、AIは人の能力を拡張させるものだと思いますし、そういう使い方を模索しています。
長崎AIはクラウドと同様、お客様に価値創造に注力してもらうためのテクノロジーで、どちらも未来を創っていく上では重要なものと考えています。こうした新しいテクノロジーは、ちょっとした好奇心があるかどうかが、後になって大きな差を生みます。
アマゾングループは25年以上にわたってAIの研究開発に投資を続けています。実際にAIや機械学習を活用し、業務の自動化にも努めています。AWSは生成AIを活用する上で必要となる周辺サービスや開発の伴走支援、人材育成プログラムなども提供しており、包括的にお客様を支援しています。
和田私どももAI/生成AIの活用は積極的に考えていく方針です。この分野でもAWSのサポートに期待しています。
パーソルグループのビジョン実現に向けた経営革新にはデータの活用が不可欠です。組織横断的なデータ活用の仕組みを深化させ、中核事業と成長分野のデジタル変革を加速していきます。これによって人の可能性を広げる多様な事業、多様な人材を持つ強みを最大限に発揮し、すべての“はたらく”が笑顔につながる社会づくりに貢献していきます。