不二製油
日本市場管掌 日本SCM部門 副部門長
兼 物流部 部長 兼 物流統括管理者
本川 仁 氏
これからも安定供給を続けられるのか――。本川氏が物流改革に本腰を入れざるを得ない動機には、将来への強い懸念がある。
「これまでは営業部門や生産部門の要望を最優先し『物流はサービス』という感覚がありました。しかし、従来はドライバーや荷役従事者の労働力が豊富にありましたが、5年後10年後を見据えた時に同じような対応は出来ないと感じました」
不二製油
日本市場管掌 日本SCM部門 副部門長
兼 物流部 部長 兼 物流統括管理者
本川 仁 氏
物流業務は3PL(サードパーティーロジスティクス)と呼ばれる事業者に委託してきた。厳密な温度管理を必要とすることから、温度帯ごとに幹事会社を定め、そこに業務一式を委託する。ところが、時節柄などによる需要の急な変動への対応(波動調整)が集中するようになると、継続的な安定供給は困難になる。
不二製油は物流資産を自社で保有せず、保管・配車・輸配送を3PL事業者に委託。同社内で物流部は日本SCM部門に紐づき、資材購買部とともに、発着荷主として社内のサプライチェーン管理の大半を担う
それを避けるには、従来の慣行を見直し、構造そのものを転換する改革に乗り出すほかない。例えば営業部門や生産部門の理解と協力の下、納品条件の見直しをお願いした。
需要変動の対応として、取引先からは小口・高頻度・時間指定での納品ニーズがある。しかし時間外労働の上限規制と物流法規制の強化で、3PL側はトラックやドライバーの運用に限界がある。営業部門を通じて、納品条件の見直しを求めるほかなかった。
一方、工場は原材料を調達する。「調達部門は従来、生産ラインの稼働に応じて追加の調達を生産部門から引き受けていました。しかし、工場側にも取引先に納品条件の見直しを求めたのと同様に、調達条件の見直しを求めました」(本川氏)
植物性油脂、カカオ、乳製品、大豆たんぱく等を主要原料に、独自の製品を多数生み出してきた不二製油。製品の品質保持のため、納品までの間に製品ごとに徹底した温度管理が必要であり、高い物流品質が求められる
“1年限定”の新物効法対応プロジェクト始動
日本市場における物流全体の最適化を促す仕掛け
こうした連携・調整を図る場が、新物効法対応プロジェクトだ。新物効法とは、2026年4月全面施行の物流効率化法。国内の物流と資材購買を管轄する日本SCM部門が一丸となって、植物性油脂、業務用チョコレート、乳化発酵素材、大豆加工素材、という4つの事業本部や3PLと共に法令遵守に努めるのはもとより、サプライチェーン(SC)の安定継続に向けた連携・調整にまで乗り出す。2025年7月、1年限定で始動した。
このプロジェクトでは、主力の阪南事業所(大阪府泉佐野市)のほか、関東工場(茨城県笠間市)や千葉工場(千葉市)を対象に、物流上の問題点の改善に乗り出す。各工場を2カ月に一度の頻度で巡回しながら、改善策を提案する。
新物効法対応プロジェクトの体制図。物流部から生産現場や調達部門を巻き込んだ推進体制を構築した
ポイントは、プロジェクトメンバーに事業所長や工場長、各事業本部の生産部長を加え、物流の課題に対して部門横断的な検討を行った点だ。「物流の効率化を図ろうとすると、工場側での発着荷役作業を任せる人員を手配する必要が生まれます。同時に作業の安全性も必要です。そこでカギを握るのが、生産現場のまとめ役である事業所長、工場長、生産部長です」と本川氏。関係者の協力を得たことで、「全社的に物流の課題に対応すべき」という方針が定まり、日本市場の物流全体の最適化がスムーズに進んだ。
体制構築では、物流統括管理者の社内規定を定めた点が目を引く。全社を巻き込む必要があるため、先行する低GHG(温暖化ガス)の省エネ管理規定の取り組みに習った。
省エネの取り組みでは、一定規模以上のエネルギー使用企業に対して、いわゆる省エネ法に基づくエネルギー管理統括者の選任が義務付けられている。不二製油ではこのエネルギー統括管理者の役割についても、社内での推進体制を社内規定として定めている。物流統括管理者の役割についてもこれと同様、社内での推進体制を社内規定として定めたのである。
「新物効法対応プロジェクトは期間限定です。しかしプロジェクトの終了後、取り組みが風化しては困ります。そこで、推進体制の立て付けを社内規定として別に定めました」と本川氏。プロジェクトのメンバー構成を社内規定に位置付けることで、その役割を会議体として継承できるようにあらかじめ手を打った。
並行して取り組むのが、データ活用だ。物流DXパートナーのHacobuが開発・提供するトラック予約・受付サービス「MOVO Berth(ムーボ・バース)」、動態管理サービス「MOVO Fleet(ムーボ・フリート)」、配車受発注・管理サービス「MOVO Vista(ムーボ・ヴィスタ)」を導入し、データ活用への道を歩む。
不二製油の物流DXの取り組みをまとめた図。Hacobuのプロダクトを物流の各工程に配備し、各拠点・輸送データの一元管理を推進している
これからの物流は自社のモノの流れを正確に把握し、データ化することが大前提となる。正確なデータを取れないと、AI活用とDX推進を伴った物流効率化がままならない。
本川氏によれば、データ活用は3段階に分かれる。
まず1つ目は、情報取得のためのインフラを整備する段階。製品マスターの整備など、モノの動きの正確なデータを取る環境を整えたのち、情報取得に必要な端末を工場内に配備、3PL側の協力を得て車両にも装着する。次の段階では、それらの端末を経て取得したデータを、MOVOプロダクトの管理画面で誰もが閲覧できるように一定の形式に変換。3つ目の段階では、取得したデータを読み解く上で必要なデータ(例:車格情報など)を、3PL側の協力を得て入力し関連付け、独自の分析が可能な形に整えていく。
プロダクトの導入はすでに、一定の成果を生んでいる。
積載率の向上へ、新たな活用法を模索
物流情報プラットフォームへの期待
例えばトラック予約・受付サービスの「MOVO Berth」は、荷待ち時間や荷役等時間の効率化に向け原料倉庫と製品の倉庫を合わせた全国11拠点に導入済み。拠点ごとの時間データを基に、3PL側と改善を繰り返すサイクルを月一度の頻度で回す。「運行の一部では、1運行当たり平均20分程度の荷役等時間の削減にまでつながっています」(本川氏)
荷待ち・荷役管理と効率化のため、「MOVO Berth」を自社拠点2か所に加え、全国にまたがる製品の倉庫9拠点へ導入。タイムリーな情報把握を可能にした
また配車受発注・管理サービスの「MOVO Vista」は、主要拠点間の一部の貸切便を対象に積載率の可視化にも活用。情報の一元管理を試行する。将来、低積載の運行を瞬時に把握し共同輸送に切り替え、積載率の向上を目指す。
システムの併用で得られる成果もある。例えば動態管理サービスの「MOVO Fleet」とトラック予約・受付サービスの「MOVO Berth」。まず「MOVO Fleet」でローリー車両の位置情報をリアルタイムに把握し、そのデータを基に、向かう先である工場で積み込み作業を行うバースを「MOVO Berth」で先行割り当てする。「従来、工場側の担当者がローリー車両のドライバーに電話を架けて位置情報を把握した上で、積み込み作業を行うバースを割り当てていました。人力でこなしていたこの作業をシステムに置き換えることで、省人化を実現できました」(本川氏)
「MOVO Fleet」と「MOVO Berth」を連携し、ローリー車両の動態管理の仕組みを構築。電話対応を削減し、省人化を実現している
Hacobuをパートナーに選んだのは、同社で提供するシステムの使い勝手や品質の高さからだけではない。Hacobuシステム導入企業は食品業界のみならず多岐にわたるため、提供するサービスが将来、物流情報プラットフォームと呼ぶにふさわしい存在になり得るという点を、本川氏は高く評価する。
「可視化された自社のデータだけを収集していても、分析できることや取り組めることは、たかが知れています。しかし他社のデータを含めたビッグデータまで活用できれば、その成果は物流改革へのヒントや効率化に向けた協業に生きます。物流情報プラットフォームを意識的に構築しようとしている点に期待しています」
協業の取り組みはすでに進んでいる。
業界内では、J-オイルミルズ、日清オイリオグループ、昭和産業の3社が、一般社団法人日本植物油脂協会と連携し、業界内の物流問題の解決と物流持続性の向上を目的に立ち上げた「油脂物流未来推進会議(通称、YBM会議)」に、2026年1月に参画。一例としてローリードライバーの環境改善に向けて協議等を進めている。「物流の問題は社会課題であると捉え、協調して取り組む覚悟です」と本川氏は意欲的だ。
取引先とは、菓子メーカーのブルボンと31フィート冷蔵コンテナを活用した鉄道ラウンド輸送に取り組む。ブルボンが新潟県内の工場で生産した製品を関西方面に届けた戻り便を、不二製油が阪南事業所で生産した製品を新潟方面に届けるのに活用する。新潟~大阪間の鉄道輸送は日本貨物鉄道が、生産・物流拠点と貨物ターミナル駅の間は3PL事業を展開する中越通運や物流会社のセンコーが受け持つ。
今後、車両の運行データを活用し互いの効率化につながる企業との間で共同輸配送の検討を進めていく予定だ。「協業にあたっては、コストメリットの観点も大事ですが、物流を社会課題として同じように捉えているかが大切だと考えています 。協業を持続的な取り組みと位置付けるためにも、この点にこだわっていきたい」(本川氏)
データ活用は非効率の可視化につながる。そこを起点に物流を持続可能な形に整えていく取り組みが欠かせない。「物流は将来、企業価値や事業継続を左右する経営の中枢機能として位置付けられていくはずです」。本川氏はCLOとして、物流の将来をそう展望している。
取材を終えて
不二製油様への取材では、物流改革を「物流部門だけの課題」にせず、生産や営業を巻き込みながら全社最適を目指す姿勢が強く印象に残りました。特に、物流統括管理者の役割を社内規定として明文化し、誰が担っても機能する仕組みへ落とし込んでいる点は示唆深いです。物流を社会課題として捉え、協業も含めて持続可能性を追求する覚悟を感じました。
株式会社Hacobu 取締役執行役員COO 坂田 優氏

| 本社 | 〒108-0014 東京都港区芝5-29-11 G-BASE田町4F |
| 創業 | 2015年6月30日 |
| 事業 内容 |
クラウド物流管理ソリューション「MOVO(ムーボ)」シリーズ、物流 DXコンサルティング「Hacobu Strategy(ハコブ‧ストラテジー)」を展開。6年連続シェアNo.1(※1)のトラック予約受付サービス「MOVO Berth」、動態管理サービス「MOVO Fleet」、配⾞受発注‧管理サービス「MOVO Vista」、⽣産‧販売‧在庫管理サービス「MOVO PSI」などのクラウドサービス、ドライバーの働き⽅を変えるスマートフォンアプリ「MOVO Driver」を提供。データを武器に、企業間物流の最適化を⽀援している。※1 デロイト トーマツ ミック経済研究所『スマートロジスティクス・ソリューション市場の実態と展望【2025年度版】』バース管理システム市場のベンダー別拠点数。本調査に参加した国内主要システム6社の拠点数合計をシェア100%とした場合のシェア |