海上輸送は国際的な物流の99%以上を占め、日々膨大な量の貨物が世界中を行き交っている。貨物の種類や形状は多様であり、効率的な取り扱いには整理・標準化が不可欠だ。
1960年代に登場した「海上コンテナ」は海運業界に革命的な変化をもたらすことになった。規格化された金属製のコンテナにより、積荷は水濡れや盗難のリスクを軽減し、積載効率や港湾での荷役作業の迅速化を実現。また、トラックや鉄道への接続性にも優れ、時として保管庫としての機能も果たすなど、物流の効率化全体に大きく貢献している。
1904年にデンマークで創業したマースクは現在世界130カ国に拠点を置き、700隻以上のコンテナ船を運航している。コンテナ船による海上輸送を主力事業として成長してきた企業だ
コンテナ輸送においては、港湾側にガントリークレーン、ヤード、作業リソース、十分な水深などのターミナル設備が必要だが、従来の在来船輸送と比べて荷役のスピードと効率が飛躍的に向上した。近年では積載量20万t級のULCV(超大型船)の建造も進み、物流の効率化はさらに加速している。
総合物流としてシナジー創出
統合サービスで価値を高める
A.P.モラー・マースク
北東アジア地区CEO
西山 徹 氏にしやま・とおる 1979年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2002年マースク入社。中国・タイ・本社(デンマーク)などで事業開発・営業責任者・経営戦略室ディレクターを歴任し、2018年より北東アジア地区最高経営責任者兼日本支社長を務める。
海上輸送の世界が拡大を続ける中、共に成長を遂げてきたマースクが決断を下す。2016年を境に、海運会社から統合物流企業への事業構造を転換するというのだ。「当時、物流サービス全体をワンストップで提供できる事業者はいませんでした。それなら自分たちでやろうと、事業構造の転換に乗り出したのです」と西山氏は経緯を語る。
実現可能なシナリオは明確だ。「総合物流でトップクラスになるには、海運はもとより、各セグメントでトップ10に入ることが必要です。当時、海運は世界一、ほかの物流サービスもターミナル運営もこの条件を満たしていました」(西山氏)
当時は海運事業のほか、石油事業や金融事業などにも手を広げていた。そこで事業ポートフォリオの見直しを行い、経営資源の最適化を目的として選択と集中を実施。コアである海運事業を柱に、順次必要な機能を取得してきた。
機能強化の過程を西山氏はこう総括する。「オーガニックに機能強化を図るのも不可能ではありませんが、時間が10年単位でかかってしまいます。そこで、機能的補完性の高いプレイヤーをM&A を通じて取り込むことで成長施策としてきました」
統合物流としての狙いは、シナジー創出による、顧客への高度なサービス提供。「顧客ニーズにワンストップで応じるのが、基本路線です。統合サービスの提供を通じて顧客価値を高めていきます」(西山氏)
2024年度の実績によれば、全社の売上高は米ドルで554億8200万ドル。事業領域別で見れば、海運は373億8800万ドル、ほかの物流サービスは149億2000万ドル、ターミナル運営は44億6500万ドルを計上する。
海運以外の物流サービス分野は全体の約27%。「それでも外資系のフォワーダーや3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)と比較しても遜色ない規模に成長しています。加えて保有・運営するコンテナターミナルは世界60拠点。これら全てに海運を組み合わせて、統合物流サービスを展開しています」と西山氏は胸を張る。
コンテナのインターモダル輸送以外のミドルマイル、ラストマイル輸送でもマースクはサービスを強化している。海運やターミナルと組み合わせ統合物流会社としての体制を整える。
そうした事業展開を進めていく上で輸送状況の可視化ツールであるTMSが欠かせないのは、なぜか。西山氏の答えはこうだ。「統合サービスの価値をより向上させるには、モノの流れとともに情報の流れを整える必要があるからです」
情報の流れを整えること、すなわち「可視化」。その活用には2つのステップがある、と西山氏は指摘する。「1つ目は『予見』です。可視化により、需要予測、経営予測、リスク察知などを実施できます。二つ目は『実行』。予見結果に基づき対策を講じたら、それを迅速に実行していくのです」
例えばコンテナ船の輸送に遅延が発生した場合を想定してみよう。
「従来は、遅延があっても事後報告が主流。貨物が港に着いてから、荷主は遅延リカバリーのために緊急配送の手配に追われます。それでは不確実性を伴うしコストも高い。しかし予見が可能な統合物流会社なら、そうした事態を事前にシミュレーションして対応策を講じることができます」と西山氏は訴える。
まず可視化によって早期の段階で遅延予測が可能になる。サプライチェーンにとって致命的な遅延と分かれば、荷主と協議して、前の寄港地で航空輸送に振り替えたり、調達・生産側の調整をサポートするなどの対策を立てられる。しかも統合物流会社なら、航空便など代替手段を自前で手配することが可能。その提案は実効性が高い。
物流関連2法対応に「MOVO Vista」を
さらなる「攻め」の活用にも意欲
予見に基づく対策提案を確実に実行させることで、統合サービスならではの顧客価値を提供する――。統合物流業者としてTMSを取り入れる狙いは、そこだ。
マースクは2023年、物流DXパートナーのHacobuが提供する配車受発注・管理サービス「MOVO Vista」を導入。現在、荷主50社・サプライヤー30社のトラック輸配送データを一元管理している。
導入理由は、費用対効果と初期投資の抑制にある。「費用対効果が高いです。このシステムの導入で生産性がどの程度改善されたか、円に置き換えて投資額と比べてみました。また『MOVO Vista』はサブスク制(定額課金)なので、ほかのシステムに比べて初期投資が抑えられる点が魅力でした」(西山氏)
また「MOVO Vista」は冒頭掲げた物流関連2法へも対応している。物流の効率化だけでなく、データを活用して新法が求める適正な取引を支援するツールでもある。コンプライアンスを重視した経営を目指す企業にとっては力強い味方だ。
西山氏は「MOVO Vista」の活用を通じた、新たなビジネスモデルの創造にも意欲的だ。「効率のより良い配車ルートを検討したり、高パフォーマンスの運送事業者に貨物を集約したりするなど、輸配送効率を上げるための客観的な判断材料として利用していきたいと考えています」
「攻め」の活用はさらに続く。その一つには、コンテナラウンド輸送の実現がある。
ラウンド輸送とは、輸入のコンテナ貨物を内陸の拠点で荷下ろしした後、空コンテナに輸出貨物を積載して港に戻す方式。「空のコンテナは売り上げを生み出しません。燃料、人、時間というロスをなくすことで、事業上のメリットに結び付けられます」(西山氏)
「MOVO Vista」はそんなニーズのマッチングにも活用できる。空になったコンテナを、安価に再利用したい輸出荷主は潜在的に多数存在しており、案件数の増加とともにデータが蓄積されることで、ラウンド輸送の実現可能性はさらに高まっていく。
また、輸出者・輸入者双方にとってコスト削減が可能となるだけでなく、ラウンド輸送の推進は脱炭素化にも寄与する。西山氏は「まさにプラットフォームが仕事を創出する時代の象徴であり、その実現可能性は高いと思います」と将来に期待を寄せる。
荷主やサプライヤーの輸送データを「MOVO Vista」で集約し、一元管理。ラウンド輸送における荷主同士のマッチングや、海と陸をまたいだ輸送効率化など、様々な取り組みのベースとなりうる
「今後輸配送のデータが蓄積されていけば、AIを用いたマッチング機能を通じてラウンド輸送で相性のいい組み合わせを見いだすことが可能です」。A.P.モラー・マースク北東アジア地区アジア混載貨物・インターモダル事業部部長の牛込有二氏は期待を寄せる
一方、トラックだけではなく内航船や他の輸送モードでも「MOVO Vista」は応用できるのでは、と西山氏は考える。「トラック以外の輸送モードは事業者が限られますから、プラットフォームへの取り込みもしやすいはずです」
現在日本では、内航船はトラック輸送に近い本数のコンテナを運んでいる。「内航船輸送はトラック以上に所用日数を要しますが、CO₂排出削減という環境面では優れた輸送方法と言えます。可視化のメリットは、トラックの配車チームで既に実感していますので、今後、内航船の輸配送データ一元化にも、ぜひ活用していきたい」と西山氏は意気込む。
マースクでは現在、グローバルで数千人規模のエンジニアを抱え、TMSをはじめとする各種システムの開発に余念がない。統合物流企業として、差別化可能なサービスを生み出していくために、IT分野にも積極的な投資を進める戦略だ。それでも「MOVO Vista」を活用するのは、自社開発システムの導入を待てないという理由だけではない。
「自社開発するのはあくまでグローバル統一のユニバーサルシステムです。一方で地域単位では、その土地の法規や市場の特異性にフィットするローカル向けのシステムを取り入れて連携を取らないと、真に実効性の高い業務につながりません。そのため、ローカルパートナーの存在は不可欠です」。統合物流会社としての可視化戦略の中、西山氏はHacobuをそのローカルパートナーと位置付け、重要な役割を担わせる。
取材後、株式会社Hacobu 代表取締役社⻑CEO 佐々⽊ 太郎 氏(右)と共に、可視化戦略への意気込みを語った西山氏(左)
取材を終えて
西山CEOのお話を伺っていてとても印象的だったのは、戦略が明快でありながら、一貫したストーリーとして描かれていることでした。加えて、それをグローバルで統一された形で実行している点に、同社の強さの一端を感じます。さらに、その戦略ストーリーの中で物流DXが綺麗にはまっている。強く刺激を受けました。当社としても、同社の戦略実行に引き続き貢献し、共に物流の未来を形づくっていきたいと考えています。
株式会社Hacobu 代表取締役社⻑CEO 佐々⽊ 太郎 氏

| 本社 | 〒108-0014 東京都港区芝5-29-11 G-BASE田町4F |
| 創業 | 2015年6月30日 |
| 事業 内容 |
クラウド物流管理ソリューション「MOVO(ムーボ)」シリーズと、物流DXコンサルティング「Hacobu Strategy(ハコブ・ストラテジー)」、物流DXシステムインテグレーション「Hacobu Solution Studio(ハコブ・ソリューションスタジオ)」を展開。5年連続シェアNo.1(※1)のトラック予約受付サービス「MOVO Berth」、動態管理サービス「MOVO Fleet」、配車受発注・管理サービス「MOVO Vista」、AI発注・輸送最適化サービス「MOVO PSI」などのクラウドサービス、ドライバーの働き方を変えるスマホアプリ「MOVO Driver」の提供に加え、物流DXパートナーとして企業間物流の最適化を支援している。※1 出典 デロイト トーマツ ミック経済研究所『スマートロジスティクス‧ソリューション市場の実態と展望【2024年度版】』 https://mic-r.co.jp/mr/03240/ バース管理システム市場の売上⾼および拠点数におけるシェア |
