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SAP IoT Summit Tokyo-2 本格化するデータ主導の競争、「最高の製品」だけで勝てるのか?

「SAP IoT Summit Tokyo」の第2部で講演を行ったのは、SAPシニアバイスプレジデントのニルス・ハーズバーグ氏である。同氏はIoTデータ活用の先進事例を紹介しながら、データ主導の競争が始まっていると語った。IoT時代、「最高の製品」だけで勝てるのか。それは、従来型ビジネスモデルに固執するすべての企業に対する問いである。

IoTの適用領域は非常に広い
問うべきは「何をしたいのか?」

ニルス・ハーズバーグ氏
SAPシニアバイスプレジデント

 バーンド・ロイケ氏とタニャ・ルカート氏に続いて登壇したのは、SAPシニアバイスプレジデントのニルス・ハーズバーグ氏である。同氏は「大事なことは、IoTを用いて企業が何をしたいかということです」と話し始めた。

 いま、あらゆる産業分野の企業が本格的なIoTのビジネス活用に乗り出している。「したいこと」は様々だ。例えば、リアル店舗をネットワークにつなげたい。製品をネットワーク化して、顧客によりよいアフターサービスを提供したい。物流を高度化したい。顧客に直接発注してもらいたい。こうした「したいこと」の先には、価値創造による収益の拡大、生産性や効率の向上といった目標がある。

 モノをインターネットでつないでダッシュボードで見るだけでは、価値を生み出すことはできないとハーズバーグ氏はいう。

 「アクションを起こすことが重要です。いずれは、様々なプロセスがアルゴリズムによって自動化され、大幅な効率化や品質の向上をもたらすでしょう」
ハーズバーグ氏は続けて、IoTで実現するアクションの連鎖について語った。

 「モノをつないで状況を理解することで、よりよい意思決定ができるようになる。それは製品やサービスの再設計を可能にするでしょう。再設計の結果はIoTデータとして収集され、再び理解、意思決定のプロセスにつながります。IoTを活用して、このようなポジティブな回転を実現している企業が増えつつあります」

 そんな先進企業の1つとして、ハーズバーグ氏が挙げたのがオーストリアの衛生用品メーカー、Hagleitner社である。トイレ用のペーパータオルや液体石鹸などを提供する企業である。

トイレのIoT革命がもたらした
効率化と衛生状態の改善

 Hagleitner社は5万人収容のスタジアムでIoTの革命にチャレンジした。トイレのゲート、液体石鹸やタオルのディスペンサーなどにセンサーを取り付け、トイレを利用した人数や液体石鹸などの利用状況や残量などを可視化。こうして生まれたスマートなトイレから集まるデータは分析され、清掃スタッフのモバイル端末に送信される。

 「どこのトイレで、液体石鹸が切れかけている」という情報が入れば、清掃スタッフは液体石鹸を補充する。こうして清掃業務の効率化とともに、トイレの衛生状態の改善がもたらされた。補充するモノを補完するスペースは小さくなり、CO2の削減効果もある。

 Hagleitner社はもう一歩踏み込んで、トイレのビッグデータをもっと有効活用できるのではないかと考えた。スタジアムに来場した観客が少なければ、いくつかのトイレを閉鎖することが可能だ。そこで、トイレの利用実績などのデータをもとにどのトイレを閉鎖するかを決めているという。

 「一部のトイレを閉鎖できれば、清掃の手間が省け収益性を改善することができます。Hagleitner社のようなシナリオを描けるかどうか、それがIoT活用を成功させるための大きなポイントです」とハイズバーグ氏。トイレがネットワークにつながる時代である。あらゆるモノがインターネットにつながるという表現は決して誇張ではない。

 同社はデータが存在しないところから、IoT活用のシナリオをつくり新しいサービスモデルを創造した。現在はデータを持たない企業であっても、同じようなチャレンジは十分可能だ。

 逆に、ほとんどデータしか持っていない企業による変革もある。「いま、データ主導の競争が行われています」と話すハイズバーグ氏が取り上げたのは、宿泊スペースを貸す人と借りる人とを仲立ちするビジネスを立ち上げたAirbnb、あるいはタクシーで同様の仲介機能を提供するUberである。

 様々な産業分野において、データ主導の競争はますます本格化しつつある。ハイズバーグ氏はこう問いかける。

 「データ主導の競争に立ち向かうのか、それとも、最高の製品があれば生き残れると考えるか。多くの企業がいま、岐路に立たされています」

 「最高の製品があれば」という考え方に対して、ハイズバーグ氏は懐疑的だ。同氏はSAP HANAプラットフォームを活用して新しいビジネスモデルを構築したKAESER KOMPRESSOREN社の例を挙げた。

新ビジネスモデルで顧客に提供する
「設備投資から変動費へ」という価値

 「KAESER社は、コンプレッサーなどの機械を工場などに提供してきた企業です。同社は最近、コンプレッサーで圧縮した空気を、立米当たりいくらという価格で売るビジネスを始めました。ユーザー企業にとっては、設備投資が変動費に変わるというメリットがあります。KAESER社のような企業と競争したとき、本当に製品だけで勝負できるでしょうか」

 同じようなビジネスモデルは、フォークリフトやコピー機などの分野にも見られる。例えば、コピー機のメーカーは従来からの販売事業の一方で、印刷枚数に応じて課金するというビジネスを拡大しつつある。

 IoTが加速するデータ主導の競争。そんな時代において、SAP HANAは多様なデータをリアルタイム処理するプラットフォームとして中核的な役割を担う。

 「多くの場合、デバイスやモノをつなぐだけでは十分とはいえません。IoTデータを集めて眺めるだけなく、アクションにつなげるためにはバックエンドのシステムとの連携が必要になります。それを実現するのがSAP HANAです」(ハーズバーグ氏)

 バックエンドの業務アプリケーションはSAP製品とは限らない。多様なシステムとの連携を実現するため、SAPはオープンへと舵を切り、標準化への取り組みにも積極的だ。

 最後に、ハーズバーグ氏は日本企業と一緒に取り組むチャレンジを楽しみにしていると強調した。

 「日本の製造業は長年、世界をリードしてきました。そんな日本にとって、IoTは非常に重要だと思います。日本企業とともにコ・イノベーションに挑戦したい。私たちはそう願っています」