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進化を迫られる防災/減災技術、新たな可能性をもたらすデバイスに期待

東日本大震災以降、一段と高度な防災/減災技術の開発に取り組む動きが国内で活発化している。こうした中で浮上している様々な課題を解決するソーシャル・デバイスに対するニーズは着実に高まっているはずだ。そこで、「地球の総合コンサルタント」として防災/減災に積極的にかかわる応用地質の執行役員で計測システム事業部 事業部長の荘司泰敬氏と、非常時を意識した燃料電池の開発に取り組むローム 研究開発本部 副本部長 神澤公氏が、防災/減災技術の進化に電子デバイスの技術が貢献する可能性について議論した。

荘司泰敬氏
応用地質 執行役員 計測システム事業部 事業部長

神澤氏 自然災害から社会インフラなど応用地質の事業がかかわる分野は幅広いですね。

荘司氏 応用地質は、地質工学に基づくエンジニアリング事業を展開する企業として1957年に設立されました。当初は地質調査を中心に手掛けていましたが、技術領域を広げながら業容を拡大。現在は「地震防災」「環境」「建設」、社会インフラなどの「維持管理」「土砂災害」「生態環境」など幅広い分野にわたる事業を展開しています。一言で言えば「地球の総合コンサルタント」。あるいは「地球のお医者さん」とも言えるかもしれません。地球にかかわる様々な調査を実施するだけでなく、調査するために必要な技術や装置の開発。さらに調査結果の分析や対策技術も手掛けています。私が担当する計測システム事業部では、主に調査や分析に必要な計測システムの開発、製造、販売をしています(図1)。

図1 応用地質グループが開発した計測システム
(a)地下水の流れなどを調べるための孔内微流速計 (b) 海底の放射線量を測定するためのけん引式放射線測定プローブ(開発中) (c)瓦礫などで生き埋めになった被災者を探知するための人命探査レーダー「レスキュー・スキャン2 PLUS」 (d)メンテナンス対応型間隙水圧計。 いずれも2013年10月10日と11日に開催されたOYO展で撮影。

 新しい課題に直面する機会が多いことから技術開発には力を入れています。実際、約1000名の全従業員のうちの約700名が技術者。地質学、土木工学、建設、地球物理、生物学、電気/電子など様々な分野の技術者を抱えています。しかも、技術者のうち500名以上が技術士の資格を持っています。

神澤氏 自然災害に関連するお仕事も多いですね。

荘司氏 1964年に新潟地震の被害調査を実施したのを手始めに主に大きな地震災害を対象とした自然災害調査を手掛けてきました。その件数は、これまでに50件を超えています。2007年には、緊急地震速報のための地震観測網更新業務を担当。東日本大震災の後、発生する可能性のある巨大地震がもたらす被害想定を見直す作業を、16都道府県について実施したりもしました。

防災/減災技術の見直しが一気に

神澤公氏
ローム 研究開発本部 副本部長

神澤氏 東日本大震災以降、防災/減災に関する取り組みは大きく変わったのではないでしょうか。

荘司氏 確かに変わりました。東日本大震災では、想定外のことが多く発生しました。このため大震災以降、これまでの防災/減災技術を見直す動きが一気に加速しています。さらに大震災をキッカケに、社会インフラの老朽化という大きな問題もにわかに浮上してきました。これも大きな変化と言えるでしょう。

 長年にわたって自然災害にかかわってきた応用地質は、新たな防災/減災技術を確立する取り組みの一翼を担いたいと思っています。地盤モデルの見直しや、調査や測定のための新しい技術の開発など、様々な課題に積極的に取り組むつもりです。

神澤氏 ロームも防災/減災や非常時の早期復旧、インフラ老朽化対策に必要な技術開発に貢献したいと思っています。より高度な技術を開発するうえで、私たちが得意とする電子デバイスの技術が役立つはずです。

 1958年に抵抗器メーカーとして創業したロームは、今では売上の80%を半導体デバイスが占めています。受動部品や各種モジュール、センサーなど数多くの種類の電子デバイスも提供していますが、これまでは、こうした製品の多くは情報通信および民生機器の分野に向けて展開していました。最近では、産業用機器や医療など新しい分野にも手を広げています。これと同時に社会課題を意識した応用に向けた事業展開にも力を入れています。技術開発にかかわる企業が、その成果を社会に還元することは当然だと考えているからです。

荘司氏 情報通信にかかわるデバイスの技術は、防災/減災の分野でニーズが高まっているのではないでしょうか。防災/減災、インフラの老朽化の対策に、ICT(情報通信技術)を活用する動きが進んでいるからです。

センサーや燃料電池が貢献

神澤氏 ロームは、赤外から紫外まで幅広い波長を網羅する数多くのセンシング・デバイスの技術を抱えています。その種類の多さは業界でも随一です。防災/減災やインフラの老朽化の対策では、様々な情報や収集したり、情報の変化を監視したりするシステムが必要になるでしょう。私たちが提供している多彩なセンサーの技術は、様々なかたちで貢献できると考えています。例えば、近赤外線を感知する広帯域イメージ・センサーを開発していますが、このセンサーを使って画像を撮影すると、肉眼では分からない様々な情報を得ることができます。

荘司氏 表面の温度分布を可視化できるサーモグラフィ装置を使って地面や岩盤表面の状態を観察する技術は、すでに開発しました。この技術を使えば、地面や岩盤の表面が浮いていることなどが即座に分かります。非破壊で調査できる技術は、調査にともなう作業効率を高めるうえでも重要です。ただし、現状では既存の機器や部品を使っているので、様々な面で改善の余地があります。例えば、ロームのようなデバイス・メーカーに、安価で大量に使えるセンサを開発していただければ、作業効率を飛躍的に向上できるでしょう。

神澤氏 新規事業としてアクアフェアリーと共同で開発を進めている燃料電池も、非常時に役立つ技術です。電力網に障害が生じたときの代替電源として利用できます。私たちが開発しているのは、固体水素源を水と反応させることで水素を発生させ、その水素を燃料とする固体高分子型燃料電池(PEFC)です(図2)。現在、出力2.5Wのモバイル機器向け小型タイプ、Liイオン2次電池も内蔵したハイブリッド高出力型で出力が200Wのシステム、半年以上の長時間にわたって連続稼働させる計測器などに向けた出力3Wの長時間使用タイプなどを試作し、製品化に向けてさらに開発を進めているところです。

図2 ロームとアクアフェアリーが共同開発中の燃料電池
(a)ハイブリッド高出力タイプ (b)小型タイプ (c)長時間使用タイプ

防災訓練で有用性を検証

荘司氏 非常時に電源を供給できるシステムは重要です。エンジンを使った発電機がありますが、排気ガスや音が出るので、屋内で長時間にわたって連続して使うのは難しいと思います。燃料電池ならば、排気ガスの心配はありませんし、ほとんど音も発生しません。

 非常時に限らず私たちは、電源のないところでエネルギー源を確保する技術に興味があります。調査などの際に、電源がない場所で電子計測器を長期間にわたって使用することが多いからです。そこでも燃料電池の技術は役立つでしょう。現状では、自動車用バッテリーを使っていますが、山岳地域で測定する際に重たい車載バッテリーを抱えて険しい道を歩くのは大きな負担です。燃料電池に切り替えることによって、この負担を軽減できるのならば有り難いです。

図3 防災訓練に使用して現場のニーズを把握

神澤氏 非常時における燃料電池の有用性を検証するために、京都市、京都府、三重県、島根県、秋田県などの自治体が実施している防災訓練に参加させてもらいました。(図3)。その中で、照明、換気システム、情報表示のためのディスプレイ、通信機器などの充電などに私たちが開発した燃料電池が適用できると判りました。これから緊急の現場で必要な電源を自治体の方々と協議し、試作機の納入を行います。NEDOの補助事業として採択され、実証実験を進めていきます。

 センサーや燃料電池をはじめ、私たちは防災/減災、災害時の復旧などに役立つ可能性のある技術を数多く抱えています。ところが、実際に現場でどのような技術が、どのような用途で必要とされているのかを必ずしも十分に把握できている訳ではありません。現場を熟知しているパートナーと連携すれば、防災/減災、復旧など様々な局面で、貢献できる可能性がぐっと増えるのではないでしょうか。

異分野交流で新たな可能性

荘司氏 防災/減災の技術の発展を図るうえで、新たな要素技術は不可欠です。展示会に積極的に足を運ぶなどして、関連する技術の動向にはいつも目を光らせています。

 これまで皆さんは民生機器向けに製品を数多く提供されていますが、民生機器のノウハウを、防災/減災の分野に取り入れることも重要だと思っています。例えば、地質調査で使われている計測機器は、機能や性能を優先して設計されたものがほとんどです。このため、大型で高価な機器が少なくありません。民生機器の技術を使えば、小型軽量化を図れるうえに価格を下げられる可能性があります。それによって計測機器が、これまで以上に普及すれば、より多くのデータを集めることができるようになるでしょう。一般消費者の方が購入できるようになれば、消費者が自分で客観的なデータを集めて防災/減災に役立てることもできるようになるかもしれません。

神澤氏 そうですね。分野や業界の壁を越えた企業間の交流が進めば、様々な社会課題を解決する新たな技術が生まれる可能性はぐっと高まるでしょう。私たちも新しい領域に積極的に手を伸ばすつもりです。今後とも、よろしくお願いします。

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