DXに残された課題は
価値創出の「ラストワンマイル」
―明電舎のDX(デジタルトランスフォーメーション)について概要をお聞かせください。
明電舎
DX推進本部
事業イノベーション部長
村松 勝 氏
村松 明電舎はインフラを支える重電メーカーです。発電・変電・送電などの電力インフラや、水のろ過・処理、電気自動車のモーターなど幅広く事業を展開しています。社会や産業において「電気のあるところに、明電舎あり」と言っても過言ではありません。「電気の力で世の中を豊かにする」という創業者の志は、今も脈々と受け継がれています。
明電舎
DX推進本部
事業イノベーション部長
村松 勝 氏
当社グループが定めるありたい姿・ビジョンの中で、「新しい社会づくりに挑む、サステナビリティ・パートナー」というキーワードを掲げています。DXの観点でビジョンの実現を支えるべく、2022年に当時の情報システム本部、ICT統括本部、全社業務改革プロジェクトなどが集まり、DX推進本部が設立されました。私が担当している事業イノベーション部は、「価値の創出とビジネスモデル変革」をミッションとし、ITを活用したコト売りに取り組んでいます。
アジアクエスト
取締役
デジタルトランスフォーメーション事業部
事業部長
藤田 義崇 氏
当社はこれまで、機器やシステムというモノを製造して販売するビジネスを行ってきました。これからも本業が変わることはありません。当社におけるコト売りの難しさは、製品自体の特殊性から経営層も現場も、そしてお客様も、製品そのものが持つ価値から発想を広げにくい点にあると思います。
アジアクエスト
取締役
デジタルトランスフォーメーション事業部
事業部長
藤田 義崇 氏
藤田 アジアクエストは「企業のDXを支援する」をミッションに掲げ、2012年に設立されました。DX推進において、多くの企業で課題として残っているのが、新規事業や、新たな価値をつくり出すラストワンマイル領域だと感じています。業務効率化の先へ、ラストワンマイル領域は、企業価値向上や社会課題解決につながる、経営戦略の重要テーマです。
アジアクエストの事業領域は幅広く、IoT/AI、クラウド、UI/UXほか各デジタル分野の専門テクノロジーチームを有する。社会の様々なシーンと密接に絡み、課題解決を支援する
村松 当初はコト売りで「何をするべきか」、答えが見つからず悩みました。現状打開のきっかけとなったのは、コロナ禍で当社製品を遠隔でリモート監視する仕組みの検討に着手したことです。従来、SCADA※と呼ばれる監視制御を目的としたシステムで、電力の供給状況をリアルタイムに監視していましたが、設備の巡視点検や定期点検は人がアナログに行っていました。人による点検は、当社、お客様、設備保守会社などが実施しています。人材不足が深刻化する中、電気という産業や社会の生命線をいかに守っていくか。点検業務から時間と距離の壁をなくすことは、社会的意義が大きいと考えています。
※SCADA:Supervisory Control And Data Acquisitionの略。装置などの監視・制御システムを指す。
特別高圧変電所※向けリモート監視サービスに3Dモデルを導入するという、漠然とした方向性のもとで開発に着手したのですが、うまく進みませんでした。ウォーターフォール開発は、要件定義を決めてスタートします。つくりながら価値を見つけ出す開発スタイルには向いていません。
※特別高圧変電所(特高変電所):電力会社から供給される特別高圧(特高)の電気を受電する施設。工場、ビル、デパートなどの施設で利用される。
藤田 新規事業開発や価値創出では何をするべきか、決まっているわけではありません。誰も答えを知らない中で、試行錯誤を繰り返し、価値を見出していくために、新しい開発スタイルや考え方が必要です。
村松 製品の完成度ではなく、価値を高めていくという観点から、アジャイル型開発アプローチの導入を進め、その過程でアジアクエストによる建設会社のIoT開発事例と出会ったのです。当社が目指すべき方向が示されており、アジアクエストへすぐにコンタクトをとりました。
藤田 当社には、「こういうことを実現したい」とういう強い思いで依頼されるケースが多くあります。当社開発事例における建設会社のケースもそうでした。アジアクエストは、お客様のDXプロジェクトと一体となって課題解決に取り組む開発スタイルをとっています。答えを先に決めるのではなく、一緒に答えを考え、理想を追求していく開発スタイルは明電舎のニーズにマッチしていたと思います。
アジアクエストの事業内容。企業と社会のDX実現のため包括的に取り組みを進める
村松 最初の段階で明確な要件定義やゴールを要求されないことに助けられました。曖昧なことも相談でき、チームとして一緒につくりあげていく。新しい開発スタイルに可能性を見出しました。
デジタル技術とビジネス
両方を知るエンジニアが参加
―明電舎とアジアクエスト、歴史も文化も異なる両社は、どのようにプロジェクトを進めたのでしょうか。
村松 3Dモデルを導入した特高変電所向けリモート監視サービスは、「MEIDEN CONNECT」というソリューション提供基盤となり、その第1弾を「特高変電所向けスマート保安サービス」と位置付けました。社内でアジャイル型の開発によるチームをつくり、そこにアジアクエストのエンジニアに入ってもらいました。デザイン思考で解決するべき課題を考え、仮説を立ててプロトタイピングし、ユーザーに使ってもらい、その声を反映し本当に価値あるものをつくっていく。場合によっては、そのアプローチを捨てて、新しい切り口に取り組む。そして価値を確認できたら、使いやすさを追求し改善する。当社の社員とアジアクエストのエンジニアは1つのチームとして課題解決に取り組みました。
藤田 当社のエンジニアはビジネスとデジタル技術の両方を兼ね備えており、明電舎のプロジェクトメンバーとビジネス観点で会話ができます。DXコンサルタントの場合、ビジネス部門とデジタル技術部門それぞれの話を聞いて、それを双方に伝えるといったコミュニケーションロスが発生します。当社のエンジニアがチームに入ることで、ディスカッション、開発、トライアンドエラーを高速に回すことができます。
村松 明電舎でも、ビジネスとデジタル技術の両方に精通したエンジニアの育成を目指しています。アジアクエストのメンバーと一緒にプロジェクトに取り組むことで、DX人材育成面でも効果があると考えています。
アジアクエストのエンジニアからは、特高変電所を実際に見たいというリクエストがありました。当社のメンバーは当然現場を知っているわけですが、それゆえにモノをつくることが目的になりがちです。DX時代におけるエンジニアのあるべき姿として、「価値を高めるためにどうするべきか」という発想を持ってもらいたいと思っています。
藤田 当社のエンジニアも今回プロジェクトに参加することで、ビジネス領域のレベルが飛躍的に成長しています。両社のプロジェクトメンバーが相乗効果を発揮することで、チーム力が高まり成果を得ることができたと考えています。
村松 「特高変電所向けスマート保安サービス」は、当社の沼津事業所内特高変電所で実用化を進め、2024年度に製品化が完了、2025年度からリリースを開始しました。本システムの導入で、常時監視による巡視点検周期の延伸(週次から月次)と、目視点検項目の一部自動化によって年間の巡視点検工数を87.3%削減できました。点検帳表の自動作成などにより、さらなる工数の削減を進めています。
コト売りの事業を拡大するためには、人材不足対策はもとより、設備の状態を監視し状態に応じてメンテナンスを行うCBM(Condition Based Maintenance)によってライフサイクル全体でコスト削減を図るなど、提供価値最大化を図ることが重要テーマとなります。そのため「MEIDEN CONNECT」というプラットフォームではスマート保安サービス以外のコンテンツ提供を検討中です。アジアクエストには複数プロジェクトに参加してもらっています。その中には、当社が幹事企業の1社である沼津版スマートシティ「X-Tech NUMAZU」に関わるコンテンツもあります。提供する価値の方向性は多様です。
ウォーターフォールとアジャイルの融合
ハイブリッド開発がトレンドに
―冗長性担保と価値向上はトレードオフの関係にあります。インフラを支える観点からどのように整合性をとるべきでしょうか。
村松 社会インフラを支える機器は、品質・信頼性に特化したモノづくりのため新しい技術の採用には慎重になる側面があります。信頼性最重視は、今後も変わりません。一方で老朽化するインフラ保守の継続は、機器メーカーの責務です。IoTを活用して保守メンテナンスを効率化するスマート保安サービスは社会課題解決につながるものです。信頼性重視のモノづくりと、価値向上のサービスを融合できるのが、明電舎の強みだと思っています。
特高変電所に設置されたカメラ。スマート保安サービスを構成する「メーター読み取り」を実現するIoTとして、今後のユースケース拡大を視野に入れる
藤田 重厚長大な基幹システムは、ウォーターフォール開発が適した領域だと思います。当社も、用途やニーズによって、ウォーターフォール開発、アジャイル開発、両方を組み合わせたハイブリッド開発を使い分けています。ウォーターフォール開発で基幹システムをつくって、アジャイル開発で周辺システムをうまくつなげていく。ハイブリッド開発が今後は主流になると思います。
村松 一般的なモノづくりにおいて、製品出荷時は不具合ゼロが基本です。アジャイル型の開発アプローチを採用するサービス分野では、価値の提供を優先するため不具合にレベルをつけて、クリティカルでなければ次のアップデート時に対応するなど品質管理の考え方が異なります。デジタル時代では、すべてのステークホルダーが、従来型の一面的な品質に留まらず、顧客体験価値を最大化させることが、より大きな価値につながるというマインドへシフトすることが重要になると考えています。
藤田 提供する品質を完璧にするプロダクトアウトと、販売後にユーザーのフィードバックを重視し改善していくマーケットインを切り替えていく考え方ができると、DXを支えるインフラの姿が見えてくると思います。
価値創出では受託・委託の関係と
異なる開発スタイルが重要に
―受託や派遣と、アジアクエストの新しいビジネスモデルとの比較で、投資観点の違いはどこにあるのでしょうか。
藤田 通常、企業から委託を受けて行う受託開発では、要件を満たしたシステムをつくることで対価が支払われます。チームの中に入り課題解決に取り組む、当社のビジネスモデルは従来型の受託開発と異なるものです。必要なスキルセットを持ったエンジニアを用意し、チーム内で活動する人数と時間による費用換算となります。派遣社員と異なるのは、組織として対応するという点です。アジャイル開発の各プロセスに適したエンジニアを、お客様のチームに参加させるとともに、現場で生じた課題に対して当社内で解決策を議論し、現場をフォローします。
村松 アジアクエストのエンジニアは、当社チームの一員として活躍していますが、バックボーンに組織があるという信頼感は大きなものがあると思います。当社のアジャイル型開発プロジェクトは、これから経営に貢献するビジネス成果が求められるステージに入ります。成果に結びつく種の増加と、事業化による利益拡大の両輪が必要です。前者だけでなく後者に関してもアジアクエストに期待しています。アジアクエストとのビジネス関係も人数と時間で成立するのではなく、成果報酬的な考え方も組み込んだ形があるのではないかと考えています。当社ソフトウエア開発の考え方や仕組みの整理なども必要となるため、すぐに対応するのは難しいのですが、検討すべきテーマだと思っています。
「特高変電所スマート保安サービス」の画面イメージ。特高変電所のプロジェクトを経て、汎用性の高いソリューション提供基盤「MEIDEN CONNECT」をアジアクエストとともに開発。2025年度のリリース開始に至る
藤田 村松さんから、派遣ではなく組織として対応するという点を高く評価していただきました。ビジネス成果に対してコミットできるように、当社の仕組みを整備しています。プロジェクトで一緒につくったプロダクトを、当社が販売したり、販売パートナーと組んで販路を拡大するといったケースも出てきています。明電舎とも共創パートナーとして、価値創出はもとよりビジネス貢献の面でも関係強化を図っていきたいと思います。

| 本社 | 東京都 |
| 創業 | 2012年 |
| 概要 | アジアクエストは、企業のDX実現に必要なコンサルティングから、デジタルテクノロジーを駆使したシステムの設計、開発、運用までを一貫して伴走支援する。IoT、AI、Cloud、Mobile、Web、UI/UXの各デジタル分野の専門テクノロジーチームを有し、企業のゴールに向けて最適なプロジェクトチームを編成。DXに関する豊富な知見と幅広い技術力により、ビジネスモデルの有効性や技術的な課題を検証するためのPoCの実施やデジタルに対応した大規模なシステムの構築まで、スピーディーな対応を可能とする。 |
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