DX推進委員会を通じて、
全社に変革の取り組みを波及
全社の共通データプラットフォームを構築して、データを統合的に活用できる環境を整備。これにより、各工場における品質検査の高度化、歩留まりの改善、デジタルツインによる生産の高度化を目指している。事務系業務を担う拠点のデータも順次連携していく計画だ。「AI活用の促進や、本社のシステムとの連携による経営基盤強化などを目指します」と岸本氏は説明する。
キオクシアでは、これら一連のDXの取り組みを「トップダウン」「事業所単位」「部門単位」「課・チーム単位」「個人単位」という5つのレイヤーで推進している。
トップダウンや事業所単位の取り組みは、各拠点のIT推進部やDX関連部門が伴走型で支援する。代表例が先に紹介した四日市工場のスマートファクトリー化だ。
「部門や課・チーム、個人単位の取り組みは基本的に現場主導で進めますが、中にはIT推進部のサポートが必要なものもあります。そこで、現場の声を吸い上げる仕組みとして『DX推進委員会』を設置しています」と岸本氏。各現場部門から窓口になる担当者が参加し、月1回のミーティングを開催。課題の持ち寄りと対応優先度の投票、成功事例の共有などを行っているという。
集めた課題の中には、既に導入済みのデジタルツールで解決できるものや、社内の成功事例を横展開することで解決できるものもある。DX推進委員会は、このような柔軟な連携を促すことで、組織内にDXを波及させる役目も担っている。
さらに、2025年4月からは全従業員を対象にした「DX教育」もスタートした。デジタル技術やDXに関する社員のリテラシーを底上げすることで、全社DXをさらに加速する狙いだ。
もう1つ、同社が近年力を入れているDXの取り組みがある。それが「情報検索の高度化」である。
きっかけは2015年に行った社内調査にさかのぼる。「業務で何の作業に時間をかけているか」を把握するため、工場の従業員約1500人を対象に、1週間にわたって15分間隔で業務内容を詳細に記録したのだ。結果を分析した結果、「情報を探し、集める」作業に多くの時間が費やされていることが分かったという。
「ただ、現場からは特に改善を求める声は上がっていませんでした。どうやら『情報の検索・収集には手間と時間がかかる』ということが当たり前だと思っていたようなのです。私は、このような現場も認識していないところにこそ、改善の余地があると考えました」と岸本氏は振り返る。
そこで岸本氏は、情報収集にかかる手間と時間の削減、効率化を図る方法を模索。企業内情報検索ツールであるエンタープライズサーチに着目した。複数の製品・サービスを比較検討し、最終的に導入したのがブレインズテクノロジーの「Neuron Enterprise Search」(以下、Neuron ES)である(図)。
「社内のドキュメントやWebサイト、Webアプリのファイルなども含め、多様な情報を横断的かつ簡単に検索できることが必須でした。また、利用が定着しなければ投資が無駄になるため、なるべくコストを抑えて、失敗リスクを低減することも重要でした」と岸本氏。その点Neuron ESは、データの横断検索が可能。シンプルなユーザーインターフェースで使いやすく、同時に検討した製品に比べてコストも抑えられる点が決め手になったという。
また、キオクシアが扱う半導体の世界には、独自開発の技術や設計に関わるドキュメントなど機密性の高い情報が多く存在する。これらを検索対象に含める場合、エンタープライズサーチには厳格なセキュリティー機能が求められるが、Neuron ESは完全オンプレミス環境で運用できるほか、アクセス権限についても既存システムの設定をそのまま踏襲できる。リスクを抑えて運用できると考えた。
2020年から、まず四日市工場でNeuron ESのテスト利用を開始。手応えをつかんだのち全社にアナウンスし、現在は全社員が社内情報の検索に使用できる状態になっている。
検索可能な情報は、社内規程や福利厚生などの汎用的な情報から、個別部門の業務に関わる情報まで様々。各部門の管理下にあるファイルサーバーやNASの情報には、部門ユーザーだけがアクセスできるように権限管理を行っているという。
「検索対象のファイル/フォルダーは、各部門からの申請ベースで追加しています。導入当初はNeuron ES自体がなかなか周知されず、ファイル追加の申請や利用者数が伸び悩みましたが、DX推進委員会で操作のデモや活用メリットの紹介を行ったところ、申請が急増。利用者も増え、現在の検索回数は1日平均1000~1500回になっています」と岸本氏は語る。
検索効率化によるメリットは大きい。従来は複数のファイルサーバーやストレージから手作業で探したり、「知っていそうな人」を探してメールで問い合わせたりする作業に多くの時間を要していたが、現在はNeuron ESの検索ウインドウに知りたい情報を入力するだけで自ら簡単に検索できる。「資料探し1件につき、最大2時間程度の工数を削減できています」と岸本氏は強調する。
岸本氏自身もNeuron ESを業務効率化に役立てている。IT推進部には、Neuron ESのほか、社内で利用中のチャットボットや生成AIに関する問い合わせが多数寄せられる。そのような問い合わせの内容をFAQサイトにまとめてNeuron ESで検索できるようにしたところ、社員からの問い合わせが激減。FAQサイト作成前との比較で、1日2時間程度の時間を創出できているという。
「私は、Neuron ESをキオクシア社内における“デジタルの窓口”にしたいと考えています。分からないことはまずNeuron ESで検索し、それから必要に応じてチャットボットや生成AIを使う。そのような組織文化を醸成したいですね」と岸本氏は展望を語る。
今後も検索対象のコンテンツと利用部門のさらなる拡大を図っていく。社内には、まだ情報収集に多くの時間がかかっていることを課題だと認識していない社員も多くいる。広報の強化、DX推進委員会での説明を通じて、1人でも多くの社員の共感を得られるよう働きかけを続けていく予定だ。全社DXに向けたキオクシアの取り組みに、引き続き注目したい。