サプライチェーンの課題を
デジタル活用でまず可視化
サプライチェーン全体を見渡しにくい――。荷主企業が共通に抱える問題である。通常は、調達、生産、販売、と部門単位の縦割りになりがちで、その結果、全体最適を図りづらい。縦割りを排除する絶好の機会と言えるのが、物流統括管理者(CLO)の設置である。サプライチェーン全体を見渡す視点に立ち、デジタル活用で課題をまず可視化し、対応策を実行する。サプライチェーン再構築への道筋を、西成活裕氏と芳賀寛氏の2人が語り合う。
東京大学
工学系研究科航空宇宙工学専攻
先端科学技術研究センター(兼任)
教授
西成 活裕 氏
西成 物流はいま、研究の柱の一つです。工場内の物流に関わるうちに、出荷した先にも興味を持つようになりました。物流会社は人海戦術で課題を乗り越えてきたと共同研究先から聞いていたので、得意の数学や物理を生かせば、もっと科学的に最適化を図れるはず、と考えたのです。所属する先端科学技術研究センターには、高度物流人材の育成に向けた寄附研究部門を民間企業と連携し立ち上げています。
東京大学
工学系研究科航空宇宙工学専攻
先端科学技術研究センター(兼任)
教授
西成 活裕 氏
芳賀 かつては「気合と根性の物流」ですからね。経験と勘で人と車を手配し、現場を運営してきた時代もありました。ところが、生産年齢人口の減少が明らかになり、技術部門として自動化に取り組み始めました。そのためにまず必要になるのは、データの整理・分析です。いまでは、その結果から最適解を求め、現場の運営に生かすようにしています。
運営ノウハウにデータを掛け合わせ
サプライチェーンの最適化を図る
西成 物流はこれまで空気のような当たり前の存在でしたが、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要を機に一般にも重要性が浸透したと思います。皆が社会インフラの一つであることに気付いたのですね。物流システムをどう維持すべきか、問題意識が高まっています。問題を考えるうえでは、サプライチェーンの視点に立つことが重要です。
ロジスティード株式会社
業務執行役員(CTO)
ロジスティクスソリューション統括本部長
芳賀 寛 氏
芳賀 その通りです。ただ問題は、調達の物流、工場内の物流、製品の物流、と部門単位で個別バラバラな点です。利用されるシステムが異なるため、データが一つにまとまりません。この部門間に横串を通すのが、物流統括管理者(CLO)の役割です。その指揮の下、デジタル活用で事実を把握し、課題の可視化を図る必要があります。
ロジスティード株式会社
業務執行役員(CTO)
ロジスティクスソリューション統括本部長
芳賀 寛 氏
西成 課題は山積みです。需要が見込めないにもかかわらず、押し込み生産で製品を生み出す。物流会社はそれを輸送しますが、もしも使われずに廃棄されるものがあれば、それは本来運ぶ必要がないのです。トラックの積載率については40%以下まで低下しているというデータもあります。何しろムダが多い。一方、過剰サービスが負担を重くしている面もあります。ECサイトの翌日配送は、典型です。
芳賀 そうした課題への対応策をお客様とともに立てていこうと、サプライチェーン最適化サービス「SCDOS(Supply Chain Design & Optimization Services)」を提供しています。私たちは現場で物流システムの運営ノウハウを蓄積してきました。そうしたアナログのノウハウと、デジタル活用で収集する部門間横断のデータを組み合わせたものです。目の前に現場があり、そこで運営ノウハウを蓄積してきたからこそ、提供可能なサービスと自負しています。
ロジスティードが提供するサプライチェーン最適化サービス「SCDOS」が、サプライチェーン上のデータを集約し、価値ある情報に変換する
西成 サプライチェーンのそもそもの課題の一つは、部分最適に陥っている点ですからね。共同研究先にも同様の傾向が見られます。部門単位で最適化を実現しても、ほかの部門にしわ寄せが生じます。サプライチェーン全体からすると、必ずしもプラスではないという事態が起こり得る。サプライチェーン全体を見渡せる広い視野に立てる人材がいないと、全体最適を図るのは難しいのが現実です。
芳賀 そうですね。例えば調達部門が優位に立つ場合、その関係性を改めれば、生産計画を変えられます。生産計画が変われば、在庫の持ち方も変わる。相互に関係し合っているため、部分最適では意味がない。そこに、SCDOSの出番があります。部門間横断データを整理・分析し、現場の運営ノウハウと組み合わせれば、CLOとして把握すべき課題を可視化できるようになります。デジタルデータの整理・分析とアナログの運営ノウハウの掛け合わせからしか捉えられない課題を、お客様に提示できるのです。長年、「気合と根性」で培ってきた現場運営のノウハウが役立っています。
西成 全体最適を考えるうえでの視点としては、GX(グリーントランスフォーメーション)も外せません。注目したいのは、Scope3排出量。サプライチェーンにおける自社以外の温室効果ガス排出量です。国際社会でその削減まで求められるようになれば、荷主企業側は脱炭素社会の実現への貢献を、サプライチェーン全体で評価せざるを得なくなります。そうなると、ビジネスモデルにまで影響は及びます。
共同配送の相乗効果を実感しつつ
標準化の必要性を荷主企業とも共有
芳賀 SCDOSでは、Scope3排出量の可視化にも対応しています。機能の一つである「EcoLogiPortal(エコロジーポータル)」を用いれば、どの区間でどの程度の二酸化炭素(CO2)を排出しているか、データとして提示することが可能です。環境起点で考えたとき、調達先、生産現場、出荷先などを、どこに配置するのが最適なのか、拠点の再編に向けた手掛かりとしても有効に活用できます。誕生当初は自社向けのシステムでした。お客様とコミュニケーションを交わす中で、SCDOSの一機能として組み込み、提供サービスに新たに付け加える、ということを決めたのです。
EcoLogiPortal の4つの特徴。EcoLogiPortalは、一般社団法人日本物流団体連合会主催の第24回物流環境大賞にて特別賞を受賞している
西成 サプライチェーン全体のデータを統合し課題として可視化できるサービスは、そうありません。特異な立ち位置ではないかと思います。
芳賀 データ活用ではまず、どういうデータを整理・分析するのか、お客様とコミュニケーションを重ね、めざすべきゴールを定めるのが大事です。むやみにデジタルツールを活用し、データを収集しても、決してうまくいきません。
西成 全体最適を考えるうえではもう一つ、他社との協調という視点も欠かせません。異なるネットワークが2つある場合、互いに情報をやり取りし、ネットワークを重ねるように協調して運営すれば、季節波動の吸収や異なる重さや体積の商品の組み合わせが出来てトータルコストを抑えられます。
芳賀 共同配送ですね。私たちは3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)プロバイダとして約2万社のお客様と取引しています。それだけの顧客規模があるからこそ、相乗効果を期待しながら、共同配送を経験則として実施してきました。その相乗効果については、まさに実感しているところです。
西成 ただ通常は、物流情報は営業情報として機密性が高いからという理由で協調を拒む荷主企業は少なくありません。またデータをやり取りできても、標準化されていないため、一つにまとめることができない、という問題も抱えています。せめてパレットや段ボールの標準化からでも進めてほしいですね。
芳賀 私たちはもともと、お客様のご要望に100%応えることが差別化につながるという理由から、倉庫の設計では顧客ごとのオーダーメイドで進めてきました。しかしいまは、標準化の方向に舵を切っています。そのままでは自動化を進められませんからね。
西成 荷主企業にCLOの設置が義務付けになる今後は、物流システム標準化の必要性を物流会社側から荷主企業側に訴求できる絶好の機会ではないか、と思います。ぜひ規模も実績も申し分のない御社の今後のますますのご活躍に期待しています。
芳賀 標準化された設備の整う倉庫を複数のお客様が共同で利用する――。そうした積み重ねがフィジカルインターネットの実現につながれば幸いです。それには仰るようにまず、パレットや段ボールの標準化からですね。それがないと、機械が人に代われません。
西成 国際海運で用いる海上コンテナは、関係者の努力と譲歩と合意で標準化できたことで、国際海運は効率化を達成できました。各企業が自社最適を突き詰めず「ゆとり」を持つことができれば、標準化、共同化がすすめられるのではないでしょうか。
芳賀 持続可能なサプライチェーンを構築するには、荷主企業のご理解とご協力が欠かせません。物流システムにいま何が起きているか、課題を分かりやすいデータとして可視化し、その対応策をお客様とともに立てていくことが必要です。そうした積み重ねを今後、物流システムの標準化につなげていきたいですね。
