トップ企業CEOに聞く 日本企業変革に財務経理部門は何をなすべきか

グローバル展開を積極化するNXグループ
IFRS対応・連結納税で経理財務基盤整備

ブラックライン株式会社 代表取締役社長
宮﨑 盛光
NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社
常務執行役員 経営戦略本部長 兼 日本通運株式会社 取締役常務執行役員
大槻 秀史
──NXグループのグローバルでの事業展開についてお聞かせください。

大槻秀史氏(以下、大槻) 当社は長い間、国内事業を中心に成長してきましたが、日本企業の海外進出に伴い徐々に海外事業を拡大し、最近はそのスピードが加速しています。M&Aなどを進めたこともあって海外事業の売上高比率は4割に近づいており、2037年にはこれを5割に引き上げたいと考えています。日系企業以外のお客様の獲得は大きな課題です。
NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 常務執行役員 経営戦略本部長 兼 日本通運株式会社 取締役常務執行役員 大槻 秀史氏
NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社
常務執行役員 経営戦略本部長 兼
日本通運株式会社 取締役常務執行役員
大槻 秀史
──そうした中で、CFOやグループのCFOにはどのような役割が求められていますか。

大槻 NXグループにおける役割は大きく2つ、企業価値の向上とグローバル化の推進です。企業価値向上の観点では、2025年2月に公表したレポートで、2024年に3.8%だったROE(自己資本利益率)を8.0%に高めるという目標を掲げました(図1)。政策保有株式の見直し、自己株式取得といった取り組みのほか、低収益不動産の売却を進めています。不動産売却などで生み出したキャッシュは、海外でのM&Aをはじめとする攻めの施策に投じます。 宮﨑盛光氏(以下、宮﨑) 企業価値向上はすべてのCFOにとってメインのテーマですが、目標に至るためのルートは多様にあります。最近は、資本市場から株価の向上を求める圧力が高まっており、それに正しく向き合うためには、回り道のようですが、自らを変革して株価と時価総額を高めるのが最良の道でしょう。
ブラックライン株式会社 代表取締役社長 宮﨑 盛光氏
ブラックライン株式会社
代表取締役社長
宮﨑 盛光
大槻 企業価値向上に向け、社内で必要な施策もありますが、社外との対話もまた重要です。IR活動などを通じて、投資家・株主の方々が当社をどのように見ているのか、何を期待しているのかを深く理解する努力を徹底しています。

スピード重視で、3つの大規模プロジェクトを5年以内で完遂

──そうした変革を下支えするプロジェクトITSはどのようなものだったのでしょうか。

大槻 このプロジェクトは、IFRSと連結納税(TAX)、ERPの導入により、グローバル経営の基盤づくりを目指したものです。

 基本方針は3つ。第1に、「合理的に質を落とすが、スピードは落とさない」。100点を目指すのではなく、80点でもいいのでスピードを重視しました。第2に、「小さな成功体験を積み上げる」。プロジェクトメンバーのモチベーションが成否を左右すると考え、個々人が達成感を得られるよう工夫しました。第3に、「仕組みを変えることにより、企業文化を変える」。プロジェクトITS自体は予定より1年早く完了しましたが、この企業文化の変革は道半ばと考えています。

宮﨑 国内外のグループ従業員数7万人を超える大きな組織にもかかわらず、IFRSとTAX、SAPに関する変革を5年かからずにやり切ったというのは、驚異的なスピードであり、多くの大企業にも学ぶべきところがあります。大槻さんをはじめとするリーダーが掲げる確固たる方針、プロジェクトの意義やビジョンを繰り返し社内外に発信したことが、大きな成果につながったのではないでしょうか。

──グローバル経営の基盤整備は、既に効果を生んでいるのでしょうか。

大槻 具体的な効果が出てくるのは、これからだと思っています。ただ、統合された仕組みの中に国内外の多種多様なデータが集まるようになり、高度な分析やデータドリブンの意思決定の基盤ができた意味は大きい。この基盤の上で業績管理、あるいは管理会計のあり方も見直していきます。将来的には、非財務KPI(重要達成度指標)がどのように財務KPIに影響を与えるのかを可視化し、事業と経営の改善に生かしたいと考えています。

──効果を生み出すためのアプローチとして、具体的にはどのようなものが考えられるでしょうか。

大槻 NXグループはグローバルでCRM(顧客関係管理)の仕組みを活用しています。ここにはお客様と営業活動に関する情報が集まっており、ERPと連携させれば新たな気付きが得られると考えています。例えば、営業担当者の何らかの行動が、数カ月後の売上増に効くことが分かったとしましょう。その行動を世界展開すれば、業績にもインパクトがあるはずです。いずれにしても、ERPなどに蓄積したデータをいかに活用するかは今後の重要なテーマです。

デジタルで業務を効率化する一方で、高度人材を育成する

──経理財務業務でもAI(人工知能)活用が広がりつつあります。AIに対してはどのような考え方をお持ちですか。

大槻 月次、週次での繰り返し業務が多いので、そうした分野ではAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを活用して効率化を進めていきたいと考えています。

 一方、経理財務部門にはこれまで以上に高度な役割が求められるようになりました。例えば、事業部門の仕事を深く理解した上で、業績管理のあり方を見直し事業の成長に貢献する。あるいは、グローバルでのキャッシュマネジメントやタックスマネジメントの最適化を図る。NXグループにとっても、これらは今後の課題です。こうした課題に向き合い、解決策を提案できる高度な人材が求められています。

宮﨑 おそらく、多くの日本企業が同じ課題を抱えていると思います。最近は、経理財務部門の役割として、FP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)というキーワードをよく聞きます。従来、経理部門というとミスなく数字をまとめるというイメージが強かったかもしれませんが、事業と経営をサポートする役割が大きくなっています。

 当社の提供する決算プラットフォーム「BlackLine」は、そうした経理業務変革を推進する企業をサポートしています。ERPを補完して決算業務を効率化するという面でも多くのお客様にご利用いただいています(図2)。ユーザーの生産性が一層向上するよう、NXグループをはじめお客様のフィードバックを得ながらいまも進化し続けています。 大槻 多くの企業において、高度な人材は繰り返し業務の経験を通じて育ってきたのだと思います。AIやデジタルによって繰り返し業務が少なくなれば、人材育成の機会も減るかもしれません。そこは、経理財務を統括する者として、大きな危惧を抱いています。逆に、BlackLineのようなツールによって時間を生み出すことで、その時間を使って高度な人材を育成するというのは1つの方向性だと思います。多彩な専門家の知見をお借りしながら、次の時代の経理財務の形を追求していきたいと考えています。
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