教育とICT Online Special

教育へのICT活用で習得速度が数倍に

教育におけるICTの利活用に大きな期待が寄せられている。日本の競争力強化のため、政府も教育におけるICTの利活用を重視し、電子黒板やタブレット/PCを導入する動きが活発化している。教職員や塾講師はICTとどう向き合うべきか。そして、その有効活用を図るにはどうすべきか――。日経BPイノベーションICT研究所 上席研究員の中野淳による有識者へのインタビューをもとに、教育におけるICT利活用の可能性と効果を2回にわたって考察する。1回目は反復学習で基礎学力の向上を図る「陰山メソッド」の確立者として知られる立命館小学校 校長顧問の陰山英男氏に話を聞いた。

徹底的に問題を繰り返す反復学習
自然と「覚える能力」が身に付く

中野 最初に「陰山メソッド」のベースになっている反復学習とはどのようなもので、どんな効果が期待できるのでしょうか。

立命館大学
教育開発推進機構 教授
立命館小学校
校長顧問
陰山 英男氏

陰山 反復学習とは「決められた内容を単純な方法で徹底的に繰り返す」学習方法です。とりわけ重要なのは「徹底的に」繰り返すこと。漢字や計算のドリルなどで、同じ問題を最低7回は繰り返し解くのです。
 同じ問題を反復していると自然に答えも覚え、問題を見た瞬間に答えが浮かぶようになります。答えを覚えたら意味がないじゃないかと思われるかもしれませんが、それは違います。
 反復学習の狙いは、答えを覚えることのみではなく「覚える能力」を身に付けることにあるからです。そうすれば、脳の働きが良くなる。コンピューターで言えば、CPUのクロック数が上がることと同じ。脳の働きが良くなるから、漢字や計算だけでなく、いろいろな教科の学力アップが期待できます。

中野 反復学習にICTを活用する意義については、どのように考えていますか。

陰山 反復学習は何度も何度も同じ問題を解き、採点を繰り返します。これは与えられた命令を高速に処理するコンピューターが最も得意とするところです。反復学習とICTは非常に親和性が高いと言えるでしょう。
 勉強していれば、当然わからないことが出てきます。大切なのはこの瞬間です。なぜなら「分からない」と思った瞬間が、一番「分かりたい」時だからです。問題をやり終えて、間違いをすぐにリトライできるサイクルが速いほど、学習能力は上がっていきます。「分からない」が「分かった」になる時間が短ければ短いほどいい。タブレットなどのICTを使えば、紙とペンで勉強するより、このサイクルをずっと高速化できます。

ICTの活用で習得速度は数倍向上
ゲームやYouTubeの利用が進行中

日経BPイノベーションICT研究所
上席研究員
中野 淳

中野 具体的にどれぐらいの効果があるのでしょうか。

陰山 例えば、漢字学習にICTを使えば、紙とペンで勉強するより数倍速く覚えられるというケースもあります。それぐらい高い学習効果が期待できます。
 教育へのICT利活用はその効果について懐疑的な意見も見られますが、実は身近なところに成功モデルはあるのです。学びの要素を取り入れたゲームソフトがその典型です。子供たちはゲームとして楽しみながら、漢字の読み書きや100マス計算などに取り組めます。間違えたら、すぐにやり直すこともできるので、自然と学習能力が上がっていきます。
 私の知り合いが小学校2年生の子供に漢字書き取りのゲームソフトを渡したら、1日で2年生が覚えるべき漢字をすべてマスターしてしまったそうです。これは特別としても、大抵の子供は1カ月もあれば全部覚えてしまいます。

中野 教育コンテンツにはゲーム性が必要ということでしょうか。

陰山 これはICTに限らず、教材には楽しさが必要です。最近は動画投稿サイト「YouTube」を使って勉強している子供もいます。YouTuberと言われる人たちが、いろいろな教科や課程を指導する何千ものコンテンツをアップしているのです。課金コンテンツなので、これが成り立つということは、YouTubeで予習・復習する子供たちが相当数いるわけです。学校教育のICT利活用とは別の次元で、子供たちのICT利活用はどんどん進んでいるのです。

タブレット整備の流れは塾から
火が付き、学校に広がっていく

中野 学校教育でICT利活用教育を進める上で、タブレットなどの情報端末の整備が欠かせないと言われます。タブレットの一人一台化に向けた動きをどのように見ていますか。

陰山 学校現場でのタブレットの一人一台化はまだ難しいのが現状です。「誰が費用を負担するのか」「故障・紛失時の対応や責任をどうするのか」といった問題が横たわっているからです。
 タブレットの一人一台化は、こうした課題をクリアしやすい学習塾から火がついていくのではないでしょうか。タブレット購入に関する費用負担や管理について保護者の合意が得やすいですし、学習塾としてもICT利活用は必須の課題だからです。

中野 なぜ学習塾ではICT利活用が必須の課題なのですか。

陰山 大勢の生徒に均質な学習指導を行うには、講師の質の担保が必要になるからです。一部のベテラン講師が教えられる数には限りがあるので、生徒数が拡大していくと、経験の浅い若手講師も授業を担当しなくてはならない。その中で結果を出すために、ICTが必要になるわけです。
 例えば、ベテラン講師の遠隔授業や実績のある学習コンテンツを使えば、効率的に生徒を指導できます。実際、人気のある学習塾は自前の参考書や問題集などキラーコンテンツをたくさん持っています。学習塾で効果が実証されれば、ICT利活用の流れが学校教育にも一気に普及していく。それはそう遠いことではないと私は見ています。

教育委員会と校長が中心になり
マネジメント力を発揮すべき

中野 では国内でICT利活用教育を進める上で、どのような課題があると考えていますか。

陰山 最も憂慮すべきは、教育現場のミスマッチ。学習環境における効果的なICT利活用を考えていくべきなのに、ICTに詳しいというだけで担当者になってしまうケースが多いのです。そういう人は技術偏重に陥りがち。教育技術の達人で、なおかつICTに詳しい人をICT利活用の担当者に据えるべきでしょう。

中野 課題解決のためにどうすべきでしょう。

陰山 学校教育の中でICTをどう取り入れ、どうやって使っていくか。それを決めるのは現場の教師ではなく、教育委員会であり校長です。例えば、企業が新しいICTの仕組みを導入する時、いちいち現場の社員にどうしたらいいかなんて意見を求めたりしないでしょう。教育委員会や校長がマネジメント力を発揮して、大きな方針を示す。現場の教師はその方針のもとで、ICT利活用を進めていくことが“あるべき姿”だと思います。
つまり、リーダーシップが必要なのです。

中野 最後に教育におけるICT利活用の可能性について、意見を聞かせてください。

陰山 現段階でICT利活用に期待する分野は大きく2つあります。1つは幼児段階のタブレットを使った学習。直感的に操作できるタブレットを使えば、幼児でも楽しみながら学ぶことができます。早い段階からICTに接し、学ぶ楽しさを身に付けることは知育の観点からも非常に大切なことだと思います。
 もう1つはオンラインの英語学習です。日本の学校と海外の教育機関をオンラインでつなげば、ネイティブな英語教育が可能になります。教員の派遣が難しい地方や離島でも“生”の英語に触れて、聞く・話す能力が身に付きます。学校だけでなく、家庭でも質の高い授業を受けられる。ブロードバンド回線が津々浦々に整備されている日本なら、その実現は決して難しいことではありません。

プロフィール

立命館大学 教育開発推進機構 教授
立命館小学校 校長顧問
陰山英男

岡山大学法学部卒。兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代に、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し脚光を浴びる。近年はICTを使った個別の小学生英語などグローバル人材の育成に向けた提案や実践に取り組んでいる。2003年4月、尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。現在は立命館大学 教育開発推進機構 教授(立命館小学校校長顧問 兼任)を務める。「陰山メソッド たったこれだけプリント」(小学館)、「しゃべって覚える小学生の英会話Talking Time 1」(学研教育出版)など著書多数。

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