教育とICT Online Special

教育ICTイノベーション2015 REVIEW

教育ICTイノベーション2015 REVIEW 総論

最新ICTを取り入れた学習環境を整備して21世紀型の人材を育てる

学生・生徒・児童が21世紀型スキルを身につけるには、ICTを利活用した学習環境を速やかに整備する必要があるとの考えに基づき、「一人1台の学習端末」の導入が各地の学校で進行中だ。それによって、反転授業やオンライン講座といった新しい学びはどのように可能になるのか。既実施校、ICT利活用教育の専門家、文教市場向け製品ベンダー、メディアが、最新の状況を報告した。

基調講演

タブレットを学生に貸与したことで
自ら調べて解決する姿勢が定着

大山 章博 氏
畿央大学(学校法人冬木学園)
教育学習基盤部
部長
大山 章博 氏

 奈良県北葛城郡広陵町にキャンパスをかまえる畿央大学は、健康科学部と教育学部の2学部・5学科を置く4年制の私立大学である。学生数は約2000人と小規模であるが、就職率と国家試験合格率は極めて高い。

 その畿央大学が第1期の情報環境基本計画(2011年度~2014年度)を策定したのは、2011年度のことだった。教育学習基盤部部長の大山章博氏は「まずは学内情報ネットワークの高速化などに取り組み、2014年度より1年生全員にタブレットを貸与しました」と語る。

 学生にタブレットを貸与したのは「ICTを活用できる人材を育てるには、個人専用の機器を持たせるべきだという大学の判断によるものです」と大山氏は説明する。機種選定にあたっては「Windowsを搭載」「バッテリー駆動時間5時間以上」「キーボード付き」などの要件を設定し、数機種の候補の中からMicrosoft Surface Pro 2を選択した。

 続く第2期(2015年度~2018年度)でも新1年生にタブレット貸与を継続する一方で、主要システムをクラウドに移し替えた。併せて、サーバールームとパソコンルームの廃止・転用を進め、IT運用コストの抑制にも努めている。

タブレット貸与のための費用は クラウド移行による節約で捻出

 畿央大学では、このタブレットを1年生の必修科目である情報処理演習I・II、英語コミュニケーションI・II、ベーシックセミナーのそれぞれで活用している。教材については「著作権や知的財産権の問題がクリアされている」(大山氏)ことを理由に「日経パソコンEdu」を使用した。

 タブレットを貸与したことで、学習上の効果は確実に表れている。大山氏は「予習・復習の習慣が定着し、自ら調べて解決しようとする姿勢に変わりました」と評価する。1年間実施後のアンケート調査でも77%の学生がタブレット貸与について、肯定的な意見を述べていると付け加える。

 一方、学校経営の観点からは、学生全員にタブレットを貸与するための費用をどう捻出するかが大きな問題となる。畿央大学は、この問題を、主要システムを学内サーバーからクラウドサービス「Microsoft Office 365/Microsoft Azure」に移し替えるという方法で解決しようとしている。「サーバールームを廃し、パソコンルームも段階的に縮小し、非授業日は仮想サーバーのグレードを落とすといった節約により、タブレットの購入費用捻出を考えています」(大山氏)。

 畿央大学では、こうした段階的な施策を行った結果、経費の節減や捻出はもちろん、何よりも学生への教育効果を高めることにつながっていると客観的に評価しており、今後も新たな計画を打ち出していく方針だ。

特別講演

様々なパラダイムの変化により
教育現場でもICT利活用が進む

赤堀 侃司 氏
一般社団法人日本教育情報化振興会
会長
東京工業大学
名誉教授
赤堀 侃司 氏

 「今、教育をめぐる世界で、様々なパラダイムの変化が始まっています」と、ICT教育について詳しい赤堀侃司氏は指摘する。

 例えば、教育のモデルも、教師が専門的な技術で指導する方式から、インターネットを活用した無料オンライン講座やコラボレーティブラーニングへと変わっていく。基礎学習は家庭のPCやタブレットで済ませ、学校では応用学習以上に専念する“反転授業”も、そうした新しい教育モデルの一つだ。

 このようなパラダイムの変化は、教育の目的を「基礎的知識の伝授」から「問題解決能力の保証」へと変えていく。赤堀氏はそうした教育を“21世紀型の学力”と呼び、日本だけでなく欧米を含む世界の各地で転換が進んでいると紹介した。

自ら考えて問題を解決する学力を ICTを駆使した教育環境で高める

 21世紀型の学力に向かうこのようなパラダイム変化は、教育環境のICT化も促すことになる。赤堀氏は「紙と鉛筆だけでの問題解決はあり得ません」と述べ、問題解決のアイデアを生み出すにはデジタル環境を駆使して情報を集めることが欠かせないと強調した。

 例えば、授業にタブレットを取り入れている日本のある小学校では、児童たちは教師から与えられた課題を自分たちで調べたり考えたりしながらアクティブに学習しているという。その間、教師はアドバイザーの役割に徹し、机の間を巡回する以上の介入はしない。

 また、社会見学にタブレットを活用している学校もある。タブレットを持って社会に1歩踏み出し、インタビューで聞いた内容をその場でメモしたり、内蔵カメラで現場の風景を撮影したりする。学校に戻ってから“まとめ”をプレゼンテーションさせれば、表現能力や発表能力を高めるためのトレーニングにもなる、と赤堀氏は言う。

 これからの時代、教育の形は文部科学省・教育委員会・学校という縦の関係だけでは困難だ。そうした状況を打開するのがICTの役割だという。三者の縦の関係性にITCを加えることで企業をつなぐ。縦・横・斜めなどあらゆる関係性を新たに構築し、教育の問題を解決していく時代になってきたのである。

サーバーでの教材の共有やネット中継が 著作権法違反になるケースも

 このようにICTを利活用した教育は様々な効果を生み出すものの、取り扱いを間違えるとリスク要因ともなりうる。

 そうしたリスクの一つが、「著作権法違反」である。日経BP社 教育とICT Online編集長の中野淳は「著作権法35条1項の『学校における例外措置』の多くはICTを利活用する新しい学びのスタイルに対応していません」と述べ、教材をサーバーで共有したり授業をネット中継したりする場合は注意が必要だと指摘した。