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SAP IoT Summit Tokyo -1 日本の製造業との協業を強化して、IoTによる変革、新ビジネスの創出を目指す

SAPはいま様々な顧客企業やパートナーとともに、IoTによる価値創造に向けた取り組みを強化している。そんな中、先ごろ都内において「SAP IoT Summit Tokyo」が開催された。 インダストリー4.0を目指すドイツから来日したSAP幹部たちも参加。基調講演を行ったのは、バーンド・ロイケ氏とタニャ・ルカート氏である。

販売後にも顧客との関係を維持し、
新しいサービスを提供できる

バーンド・ロイケ氏
SAP SE 取締役最高技術・製品責任者

 いま、空港や港湾で、あるいは工場で、様々な場所に設置されたデバイスがネットワークにつながりつつある。2020年には500億の機器がネットワークにつながるとの予測もある。

 「センサーがデータを生み出し、大量のデータがコミュニケーションに影響を与える。こうした動きは、ビジネスとライフスタイルを大きく変革しつつあります」と語るのは、SAP最高技術・製品責任者のバーンド・ロイケ氏である。ロイケ氏はさらに続ける。

 「今後、データ自体が製品やサービスの主要部分を担うでしょう。企業にとって、データは差別化を可能にするとともに、新しいビジネスモデルを生みだす力にもなる。データは変革のキードライバーなのです」

 例えば、すでに実践フェーズに入った予防保守。多数のセンサーを実装した機械・機器は消費者とメーカー、ディーラーなど様々な関係者にメリットをもたらすことができる。ロイケ氏はクルマを例に、「よりよいサービスを受けられるドライバー、商品の差別化や信頼性向上を実現できるメーカー。加えて、ディーラーにとってのメリットも大きい」と語る。

 クルマに問題が発生してから、顧客がクルマをディーラーに持ち込むというのが従来のスタイルだった。エンジニアは原因を探り、パーツを交換するかもしれない。パーツの在庫がなければ、顧客を何日か待たせることになるだろう。クルマの不稼働は一般のドライバーにとってもストレスだが、建設機械やトラック、トラクターであれば機会損失や納期の遅れなどにつながる。

 「IoTが実装されていれば、クルマの状況を把握した上で、問題が発生する前にパーツを交換することができます。もちろん、在庫の手当ても事前にできるので、顧客を待たせることもありません。しかも、こうしたデータをサプライチェーン全体で見ることができるのです」

 クルマがIoT化されていれば、メーカーまたはディーラー(もしくは両方)は、販売した後も顧客との密接な関係を維持することが容易だ。クルマから常時生成されるデータをもとに、新しいサービスを提供するチャンスが生まれる。こうした新時代のビジネスを支える基盤として、SAPが提供しているのが大量データをリアルタイム処理する能力を備えたインメモリープラットフォーム「SAP HANA」である。

IoTで港湾をスマート化する
ハンブルク港における実践

タニャ・ルカート氏
SAP SE 筆頭副社長 COO

 予防保守だけでなく、社会インフラや工場などのオペレーション、ロジスティックの最適化、スマートなショッピングの実現など、IoTの適用領域は極めて広い。SAPの筆頭副社長COOを務めるタニャ・ルカート氏が紹介したのは、ドイツ・ハンブルク港における取り組みだ。

 「ハンブルク港のコンテナ取扱量は急増しており、港湾のスペースは逼迫しています。トラックやコンテナの動きが滞れば、事態はさらに悪化するでしょう。そこで、ハンブルク港はSAPと協力して、港湾設備やトラックなどの様々な要素をつなぐことにしました。例えば、船の入港が遅れるという情報は他の関係者にも共有されます。トラックのドライバーはこの情報を見て、港に入る時間を遅らせ、近くの適当な場所で待機します」

 これにより、港湾内にトラックが溢れるような事態を回避できる。このような仕組みを支えているのが、SAP HANAのクラウドプラットフォームである。

 SAP HANAは多様な種類のデータに対応する。構造化されたデータ、非構造化データを問わず格納してリアルタイム処理することができる。

 そんな能力を示す例として、ルカート氏が挙げたのが航空機のメンテナンスだ。運航中の飛行機からは、各所に設置されたセンサー経由で常に大量データがSAP HANAに送られる。フライト中にエンジンにトラブルが発生すれば、その情報は地上のオペレーターにアラートとして伝えられる。

 オペレーターは、問題の部分をエンジンの3D画像で確認することもできる。同時に、バックエンドのシステムと連携してメンテナンス履歴などを見ながらどこに問題があるのか、何をすべきかを探っていく。問題を特定できたら、交換すべきパーツの在庫を確認して整備担当の技術者をアサインする。SAP HANAはこうした一連のプロセスを支え、飛行機の運航やメンテナンス業務を最適化する。

日本の製造業とともに
イノベーションに挑戦する

 「IoTは既存のビジネスを最適化するだけでなく、ビジネスを新しいエリアへと拡張する力にもなります。こうした取り組みを、柔軟かつスケーラブルなプラットフォームとして支えるのがSAP HANAです」とロイケ氏はいう。

 もちろん、SAPというソフトウエア企業の力だけで、モノのインターネットが実現するわけではない。それは、ロイケ氏とルカート氏がともに強調したポイントだ。

 「製造業とITベンダーがチームとして取り組むことで、IoTによる変革を実現することができる」(ロイケ氏)

  「IoTやインダストリー4.0において、各産業で経験を重ねた企業の専門性や知見は不可欠。データそのものも、そうした企業が持っています。一方、私たちはSAP HANAというプラットフォームやベストプラクティスを提供することができる。両者が信頼関係を築き、オープンに協力し合うことでイノベーションを実現できるはずです」(ルカート氏)

 特に製造業の分野で、日本には世界的な存在感を有する企業、ユニークな技術力を持つ企業が多い。こうした日本企業とともに、SAPはイノベーションに向けたチャレンジを加速しようとしている。