トップ企業CEOに聞く 日本企業変革に財務経理部門は何をなすべきか

激変する経営環境、「変革が常態」の時代に
経理業務変革の一歩を踏み出した三井住友信託銀行の挑戦

三井住友トラストグループ株式会社 取締役 代表執行役専務 CFO
三井住友信託銀行株式会社 代表取締役 専務執行役員
佐藤 正克氏
ブラックライン株式会社 代表取締役社長
宮﨑 盛光氏
──AIをはじめDX化が急速に進化する中、コーポレート部門の生産性向上は大きなテーマです。

佐藤正克氏(以下、佐藤) 私は2023年4月に財務担当役員(現在はCFO)に就任しました。当初は時間をかけて生産性向上施策に取り組むつもりでしたが、DX、特にAIの発展スピードは驚くほどで、「すぐに進める必要がある」と考えるようになりました。中でもコーポレート部門の効率化は大きな課題です(図1)。現状、DX/AIで代替できる業務を人が担っている部分があり、それは人材の成長機会を奪うことにもつながっています。もちろん、技術活用によるコスト削減は重要ですが、AIをビジネスに取り入れることにはそれ以上の意味があると感じています。
三井住友トラストグループ株式会社 取締役 代表執行役専務 CFO 三井住友信託銀行株式会社 代表取締役 専務執行役員 佐藤 正克氏
三井住友トラストグループ株式会社
取締役 代表執行役専務 CFO
三井住友信託銀行株式会社
代表取締役 専務執行役員
佐藤 正克氏
宮﨑盛光氏(以下、宮﨑) コーポレート部門の変革については、日本企業の動きの遅さを感じることがあります。1つには、M&Aの進め方に起因しているのかもしれません。経営統合において、多くの米国企業はコーポレート部門を「効率化余地」と見なします。重複する機能の担当者はレイオフの対象となり、身軽な組織を維持しようとする。日本ではそうした人員整理はなかなかできません。

佐藤 難しい課題ですね。あらゆる組織に「やったほうがいいけれど、必須ではない業務」が無限にあります。テクノロジー活用によって業務を効率化しても、削減できたはずの工数がこうした「必須ではない業務」に吸い取られてしまう。そんな現象があちこちで起きていると思います。M&Aでも、同じようなことが起きているのかもしれません。容易なことではありませんが、業務の優先度や「必須ではない業務」を、トップダウンで明確化する必要があると考えています。

宮﨑 大手IT企業の例です。同社はAIの導入を積極的に進めており、経理業務は主要な適用分野の1つです。まず、部門の要員を半減させ、部門から異動する人材をコンサルタントにするとの方針を定めました。業務とIT、ITプロジェクトの知識や経験を生かして、クライアントにコンサルティングサービスを提供していき、外販につなげていこうという戦略です。
ブラックライン株式会社 代表取締役社長 宮﨑 盛光氏
ブラックライン株式会社
代表取締役社長
宮﨑 盛光氏
佐藤 素晴らしい変革事例だと思います。

宮﨑 漠然と「高付加価値業務にシフトする」というだけでなく、「この部門の何人がどのような業務にシフトするのか」を明確にすることが重要です。ご指摘のように、トップダウンでなければ決められないことだと思います。

生産性向上、シェアードサービス化を視野にBlackLineを導入

──三井住友信託銀行では経理業務の変革を進めており、2026年1月には、そのプラットフォームとしてBlackLineが稼働し始めたと聞いています。

佐藤 三井住友信託銀行におけるBlackLine導入プロジェクトは2025年5月にスタートし、26年初めにサービスインとなりました。まずは、決算タスクなどの進捗管理という基本機能から使い始めて、順次活用範囲を広げていきたいと考えています。

──導入の目的はどのようなものですか。

佐藤 一義的には、経理業務の標準化・効率化を通じた生産性向上です。また、現在進めているグループ会社・経理業務のシェアードサービスセンターでの活用も視野に入れています。当社には多くのグループ会社や拠点がありますが、その規模は様々です。中には少人数で経理業務を回しているところもあります。経理人材が不足する中で、今後の経理業務の維持には懸念もあります。経理業務の集約により生産性向上だけでなく、業務の持続性を高めることができます。また、集約すれば変革の施策も打ちやすくなります(図2)。
──経理業務におけるAI活用については、どのようにお考えですか。

佐藤 BlackLineはAIの搭載に積極的だと思います。ユーザー企業として、そのプラットフォームに実装されたAIを活用することになるでしょう。同様に、様々なSaaSやソフトウエア製品がAI機能を実装しつつあります。当社としてはその機能を吟味した上で、業務での利用を進めていく方針です。

宮﨑 2025年7月に米国マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボが公表したレポートが話題になりました。AI投資で十分なリターンを得ている企業は5%に過ぎず、95%の企業では成果が出ていないというものです。成功した5%の中身を見ると、コンタクトセンターやプログラム開発が多いようです。その次に期待されているのが経理業務。定型的な業務が多く、主に数字を扱うからです。当社としてもその業務特性に注目し、お客様の期待に応えられるようAI開発に注力しています。今後、経理業務のプロセスは大きく変化します。

AI時代に求められる
「一人称で語れる」人材

──経理のみならず、将来的には業務の多くをAIが担うといわれています。そのときに、人間は何をすべきか。人材育成のスタイルも変わるのでしょうか。

佐藤 AI活用の前後で、人の働き方と育成のあり方は大きく変化する可能性があると思います。人の知的作業を分解すると、「何をしたいか」という思いが出発点にあり、その後、やると決めれば「情報収集・分析」→「実行」へと進みます。このプロセスの中でAIが得意なのは「情報収集・分析」です。「今の市場環境と自社のリソースを踏まえれば、このような施策が望ましい」といった提案なら、いずれAIが質の高い提案をするようになるでしょう。人の役割として最後まで残るのは、「何をしたいか」という部分です。これからの人材に求められるのは、それを一人称で語れる能力、さらには「自分はこれをやりたい」と熱く語り、周囲を巻き込んで実行に移す能力だと思います。

宮﨑 「一人称で語れる」は、素晴らしい表現ですね。本当にやりたいことがあれば、AIはよき対話相手、アドバイザーになるはずです。

佐藤 業務知識やスキルはこれからも重要ですが、変革を起こすためにはそれだけでは不十分です。変革のきっかけとなるのは、社外や異分野の人たちとの交流だと思います。社内ではネットワーキングの重要性を常々語っていますが、私自身も外部の方々と出会う機会を大事にしています。

宮﨑 そうですね。経営層、ミドル、現場の各レベルで「他流試合」はますます重要になっていると思います。社内はもちろん、社外で多様な価値観に触れることが、視野を広げ、新しい発想を生み出すきっかけにもなります。その意味で、弊社のユーザー会であるBlackLine Japan User Group(BJUG)のようなコミュニティも非常に意義があると感じています。他社の取り組みや課題を率直に共有し合えるだけでなく、先進的な事例から刺激を受ける機会にもなっています。「他流試合」の場の1つとして、これからも皆さんに活用いただきたいですね。

──最後に、経営層をはじめビジネスパーソンへのメッセージをお願いします。

佐藤 組織を取り巻く外部環境は常に変化しています。その変化を見落とせば、ビジネスモデルの陳腐化などのリスクが顕在化するでしょう。また、企業が成長すれば様々なところで、リソース不足が生じるはずです。こうした中で企業が持続的に成長するためには、自らを変革するほかありません。あらゆる組織にとって「現状維持はない、幻想に過ぎない」という前提で、将来に向けた戦略を考え前進しなければならないと思っています。

宮﨑 すべての企業に、「変革が常態」という意識が求められる時代なのだと思います。外からは、三井住友信託銀行のような大組織は安定したビジネスを維持しているように見えるかもしれません。しかし、そんな企業が現在、変革に真剣に取り組んでいる。経理業務の変革はその一部です。異分野の企業にとっても、変革への挑戦を続ける同社から学べることは多いのではないかと思います。
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