AI活用で
サプライチェーン業務を改革 IBM、「サプライチェーン×AI」で
顧客と従業員に付加価値を提供

日本アイ・ビー・エム株式会社 鈴村敏央氏

AIを活用して効果を上げる
ユースケースは数多くある

――どのようにすればAIでサプライチェーンの弱点を補強できるのでしょうか。

鈴村 例えば、緊急オーダーが入ったとか、生産や物流に遅滞が発生したなどの例外が発生した場合には、ERP(基幹システム)やSCM(サプライチェーン・マネジメント)システムの最新データから販売や生産・物流の状況を把握して納期を再計算して調整をしていきますが、意思決定までの段取りが決まっている“定常的な例外”である場合がほとんどです。

 この段取りのプロセスをAIに学習させて任せることにより、最新のデータをもとにシミュレーションさせ、優先順位をつけて対応候補を作成することができます。その結果を見て判断することにより、人が調整業務に関わる時間を大幅に短縮することができます。

 しかもAIには例外を察知する能力も備わっています。優秀なサプライチェーン担当者は自社製品に関連する原料の需給や生産地域での出来事に目を光らせていて、例外的なことが起きるとサプライチェーンへの影響を予測しています。インターネット上から幅広い情報を集めて整理するのもAIが得意とするところです。

 つまりベテランが考えたり、情報を整理する観点をAIに提供し(生成AIでいうプロンプト・エンジニアリング)、大量のデータから情報を整理して提案を行うことをAIに任せてしまおうということです。

 このほかにも、調達先の選定や見積査定業務にもAIを活用するとコストダウン効果が見込めます。現在は担当者が経験や知見に基づいて業務にあたっていますが、比較検討をしようとすると仕様や書式などが各社で異なり、データが構造化されていないという壁に突き当たります。結果、比較検討ができないわけです。

 しかし、生成AIを活用すればこうした非定型、非構造化データを読みとって構造化し、これまで人に頼っていたリスト化などの業務を自動化することができます。しかも作業時間を大幅に短縮できるというメリットもあります。

調達コスト削減/一般間接材の調達先選定・見積査定業務へのAI活用
生成AIにより非定型の見積書を構造化されたデータへと変換し、過去実績や市場価格と比較評価

データを利活用できることが
サプライチェーン変革の鍵に

――AIからメリットを引き出すためにはどんな条件が必要でしょうか。

鈴村 まず初めに、サプライチェーンデジタル化の鍵はデータです。サイロ化されたままではデータの利活用はできません。「どんなデータがどこにあるのか、そのデータは利活用できるようになっているのか」を考えることが重要です。

 データには構造化データと非構造化データがあり、それぞれオープンにして活用できる協調領域のデータと、企業の競争優位の源泉となる非公開の競争領域データがあります。こうした視点から自社のデータの現状を整理し、利活用できる状態になっているかどうかをデータ中心の視点で見ることが最初のポイントになります。

 特に非構造化データは、生成AIの登場によって活用機会が広がっています。オープンな文書情報を学習させて市場動向やリスクを把握したり、世界中の拠点に点在している自社独自のノウハウである「虎の巻」のような情報も生成AIで読み込ませることで、グローバル規模で活用できるようになります。

 実際にR&D領域のプロジェクトでは、ベテランの開発エンジニアが作成した文書からナレッジを効率的に抽出し、若手開発者が活用できる仕組みづくりへのチャレンジが広がっています。

AI運用イメージ 生成AI技術を「ナレッジの取り組み」と「ナレッジの活用」の2つに適用し、技術領域での効果的な活用を目指す

 また、サプライチェーン管理のポリシーを明確にしておくことも必要です。実際のビジネスでは販売部門だけ、生産部門だけの部分最適ではなく、様々な要素を組み合わせた「全体最適」を追求することがプライオリティーの1番目です。さらには、需要に対応するには優先順位づけが必要であり、計画の段階で意思決定のために事前にルールを設けられるはずです。これらのポリシーが明確になっていればAIのサポートを取り込みやすくなります。

AIというテクノロジーへの
理解が
より大きな
価値を生み出していく

――AI活用を成功させるポイントはどこにあるとお考えですか。

鈴村 まずユーザー視点でEnd to Endの活用シーンを描き、実現に向けたステップを考えることです。そこではデータ源となるERPやSCMパッケージも含めた対応を同時並行的に進めるためのロードマップを策定する必要があります。

 また、リーダーが変革によって自社が進んでいく方向を腹落ちし、周りに発信してプロジェクトに臨むことも重要です。様々な作業をAIが行うようになると、人は付加価値のある業務にシフトしていきます。その道を選択するという明確な意思も必要です。

 つまり、AIの力で従業員体験を変革していく。担当者が調整業務に追われる時代を終え、AIの助けを借りて、サプライチェーンプロセスを刷新し、顧客体験と企業価値を飛躍的に向上させる。サプライチェーンリーダーが活躍する時代になるということです。

――AI導入のリスクを指摘する声も聞こえてきます。

鈴村 確かにAIには間違った答えを出すリスクがあります。しかし、「だから使わない」ということにはなりません。人も間違いをしますが、組織のプロセスとしてレビューを重ねて判断するなど、全体的な仕組みでカバーしているはずです。AIも同様です。

鈴村敏央氏
「サプライチェーンは特にAIの活用が求められる領域です。迅速に対応できて顧客により大きな付加価値を提供できるようになります」(鈴村氏)

 サプライチェーンは特にAIの活用が求められる領域です。これまでは問題が起きてから対処する事後のプロセスに追われることがよくありましたが、AIによって変化を検知して予測できるようになると、迅速に対応できて顧客により大きな付加価値を提供できるようになります。

 サプライチェーンが本来の機能を実現し、管理業務にあたる担当者がより自分の能力を発揮できるようにするために、AIによるサポートを積極的に取り入れていってもらいたいと考えています。どんなプロセスや角度からでもお手伝いできるので、お気軽にご相談ください。

Profile

鈴村敏央

20年以上にわたり、様々な業界のサプライチェーン戦略立案や業務改革、システム構想・導入に携わる。近年はAI、IoT、アナリティクスを活用した業務改革プロジェクトを多数リード。現在、IBM コンサルティング事業本部にてファイナンス・サプライチェーン改革に係るサービス全体とサステナビリティーの責任者を務めている。

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