トップ企業CEOに聞く 日本企業変革に財務経理部門は何をなすべきか

大日本印刷における「三位一体」の経理DXに学ぶ
前例主義になりがちな経理部門にチャレンジ精神を埋め込む

ブラックライン株式会社 代表取締役社長
宮﨑 盛光
大日本印刷株式会社 専務取締役 経理本部担当 法務部・監査室担当
黒柳 雅文
──まずはDNPの経営方針についておうかがいます。

黒柳雅文氏(以下、黒柳) 当社は長年、受注産業としてビジネスを拡大してきました。お客様の求めに応じて製品を開発・提供するというマインドが、どうしても強くなりがちです。しかし、これからは将来を予測した上で自ら動き、お客様に先回りして新しい製品・サービスを提案する。そんな方向へのシフトを目指しています。7年前、現在の社長が就任したころから、こうした動きを意識して「第三の創業」という言葉を使っています。付け加えると、「第二の創業」は戦後の経済成長の中で、印刷技術をテコに様々な事業領域を開拓した時期です。
大日本印刷株式会社
専務取締役
経理本部担当
法務部・監査室担当
黒柳 雅文
宮﨑盛光氏(以下、宮﨑) 「第二の創業」で様々な領域に事業を拡大したチャレンジ精神が、脈々と受け継がれているのでしょう。それが、第三の創業につながっていますね。

──経理部門の役割と、その一環としての資本市場との対話についてどうお考えですか。

黒柳 財務戦略や資本政策について、当社では経理部門が担っています。全社で企業価値向上に取り組む中で、その役割の重要性は増しています。現行の中期経営計画(2023~25年度)については、骨子を2023年3月に、全体を2023年5月に公表しましたが、この公表に先立ち、2023年2月に、DNPグループの経営の基本方針として、「ROE10%」の目標を掲げ、「PBR1.0倍超」の早期実現を目指すと宣言しました。この発表の数週間前に、アクティビストが大株主になったと報じられたことから、その対応として高い目標を設定したのではないかとも言われましたが、私たちは以前より、自ら、投資家との面談を積極的に行った上で会社としての方針を策定するなど準備を進めており、その内容を公表しました。投資家との対話は重要ですので、今後とも経理部門としても積極的に参画していきたいと考えています。

──昨今の経理部門を取り巻く環境をどのようにとらえていますか。

黒柳 外部環境は、過去数十年間で大きく変化しました。日本における会計基準はIFRS(国際会計基準)に近づきつつあり、過去何度かの改正が行われています。四半期決算の導入や内部統制強化などの動きもあり、経理部門の負荷は高まるばかりです。経理業務の変革を進める背景には、こうした状況があります。当社における経理DXへの取り組みが本格化したのは4~5年前。ERPの刷新プロジェクトのスタートがきっかけでした。
ブラックライン株式会社 代表取締役社長 宮﨑 盛光氏
ブラックライン株式会社
代表取締役社長
宮﨑 盛光

CFOが挑戦する姿に、現場のチャレンジ精神が刺激される

──4~5年前にスタートしたプロジェクトの狙いや考え方についてお聞かせください。

黒柳 旧基幹システムのサポート切れにより、その刷新を迫られたのがきっかけです。しかし、ERPを導入してシステムを入れ替えるだけでは、従来業務とさほど変わらず効率化も限定的です。経理DXにつながらないと悩んでいたとき、BlackLineに出会い、説明を聞いて「これが欲しかった」と思いました。そこで、プロジェクト規模は大きくなりますが、ERPとBlackLineの導入をほぼ同時期にスタートさせることにしました。BlackLineを活用することで、経理業務の変革ができると確信したからです。プロジェクトが掲げたのは「三位一体の変革」です。システムと業務、組織を一体で変革する。BlackLineによって、経理の自動化などが大きく進展しました。また、経理組織を統合するわけではありませんが、経理業務の集約を進めているところです。

──組織変革について具体的にお聞かせください。

黒柳 DNPグループ各社の経理業務を、経理に精通するグループ会社に集約します。現在進行形のプロジェクトですが、これによりグループ各社の負荷を軽減するとともに、全体としての業務効率向上を目指します。三位一体ということで、プロジェクトメンバーは苦労したと思いますが、その中で経理人材が大きく育ちました(図1)。 宮﨑 日本においては、経理業務の集約にまで踏み込んだ企業は少ないように思います。非常にチャレンジングな取り組みで、経営者としての覚悟を感じます。一般論ですが、CFOが部下に対して「ミスは許さない」といった姿勢では、現場は挑戦しようという気にはならないものです。黒柳さんが挑戦しているから、現場も挑戦できる。ブラックラインはDNPの経理DXに伴走しながら、素晴らしいプロジェクトチームだといつも感じていました。経理を中心に、DNPグループのITベンダー、当社を含むコンサルタントなど多くの企業が参加した混成チームですが、プロジェクトリーダーのもと、全員で成功をつかんだという感覚です。

黒柳 メンバーがこのDXを「自分事」ととらえ、仕事に向き合ったことが大きいと感じています。困難を乗り越えながら、特に若手のリーダーや社員が大きく成長しました。とてもうれしいことです。

経理DXで生み出した時間を企画づくり、トレーニングに使う

──BlackLineの導入効果についてうかがいます。

黒柳 当社は得意先が多く、請求書発行、請求と入金の消込には多大な労力を要していました。しかも、請求額と入金額がマッチしないケースも少なくない。売上の計上後に単価訂正などが行われることもあるからです。BlackLineは消込のロジックを定義した上で、請求と入金を照合します。この仕組みにより、大幅な効率化を実現するとともに、属人性を排除することができました。

 もう1つの例は、決算の進捗管理です。グループ各社の中で、ときに決算の進捗が遅れるケースがあります。1社が遅れるだけでも、連結決算をまとめることはできません。以前は急に遅れを知らされて、本社の経理部門が慌てたこともあります。BlackLineを活用することで各社の決算の進捗が可視化され、遅れているグループ企業には支援が可能になります。

宮﨑 経理部門の残業が減り、その分の時間を次の挑戦に向けた企画づくりやトレーニングに使うこともできる。経理DXのお手本といえるのではないでしょうか。

黒柳 残業が減れば個人にとってもうれしいし、会社にとっては効率化を意味します。プロジェクトには投資が欠かせませんが、中長期的に見て十分回収できると考えています(図2)。
──黒柳さんは、BlackLineのユーザー会会長をお務めとうかがいました。

黒柳 一般的に、経理部門が他社の同部門とコミュニケーションを取ることは、これまであまりなかったと思います。「自社の情報を守る」という意識からか、意見交換の場もあまりありませんでした。ユーザー会では、ほかの業界で経理を担う方々とも率直に意見を交わしています。業界は異なっても、経理部門の悩みには共通する部分も多い。フランクな会話を通じて、お互いに学び、ヒントを得ることも多いですね。

宮﨑 経理は褒められることの少ない部門です。しかし、ユーザー会で自社の取り組みを話したりすると、周囲から「すごい」「先進的ですね」と声を掛けられることもあります。その意味では、モチベーションを高める機会にもなっています。

──最後に現在の、あるいは未来の経理を担うリーダーに向けてメッセージをお願いします。

黒柳 経理部門はどうしても前例主義になりがちです。しかし、過去を踏襲するのではなく、現時点で最もいいやり方を考えることが大事です。また、チーム全体が向き合っている仕事を「自分事」だと思うことも重要。この2つが、私が普段心掛けていることです。

宮﨑 本気でDXを行おうとすると、上乗せ分の負荷がかかります。そこで、「現在はリソースが足りない」と先延ばしにしてしまう企業は少なくないでしょう。しかし、現在の状態を続けたままで、経理部門に余裕が生まれることはあるのでしょうか。ほかの多くの企業もDNPのように、あるタイミングで、経営者が覚悟を決めて一歩を踏み出す必要があると思います。
問い合わせ
ブラックライン URL:https://www.blackline.jp/
E-mail:contact@blackline.jp