トップ企業CEOに聞く 日本企業変革に財務経理部門は何をなすべきか

DICのグローバルビジネス成長へのチャレンジと
経理財務業務の変革に向けてCFO組織が担う新たな役割

ブラックライン株式会社 代表取締役社長
宮﨑 盛光
DIC株式会社 取締役 専務執行役員 財務経理部門長 最高財務責任者
浅井 健
──DICが推進する「DIC Vision 2030」の概要と事業の現況について教えてください。

浅井健氏(以下、浅井) DIC Vision 2030は2022年にスタートした長期的な経営計画で、2030年に売上高1兆3000億円、営業利益1200億円を目指しています。地政学要因を含めて大きな環境変化が生じたことから、中間目標を一部修正しましたが、事業構造改革やコスト削減などの取り組みを進めた結果、2025年は修正目標の営業利益400億円をかなり上回る見通しです。
DIC株式会社 取締役 専務執行役員 財務経理部門長 最高財務責任者 浅井 健氏
DIC株式会社
取締役 専務執行役員
財務経理部門長 最高財務責任者
浅井 健
宮﨑盛光氏(以下、宮﨑) トランプ関税の影響については、どのように見ていますか。

浅井 直接・間接、両面の影響があります。前者は米国への輸出で、一定の影響があります。ただ、印刷用インキや顔料など地産地消型のビジネスも多く、こうした分野への影響は少ない。一方、自動車などの輸出が減れば、材料を提供する当社にも影響が及びます。そのマグニチュードについては、現段階での予測は困難です。

──CFOおよびCFO組織の役割について、どのようにお考えでしょうか。

浅井 上場企業として、社会から企業価値、株主価値の向上を求められるのは当然です。当社としては資本収益性を高めることに注力しており、そのために5年ほど前からROIC(投下資本利益率)ベースの経営管理に取り組んでいます。3つの事業部門ごとにROICを算出し、その改善に向けた施策を推進しています。事業部門のマネジメントの質も高まってきており、2024年からはこの指標を開示しています。

宮﨑 グローバルな経営体制という観点ではいかがですか。

浅井 3つの事業という縦軸、世界4極(欧米、アジア太平洋、中国、日本)で構成される地域の横軸があります(図1)。縦軸と横軸、それぞれにどの程度の権限・責任を付与するか。絶対的な正解はありませんし、多くの企業が悩んでいるテーマでしょう。縦軸と横軸のコンフリクトは避けらないのかもしれませんが、場合によってはビジネススピードの低下などの事態を招くこともあります。また、縦軸と横軸の両方で一部重複する機能を持つことにより、コストアップの要因にもなります。そこで、2026年からは地域軸の役割から収支責任を外し、事業軸のサポートに徹してもらう形に改めます。CFO組織としては、その準備を進めているところです。 宮﨑 大きな組織改革ですね。CEOとCFOをはじめとする経営陣には、相当の覚悟が求められるように思います。
ブラックライン株式会社 代表取締役社長 宮﨑 盛光氏
ブラックライン株式会社
代表取締役社長
宮﨑 盛光
浅井 確かに簡単なことではありませんし、大きなチャレンジです。しかし、何よりも経営として「正しい」と判断したことを、実行に移すことが重要です。チャレンジを通じて、マネジメントチームも成長できると考えています。

業務の専門性に加え、ITリテラシーが求められる時代

──DICは経理財務業務のSSC(Shared Service Center)化にも取り組んでいるとお聞きしています。

浅井 グローバルで先行しているのはアジア太平洋地域です。アジア太平洋では12の国と地域に21社のグループ会社があります。現在、SSC化の最終段階に入っており、2026年には完了する予定です。これにより、業務プロセスの標準化、業務の効率と品質の向上が見込めますし、ガバナンスレベルも高まります。SSC化の取り組みは2016年に始まりましたが、SSCの人員増と個社の人員減を合わせたネットで、43人のリソースシフトにつながりました。また、個社の経理財務責任者の負荷軽減により、戦略的な業務へのシフトが進んでいます。

宮﨑 当社が提供する経理業務変革のプラットフォーム「BlackLine」は、2022年にDIC様に導入いただき、業務プロセス標準化や効率化を支援してきました。既にアジア太平洋のSSCの一部業務でもご活用いただいていますが、今後はより幅広い業務でお役に立ちたいと思っています(図2)。
──BlackLineと連携する経理財務システムについてうかがいます。

浅井 比較的早い時期から、SAPを活用しています。全世界のSAPデータを一種のデータレイクに集約し、どこからでも事業の詳細を把握することができるようにしています。管理会計の観点では、コックピットと呼ぶ仕組みでビジネス状況を可視化しています。

──近年、FP&A(Financial Planning & Analysis)というキーワードをよく聞くようになりました。DICではFP&A機能をどのように位置付けているのでしょうか。

浅井 各事業部門内の事業企画部が、実質的なFP&A機能を担っています。具体的には事業戦略企画、予算策定、業績管理などの役割です。これとは別に、コーポレートの経営企画部門に設置したインテリジェンス室が世界のマクロ経済状況、各地域の市場動向などの情報収集、分析などに当たっています。事業企画部、インテリジェンス室、CFO組織は日常的に密に連携しています。円滑な連携のためにも、経理財務部門と事業企画部の人材交流は重要です。両方の部門での経験は、各人の成長にもつながります。人事異動を通じた人材育成は、本社と海外拠点の間でも強く意識していることです。

宮﨑 FP&Aは欧米で生まれたコンセプトですが、定着化に苦労している日本企業は少なくありません。CFOの直下にFP&Aチームを置く欧米流をそのまま導入して、行き詰まるケースもあります。FP&A機能を事業部門内に置くというDIC様のやり方は、日本企業に適したアプローチといえるのではないかと思います。重要なことは、FP&Aで「分析すること」自体ではなく、「分析結果に基づいて組織が動くこと」です。日本企業が素早く組織的に行動する上では、事業部門にFP&A機能を持たせるというのは1つの解決策だと思います。

──今後、CFO組織はどのような方向を目指すべきでしょうか。

浅井 FP&Aチームとの人材交流を含め、人材の育成・強化には今後とも注力します。一方、AIやデジタルツールの進化などに見られるように、経理財務として活用できる手段はますます増えています。業務の効率化や精度向上の余地は大きい。こうしたツールを使いこなすためにも、ITリテラシーの向上は必須です。それは経理財務だけでなく、あらゆる部門にいえることでしょう。また、BlackLineをはじめとするパートナー各社が取り組む機能拡張にも大いに期待しています。

宮﨑 ご期待に応えられるよう、全力を尽くしたいと思います。また、ITリテラシーについてはまったく同感です。経理財務に関する専門性はもちろんですが、加えてAIやデジタルについても一定の知識が求められます。グローバルビジネスを展開する企業にとっては、語学力の重要性も高まっています。個人にとっては厳しい時代かもしれませんが、だからこそ成長が加速されるという言い方もできるのではないでしょうか。
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